全店舗での本格導入がPMFのサイン
タイミーは代表取締役の小川嶺氏ら4人のメンバーが2017年8月に立ち上げた。現在の主力サービス・タイミーは“すぐ働きたい人とすぐ人手が欲しい事業者をマッチングするスキマバイトサービス”として2018年8月から運営している。
同サービスの特徴は、これまでアルバイトの採用時に当たり前となっていた「面接と応募」のフローを取り払ったこと。働き手となる個人はアプリ上で働きたい案件を選ぶだけですぐに働くことができ、勤務終了後にはすぐに報酬を受け取ることができる。一方の企業側も来て欲しい時間や求めるスキルを登録しておきさえすれば、条件にあった個人が自動でマッチングされる仕組みだ。
近年は少子高齢化の影響でさまざまな業界で人手不足が課題となっているが、タイミーでは「眠っている『潜在的な労働力』を掘り起こす挑戦」に取り組んできた。採用のプロセスを簡素化することで、今まで十分に活用されてこなかった潜在的な労働力を喚起し、顕在的な労働力へと変えていくサービス。小川氏はタイミーをそう表現する。
この特徴が個人と企業双方のニーズにも合致し、リリースから3年で200万人以上のユーザーと4万4,000を超える事業者に利用されるまでの規模に広がった。
そんなタイミーがPMFを迎えたのはいつ頃だったのか。小川氏は「30%の手数料を支払ってでもタイミーを全店舗で導入したいと思ってくれる企業が出てくれた時」がPMFだと考えており、そのタイミングはリリースから3ヵ月後に訪れたという。
「企業にとっては1度も会わずに人を採用するなんて、今まではありえなかったはずです。30%の手数料を支払ってまで、タイミーを本格的に活用したいと思ってもらえるのか。この検証を終えることが、僕たちにとってのPMFでした」(小川氏)
PMFに到達するまで、小川氏たちどのようなことを考え、実行してきたのか。その裏側に迫っていきたい。
プロダクトを作ってから「PMFに挑戦しよう」では遅い
「アプリを本格的に作る前からでもサービスの検証はできると考えていました。PMFに至るにはいろいろなプロセスがあるため、アプリが完成して初めて『よし、PMFにチャレンジしよう』という考えでは、手遅れになる可能性があると思っていたんです」
小川氏はPMFに対する考え方をそのように説明する。ではサービスを本格的に開発する前に何をすべきなのか。タイミーで重視したのは「どんなターゲットに、どんなコアバリューを提供するのか」を徹底的に考えること。つまり「ユーザーに一番刺さるのは何か」を考えることだったという。
そもそもタイミーは小川氏自身の原体験が一つのきっかけとなって生まれている。実際に日雇いのアルバイトをいくつも経験する中で、その度に応募と面接が苦痛だと感じた。面接を経て、先方から「採用します」とレスポンスがない限り働き始めることができない。
「特に日雇いの場合は明日にでも働きたいニーズがあるのに、即レスがない。根本的に働きづらい環境になっていました。ユーザー目線ではスキルなどの条件に合致していれば、働きたいと思った瞬間に働けて、すぐに給料がもらえるべき。リーガルの問題や実現可能性などは一旦置いておいて、あるべき姿から考えていったのが原点です」
当時小川氏は現役の大学生であり、自身だけでなく周囲の学生には間違いなくニーズがあると考えた。だからこそPMFに至るまでの初期フェーズにおいては、求人を出す企業側の声にフォーカスしたという。
「『(面接もせずに)当日いきなり店舗に来た人がきちんと働けるのか』『30%の手数料は高い』など、いくつか企業側が気にする可能性があるポイントも想定していたので、それが受け入れてもらえるのかをまずは検証しようと考えていました。サービスの特性上、企業から案件を出してもらえなければサービスは成立しませんし、反対に案件が増えれば働きたい人とのマッチングも活発になります」(小川氏)