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社会課題に寄り添うパーパスドリブン・マーケティング マーケティングと企業理念を両立させるには

 昨今、ブランドが自らの理念を表明するマーケティング施策が増えている。たとえばプラスチックストローの廃止を表明したスターバックス、差別撲滅を訴えているナイキ、人種や性別に関係なく「その人らしさ」という個性を尊重するパンテーン、環境問題や労働環境の改善に取り組むZARAやユニクロなど、社会や環境に寄り添う姿勢をキャンペーンで展開することで市場の共感を生んでいる。このように、社会課題解決に寄り添う企業理念=パーパスをテーマにしたパーパスドリブン・マーケティングを、消費者や市場はどう見ているのか。この活動は今後、日本企業に根付くのか。大量消費時代から、持続可能社会へと転換するなか、企業活動は今後どうあるべきなのか。サステナリビリティに関する企業コンサルティングを手がける一般社団法人CSRコミュニケーション協会 代表理事 安藤光展氏と、『マーケター理子の成長記~パーパスドリブン・マーケティングを学ぶ~』の原作者であるひろもり氏、上智大学 経済学部経営学科 教授 新井範子氏が語り合った。

社会課題に取り組む「パーパスドリブン」な企業、市場はどう受け止めている?

MarkeZine編集部(以下、MZ):昨今、SDGsやサステナビリティ経営が注目されています。ですが、その大切さは認識していても、取り組む企業が少ないこと、そもそも企業活動にどう取り入れていいのかわからないという課題があります。今日はサステナビリティコンサルタントの安藤先生、『マーケター理子の成長記~パーパスドリブン・マーケティングを学ぶ~』の原作者であるひろもり氏と上智大学の新井先生を迎え、議論を深めていきます。

 まずは近年話題になっているサステナビリティについて、具体的に企業はどう考えており、それに対して市場や消費者はどのような声を上げているのか、大まかな状況について教えてください。

(左)『マーケター理子の成長記~パーパスドリブン・マーケティングを学ぶ~』原作者 ひろもり氏
(中央)一般社団法人CSRコミュニケーション協会 代表理事 安藤光展氏
(右)上智大学 経済学部経営学科 教授 新井範子氏

安藤:サステナビリティ分野では、企業と直接お金をやり取りし、影響力が大きい「三大ステークホルダー」という存在があります。第一に「投資家や株主」、第二に「従業員」、第三に「顧客や消費者」です。このうち、サステナビリティに最も敏感に反応していたのは、投資家・株主でした。彼らは2010年代半ばから、環境や人権に配慮した経営を求め、情報開示を要求していました。

 これに対し、従業員はどうかといえば、いまグローバルな先進企業では「従業員アクティビズム」という動きが起きています。簡単にいえば、自分が所属している企業の経営層に、環境対策を訴えたりする動きです。実際、2021年1月には、公正な労働環境の実現と倫理に基づくビジネスを求め、米グーグルが労働組合を結成すると報道され、話題となりました。こうした理念を起点に労組が結成されたのは初めてのことです。残念ながら、日本ではまだそうしたムーブメントはありませんが、今後出てくるかもしれません。

 最後の消費者についてですが、特に環境問題や人権、SDGsに関して意識が高いといわれているのが、1990年代半ば〜2000年代初頭に生まれた「Z世代」です。もちろん、全員がサステナビリティに関心があるわけではないのですが、私が知っている限り、関心を持つ人の割合は年々増加しています。

 一方、企業の意識は、こうした動きとややギャップがあります。端的にいえば、消費者の方が、意識が高い。実際、小学校(2020年度〜)、中学校(2021年度〜)、高等学校(2022年度〜)でSDGs教育が義務化されることもあり、これから10年経たずに、SDGsやサステナブルに対する意識が高い人たちが社会に出てくることが予想されます。その時、企業が何も変わっていなければ——今後10年ですぐ変わる可能性のほうが低いのですが——どうなっていくのかな、という印象があります。

MZ:2020年4月、電通が調査した「SDGsに関する生活者調査」によると、やはり10代の若い世代と、40代・50代との間で意識ギャップがあることが見て取れますね。実際に企業がパーパスドリブン・マーケティングを行う際、こうしたギャップがハードルになることはあるのでしょうか?

SDGsに関する生活者調査
出典:電通「SDGsに関する生活者調査」(タップで拡大)

ひろもり:企業のそうした取り組みに対する消費者の受け止め方は、様々ですよね。

 わかりやすい例でいえば、環境負荷軽減に向けた脱プラスチック(脱プラ)の動きのなかで、スターバックスのストロー廃止や、ユニクロの紙袋シフトという取り組みがあります。若者と親和性の高い企業の場合、こうしたアクションはSNSでパッと広がり、支持されますが、それ以前に脱プラに取り組んでいた企業も多いはずです。そこにギャップがあるんですよね。

 ただ、こうした動きが一瞬で広まり、支持されたことで、土壌が変わったことを企業自身が意識するようになるので、マーケティング活動を含め、企業活動にも変化をもたらすことがあるかもしれません。実際脱プラでは、消費財メーカー同士が企業の垣根を超えて、容器を回収し、リサイクルする取り組みを始めていますし、会社の枠を超えてみんなで考え、実践する時代になっているのではないでしょうか。

SDGs実現を目指す企業活動、Z世代の受け止め方に温度差

MZ:先ほどの電通の調査では、学生を中心にSDGsの認知率や共感率が高いという結果が出ています。新井先生は、普段大学で学生と接するなかで、そうした意識を感じていらっしゃいますか?

出典:電通「SDGsに関する生活者調査」

新井:正直なことをいえば、若年層にそうした意識が浸透しているかは、微妙なところだと思います。私が所属する上智大経営学科も、推薦入試で面接を行い、関心のある経営トピックスを尋ねるのですが、ここ数年は「企業の社会貢献」という回答が多いです。

 これは入試のための準備であって、実際に受験生がしっかりと理解し、関心があるかといえば、ちょっと違うような気もします。実際、数年前までは「グローバル化に興味がある」という回答が多かったんです(笑)。もちろん、環境や社会問題に関する意識が高い学生は、そのままボランティア活動をしたり、その理念の下で消費行動を行なったりします。

 また、昨今の学生はテレビや新聞・雑誌ではなく、SNSが情報源の中心です。そうすると、自分が興味関心のある人や物事しかフォローしていないため、自然と情報源がタコツボ化し、SDGsのことが絡んでこなければ、そのまま何も知らずに進んでいきます。接点がなければ、知ることは絶対にないんですよ。「彼らの日常生活や消費行動のなかで、パーパスドリブンを意識する」という点については、超えられない壁や溝があると思います。

 となると、やはり課題は、「普段彼らが興味を持つことのなかに、いかにそういうコンセプトを落とし込んでいくか」だと思います。たとえば女子学生は、やはりファッションに興味がある人が多いので、ZARAが取り組んでいるサステナリビリティや環境への対応については割と浸透しています。

安藤:製造業全般は高い問題意識を取り組んでいる企業が多いですね。目の前に「モノ」があり、それを製造する過程で廃棄物が出るので、わかりやすいですし。

 あとはやはり、新井先生のお話にも出ましたが、アパレルが盛り上がっています。アパレルは環境負荷が非常に高い業界の1つで、廃棄も多ければ、デザインの問題があってリサイクルもなかなか進まないという状況なので、市場から叩かれやすいんです。ユニクロを展開するファーストリテイリングなどは、海外拠点での労働環境において、人権の問題も絡めてグローバルで各方面から突っ込まれました。

 ただ、こうして消費者やステークホルダーから圧力があったため、企業自身も大きく変わったのが確かです。ファーストリテイリングの場合、アパレル業界で時価総額が世界トップになり、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の銘柄にも入り、サステナリビリティレポートも出したりなど、世界でさんざん叩かれたおかげで、かなり変わりましたね。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

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MarkeZine(マーケジン)
2021/03/15 08:00 https://markezine.jp/article/detail/35396

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