この数ヵ月、世界は近年に類を見ないタフな時期を強いられた。否が応でもこれまでの生活を変えざるを得ず、購買行動や価値観にも影響が及ぶ中、様々な企業が自社のアセットを活かし、支援策やメッセージを打ち出す例が見られている。ウイルスとの闘いが中長期化しつつあることから、こうした動きは今後も加速していくだろう。そのときマーケターはいかにして、ブランドや顧客の利益と社会貢献を両立させることができるだろうか。ブランド戦略に明るい中央大学ビジネススクールの田中洋教授に、ポストコロナ時代に求められる企業の姿勢と実践を解説いただいた。
※本記事は、2020年7月25日刊行の定期誌『MarkeZine』55号に掲載したものです。
時代が進む要素と戻る要素 拮抗する現状を把握する
年明けから現在まで、新型コロナウイルスに端を発する様々な現象が一気に起こっています。一律に比較することはできませんが、私は大きく「時代が進む」「時代が戻る」の両方向の変化が起きていると捉えています。進む方向の最たるものは、IT化です。逆に戻る方向では、やや不穏な雰囲気が漂いますが、国家管理の台頭や相互監視社会などが挙げられます。経済が厳しくなる中、企業の淘汰も避けられないでしょう。
いつの世も、変化は決して一方向ではありません。企業は、相反する要素がせめぎ合う中でブランディングとマーケティングを考えていく必要があります。戻る方向の要素については本稿では図表での列記に留め、主に時代が進む方向の要素をフィーチャーしながら、「ブランドと社会の関係構築」という特集テーマに基づいて、以下3つの項目を紐解いていきたいと思います。
- 企業の対応と消費者意識の変化
- 今後のブランド戦略の展望
- 施策実践におけるポイント
前提として、そもそもブランドと社会にどのような関係があるかを整理します。元々「ブランド」とは、3つほど異なる次元で捉えられていると考えています。1つ目は、個人が考えたり感じたりするブランド。2つ目は、企業が所有する商標としてのブランド。そして3つ目が、社会に共有化された意味としてのブランドです。これは個人や企業がどのように思うかとは関係なく、またコントロールするのも難しいもの。ある程度ブランドが世の中に浸透すると、その意味は社会の中で共有化されひとり歩きするような存在にもなっていきます。このことから、「ブランドには社会的存在という側面がある」と言えます。
とはいえ、社会との関係性はブランドによって様々です。たとえば赤十字やユニセフのように、存在意義自体が社会貢献に根差しているブランドもあれば、収益事業を主としながらも、環境や社会問題に本腰を入れて取り組んでいるブランドもあります。パタゴニアや、ヤシの実洗剤などを提供するサラヤが好例です。サラヤは、パーム油の産地であるボルネオ島の熱帯雨林を守る活動に注力しています。
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田中 洋(タナカ ヒロシ)
中央大学名誉教授。東京大学経済学部講師。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣...
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