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マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

人生100年パートナーを目指して「顧客志向型組織」への変革に挑む野村證券

顧客起点の営業組織「The PODs体制」

――今春には営業組織を「The PODs体制」に移行し、さらに8月には「マーケティングフォース」という横断チームも立ち上げられています。まず、The PODs体制について教えてください。

湯原:The PODs体制は、企業の都合による“商品ごとの縦割り組織”ではなく、お客様ごとに最適なものを提案できる“顧客起点の営業体制”を指します。お客様が商品ではなく「コト」や「体験」といった精神面を重視し、ライフスタイル・ユーザー志向が多様化する中、もっと効果的に、お客様に寄り添った提案が必要ではないか、という課題意識が生まれていました。

湯原:未来共創カンパニーとの部門横断でのアイデアや開発等の協業がうまく回り出しても、最終的にお客様に相対する営業部門が商品別だと、やはりプロダクトプッシュの姿勢から抜けきらない。たとえば本社各部署が「デジタルを使ってマーケティングしよう」と考えると、当然ですがお客様に株や投資信託などの金融商品をどう買っていただくかという考え方になりがちです。しかし、金融商品は、今日これを買ったほうがいいお客様もいれば、今は適切なタイミングではないお客様もいる。個々の事情によって、最適な提案が大きく違ってきます。

 そもそも当社は2018年に、お客様の「人生100年パートナー」になると宣言しており、実際にプロダクト自体はお客様の人生の流れに沿って、必要と思われるものを全部そろえています。それゆえ、「お客様の人生において必要なときに必要なサービスを」という思想を営業の現場にも適用し、実際に遂行できる仕組みを作る必要性は認識していました。

 この課題に対して高広さんから提案いただいたのが、The PODsです。考え方や状況が似ている顧客層を設定し、組織横断でマーケティングに携わる人を出し、その顧客層のカスタマージャーニーに沿って最適な提案ができるようにしました。具体的には、「法人・オーナー」「富裕層」「マスアフルエント」「職域・N&C(ネット&コール:オンライン専用支店)」の4つのセグメントを設定しています。

The PODs のイメージ図(クリック・タップで画像拡大)
The PODs のイメージ図(クリック・タップで画像拡大)

――高広さんは、なぜThe PODsを提案されたのですか? 他に導入企業はあるのでしょうか。

高広:未来共創カンパニーはどちらかというとDXの文脈で設立されていましたが、次第に今必要なのは「CX型ビジネス体制」の構築ではないかと皆さんと話をするうちにわかってきました。マーケティングだけでなく営業の体制も、カスタマージャーニーをベースにしたものに組み替えることが、人生100年パートナーの実現に結び付くだろうと。そこで、顧客セグメント別に営業組織を改革する、The PODs体制がフィットするのではと考えたのです。

 実際に導入しているのは、国内では今のところ野村證券だけだと思います。ただ、マーケティングだけでなく営業体制も顧客に寄り添った仕組みにしていくのは、日本の企業が向かう方向性のひとつだと考えています。

顧客の人生100年パートナーになるには

――「人生100年パートナー」の実現に向けて、必然的な動きでもあったということですね。

湯原:そうですね。野村證券からの連絡は、商品提案が多いという印象がお客様にあったかもしれません。ですので、「人生のパートナー」として認めていただくため、The PODs体制の構築は必然的な動きでした。

 また、コロナ禍の影響で、営業担当者がなかなかお客様のところを訪問しにくくなってしまいました。するとやはりデジタル上でお客様の動きを察知しながら、そこに合わせてうまく“心地よいサービス”を提供していくことが必要です。その点でも、商品起点ではなくお客様を起点に、カスタマージャーニーに沿って提案していく重要性が増していました。

――The PODs体制への移行はかなり大きな改変だったのではと思いますが、どのような経緯があったのでしょうか?

金城:移行してから半年なので、今はまだよりよい体制に向けて試行錯誤しています。それぞれのPODに加わるメンバーは、現業も進めながら組織横断の取り組みに加わることになるので、その部分のリソースの割り振りが目下の課題です。

 半年の成果としては、より意識をお客様起点にシフトできたことだと捉えています。POD毎に実施タイミングに前後はありますが、まずは前述の4つのセグメントごとにカスタマージャーニーを喧々諤々議論しながら作成しました。そして、PODメンバーで作成したカスタマージャーニーが本当に正しいのか、顧客起点になっているのかをお客様にインタビューしながら確認し、精緻化していったのです。この過程で、頭ではわかっていた“お客様起点”の考え方を体得でき、今ではそれをベースにメンバー間で会話できるようになりました。

 なかなか対面での新規顧客開拓が難しい中、デジタルを使ってどうお客様にサービスの認知を拡大するかは大きな課題です。ただ、サービス認知拡大、リード獲得したら終わりではなく、次にどのように関心を持っていただけるようナーチャリングするのか、どのような提案ならお客様のパートナーになれるのかをすべて設計した上で個別施策に落とし込むことが重要です。それが根付くように、PODメンバーは毎週何らかのタスクを担っており、皆で毎日議論とワークをしています。

――既に具体的な事例が走り始めており、大きな変革なのにスピードがかなり速いのではと思います。どういったところにポイントがあるのでしょうか?

金城:トップダウンでメッセージを出してもらいつつ、ボトムアップの活動がどんどん回るように促している、というところでしょうか。やはり、これまで縦割りで業務に取り組んできたので、いきなり横串でといっても実務と同時に心理的障壁も大きいです。従来の考え方のままだと、PODでの業務について、現業の上長には一つ一つ細かな点まで承諾を得るべきかといった懸念も出てきます。

 そのため現業の部門ともコミュニケーションを重ね、理解を得ながら細かな部分を整理していきました。その上で初期はある程度トップダウンで推進していくことで、次第に年次や立場を超えて意見が活発に出るような土壌ができてきました。

 また、前述のお客様インタビューを皆で傾聴したことも、自分や自分の部署だけではお客様の課題解決や期待に応えられないとの実感につながりました。縦の仕事をしっかり進めながら、PODの活動に柔軟に取り組めるようになってきています。

高広:補足すると、カスタマージャーニーを作って顧客の購買プロセスを理解すると、自分の関わる範疇とともに、他のメンバーの仕事も見えてきます。そのプロセスが、マーケティングと営業を横断した改革においてとても大事です。The PODs体制になったときのカスタマージャーニーやペルソナ設定を、実務に関わる人全員で作ったのが、今回のポイントだったと思います。

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案件を横断して支援するマーケティングフォース

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/12/24 06:00 https://markezine.jp/article/detail/37965

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