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「顧客にふさわしい場を追求する」 データと感性を行き来する一休の躍進

ビジネスを変えるヒントは現場にある

――とても自律的な組織で、興味深いです。榊さんご自身はコンピューターサイエンスの出身で、データ分析の素養が元々おありですが、一方で非言語的な采配もされるのですね。そこはバランスを取られているんですか?

 バランスを取っている意識はないのですが、ただ、顧客インタビューなどを通して「あ、これはとても重要そうな意見じゃないか」と気づいたりするのって、完全に第六感ですよね。誰かに説明する際はロジックを探しますが、はじめからすべてロジックだけで割り切れるものじゃないな、と。

――そういう姿勢は、どういったきっかけで身に付いたのでしょうか?

 僕は一休の前にコンサルティングファームにいて、そこで「現場が大事だ」と日々言われてきました。顧客インタビューが発端で、クライアント企業の事業戦略全体を変えたことすらあります。

 たとえば、ある食品メーカーのアミノ酸サプリのプロジェクトを担当したときは、まず「どういう人がいちばん効果を体感しやすいか」を考えました。疲労回復のニーズがある、人口の多いスポーツとして登山に注目して、丹沢の山に登って山頂でサンプリングしたんです。効果を体感したら、ぜひ感想を送ってくださいとハガキも渡して。

 すると、サンプリングした方のうち6割もの人が、実際に購入したことがわかりました。手応えがあったので、日本でいちばん登山客が多いといわれる槍ヶ岳の頂上手前の山荘にも行きました。フィットネスジムのユーザーなど、他のターゲットでも試しましたが、登山がてきめんに効果がありましたね。実は、登山は登山クラブのようなコミュニティができていて、登山の途中で一人「疲れた」と脱落して、次から呼ばれなくなるのが何より怖いことだったんです。だから、疲労回復のニーズがとても強く、切実だった。

――なるほど、そんな心理があったとは!

 こういうディテールは、定量的なデータ分析では絶対に出てきませんね。だから僕は、今も毎週自分で一休のデータ分析もしていますが、顧客の心理を知る定性的なインタビューも欠かせないと思っています。

 ディテールもすべてが大事なわけではありませんが、天下を分けるディテールがあるということです。

自然言語処理を駆使して“検索の意図”を汲み取る

――第六感でヒントを見つけることと、データから示唆を得ることの両方を重視されているんですね。御社には若い社員の方が多く、特にデータサイエンティストをどんどん増やされていると聞いています。どのような素養が必要だと思われますか?

 そうですね、一言で言うと、若い人かな。これは年齢だけの話ではなくて、心が若くて、データや数字にアレルギーがないこと。そして、デジタルやプログラミングやAIの活用を前提に、ビジネスを考えられることが大事だと思っています。今の若い人は、そもそもデジタル社会で学生時代を過ごしているので、その上でビジネスを考えていくとスムーズですね。

 社内でも主にOJTで育成しながら、学びたい人には外部にもどんどん学びに行ってもらっています。昨年、僕自身がAIを学ぶスクールに数日集中で通って、宿題の代わりに社内データを使って予測モデルを試したりしていました。社内でのちょっとした話から、そのスクールに興味を持つ人が複数いたので、その後何人か通いましたね。

――様々な観点からのお話、ありがとうございました。最後に、本稿は2020年最初の号ですので、今年の抱負をお聞かせいただけますか?

 宿泊事業は引き続き主軸として力を入れますが、レストラン事業のほうでまだまだやるべきことがあると思っています。たとえば“今晩”のような直前の予約は、いまだに電話が主流ですね。これは馬車か車かでいうと馬車、ビフォア産業革命だと思うので、ネット予約をもっと進化させて、アフター産業革命の状態にしたいと思っています。

 また情報が飽和している今、やはり皆さん、検索に疲れてきていると感じています。事実、検索ワードも「渋谷イタリアン」だったのが「渋谷イタリアンデート」、さらには「夜景がきれい」まで追加されて検索されるようになっています。それだけ、目当ての候補を見つけづらくなっています。

 一休でも顧客の「検索意図」に沿った検索結果を表示できるように、一休のクチコミを自然言語処理して、サービスを改善しています。たとえば、一休では「母の日」に最適なレストランがわかるようになっています。なので、「ベスト・オブ・母の日レストラン」の1、3、5位だけを見て帰ったユーザーがいたら、母の日のレストランを探していること、そして2位と4位は見ていないことがわかる。すると、その人がまだ知らないオファーをする余地がありますよね。

 また2019年に開設したグルメ紹介メディア「KIWAMINO」では、特に送客の動線は張らずに、エグゼクティブ会食に適した店舗やシェフを紹介しています。ユーザージェネレーテッドのコンテンツが溢れている今だからこそ、プロのコンテンツへの回帰に着目し、より有益な情報を提供していきたい。

 “検索の意図”をもっと汲み取って、より楽に探せることを永遠に追求すべきだと思っています。「顔合わせ」、「法事」といったピンポイントな利用用途の検索でも、いちばんいいサービスを提供したい。インテリジェンスを駆使して、顧客を理解するプラットフォームを目指していきます。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

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MarkeZine(マーケジン)
2020/01/24 13:00 https://markezine.jp/article/detail/32768

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