テクノロジー活用で変わる教育の在り方
有園:コロナ禍による学校休校に際し、タブレットなどIT機器を活用した教育が展開されたのは公教育ではごく一部で奇しくもデジタル化の遅れを皆が感じたと思います。実は、私自身が関与している電通総研では「次世代」という課題を掲げていて、たとえば、20年後を担う子どもたちにどんな社会を残していきたいかなどをテーマに活動しています。
また、今年からビービットにも参画しているのですが、そこでは「UXインテリジェンス」というコンセプトを提唱し、教育のデジタル化についても、「Education as a Service」という観点からその受益者である子どもたち(児童・生徒)のUXを改善していくべきという考えを持っています。そこで今回は、政府のICT教育の考え方と展望、また民間企業が関わる余地について、内閣官房の立場で文部科学省、経済産業省等と連携してICT教育を推進されている吉田さんにお話をうかがいます。
吉田:教育の情報化は、実は古くて新しい話題です。それこそWindows95よりも前から、PCの教育への活用は議論されてきました。次第にインターネットが浸透すると、教育現場でインターネット接続により様々なコンテンツを教育の中でも活用すべきとなり、学校においてPCなどのIT端末を活用できるよう「学校のインターネット」の取り組みが1999年から始まりました。問題は、インターネット接続でした。その後の整備も、電子黒板などハード面の取り組みが多く、コンテンツ面では2015年ごろからデジタル教科書検討が本格化しましたが、普及は進んでいません。
これは一気呵成に進めないと、いつまでもICT環境が整わないと、政府が補正予算を大きくつけたのが昨年末です。
有園:予算の出どころは?
吉田:公教育は基本、地方財政措置といって、地方交付税から教育の予算を各自治体が振り分けます。2018年から5ヵ年計画で、合計1,805億円を教育のICT化に振り向け、まず、各校3クラスに1クラス分、つまり3人あたりに1台のPC設置を推奨してきました。ですが、地方財政として何に使うかは結局自治体次第なので、教育用の財源が実際は道路整備に割かれることもある。だから今回は「国費で3人に2台は賄う。だから1台は頼む」という議論を経て、決定しました。
AI社会に突入、社会の変化に応じたスキルを養う
有園:北海道から沖縄まで、ユニバーサルにということですね。併せてプログラミングや英語教育も始まり、国が大きく舵を切る印象がありますが、背景は?
吉田:まとめようとした意図はありませんが、後押しになった事象はあります。ひとつは3年ごとに行われるOECD(経済協力開発機構)の学習到達度調査、通称PISA(ピサ)の2015年の調査では学校でのICT使用頻度はほぼ最下位、2018年の調査でも、その傾向は変わりません。日本人は他国に比べてPCを使った思考力が弱いとの結果すら出てしまっています。一方で、インターネット上でのチャット利用やニュース閲覧は平均値を超えているので、ICTそのものには苦手意識はない。学校内での活用をなんとかせねばというインパクトから“PISAショック”と言われています。
もうひとつは、これからAI社会に突入しますよね。これは内閣府のAI戦略の文脈ですが、今後はプログラミングやコンピューターサイエンスの知識がどんな人にも必要な教養になるだろうと予想されます。高校でも情報Ⅰ・Ⅱという単元の授業ができるし、大学なら文系でもAIの単位が必須になったり、今後は法学・経済学等の専門教科とAIのダブルディグリーも増えるでしょう。そうしたことを含めると、やはり頭が柔軟な小学生のうちからプログラミングに接していればすそ野が広がるだろうと。これら、OECD調査とAI戦略は影響していると言えます。
有園:先ほど国費でとおっしゃいましたが、私自身も国費じゃなければと思っています。プログラミングやAI教育が必要だといった提言をするからには、国としてこんな人材を育てたいという意図があるのだろうと思いますが、どうなんでしょうか?
吉田:難しいですね。私としては、目指す人間像は画一的には示すべきではないと感じます。ただ、人材や人間像というと違和感がありますが、たとえばAI戦略の文脈でいうと、これから世の中の情報や経済の大半がネットワーク上で動くようになると、プログラム上で何が行われているかをある程度理解するのは必須だとは思います。そういった、社会の変化に応じたスキルを養う観点で、コンピューターサイエンスや数理教育はあってしかるべきだと思います。