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「インバウンドの思想」をマーケティングに~実践事例とその思考プロセス~

広告へのネガティブな印象を生まない。受け手に喜ばれる「インバウンドなオンライン広告」とは


 創業時よりインバウンドの思想を提唱し、以来グローバル全体でインバウンドを実践してきたHubSpotが、実際に取り組んできた施策とその施策を実施する際の思考を交えながら、インバウンド実践のプロセスをご紹介する本連載。第一回では、「顧客から価値を受け取る前に、こちらから価値を提供し、顧客に満足してもらう」という思想である「インバウンド」の大要をご紹介しました。連載2回目では、具体的に「インバウンド」なオンライン広告とはどのようなものなのか、その実践プロセスと注意すべき点を、複数社でデジタルマーケティングに携わり、現在はHubSpotのコンテンツ制作および広告運用等に幅広く携わるHubSpotマーケティングマネージャー 室橋 健がお伝えします。

インバウンドな広告のゴールは「ポジティブな出会い」の創出

 「まったく興味がないバナー広告が、また出てきた」「何度も表示される動画広告に、コンテンツ視聴の割り込みをされているような気持ちになる」このように、広告にウンザリした経験を持つ人は多いのではないでしょうか。ネガティブな感情しか生まない広告は逆効果であることを、自身で体験し、感じているマーケターも少なくないと思います。私自身キャリアを通してマーケティングに携わっていますので、自分がまったく興味が持てないオンライン広告や動画広告が出てくると、ターゲティング設定はどうなっているのか、代理店に任せきりになっていて広告担当者がいないのではないかと感じることがよくあります。

 しかし、もしその広告が見ている人の役に立つものだったら? しかも、まさに求めているタイミングでその広告が現れたらどうでしょうか? 「これこそが自分の求めていた情報だ」と、受け手は広告に対してポジティブな感情を持つでしょう。これこそがインバウンドな広告の目指すものです。

 一方で、オンライン広告のコンテンツ作りや運用においては、CPA(顧客獲得単価)を下げることや、コンバージョン数のみがゴールになりがち。その中で、相手を惹きつけるコンテンツや広告運用とはなんなのか、自社で実践できそうなことを具体的に思いつかず悩みを抱えるマーケターも多いのではないでしょうか。

 大学卒業後すぐにマーケターとしてキャリアを開始した私が、インバウンドの思想に出会い実践し始めたのは、デジタル製品の開発・製造・販売を行うアンカー・ジャパンでHubSpotを導入し、「受け手に役に立つ」コンテンツ制作を始めたことがきっかけでした。HubSpotに入社した後も、常にインバウンドな広告とは何かを考え議論をし、試行錯誤を繰り返しています。「広告」には様々な種類がありますが、今回は、実際に私が今、HubSpotで担当しているオンラインの広告コンテンツ作りと運用について、具体例を交えながらご紹介します。

大切なのは「役に立つコンテンツ」を提供すること

 インバウンドのコンセプトは「相手に必要とされる情報を提供し、まず役に立つこと」。インバウンドな広告とは、従来の「割り込み型」広告ではなく、受け手を惹きつけ、好意を持ってもらえる広告です。HubSpotが考える、「役に立つ」「好意を持ってもらえる」広告が満たすべきと考える条件は以下の3つです。

  1.  広告が検索者の検索クエリや興味関心に沿った解決策・サービスを提供する
  2.  広告のターゲットが自社のバイヤーペルソナと一致している
  3.  バイヤーズジャーニーの次のステージへ適切に誘導するものである

 では、どのように上述の3つを満たす広告を設計していくか。私が担当しているebook制作とebookに誘導する広告の制作を事例にご紹介します。

 HubSpotでは、自社ブログ内で、ビジネスの課題解決に役立てていただけるコンテンツを無料で提供しています。さらに詳細の情報を提供するために、無料でダウンロードいただけるebookやホワイトペーパー等のダウンロードコンテンツもご用意しています(参考:HubSpot Japanのebook一覧ページ)。初めてHubSpotに出会う顧客に、短絡的に製品の購入を促すような広告を打つことはしません。当然のことのように聞こえるかもしれませんが、まずは広告の受けとる方の役に立てる情報・ノウハウをまとめたコンテンツ(当社の場合はすべて無料)を提供したり、無料で活用できるツール・機能を紹介したり、相手に喜んでいただけるような「出会い」を設計するのです。

 ebookを企画するにあたり、まず、誰に見てほしいのか。見てほしい人はどのような課題を抱えているのか、どんな状態になって欲しいのか、どんな行動を持ってもらいたいのかなど、想定するターゲットと真摯に向き合い、そのターゲットに対して「役に立つ」コンテンツを制作します。より具体的にターゲットをイメージできるように、営業の録画を見たり、営業から広告やコンテンツのフィードバックをもらう機会を定期的に設定したりしています。

 たとえば、私が担当した「2022年度版 Instagramエンゲージレポート」では、最新のデータや実践方法および具体例を元に、マーケティングおよびSNS担当者がすぐに活用できるノウハウやコツ等を50ページほどのレポートで細かく紹介しています。もちろんHubSpotを使わなくても実践できる内容となっています。必ずしも自社製品の販売促進は行わず、活用されるコンテンツであることを最重要視しています

「2022年度版 Instagramエンゲージレポート」の一部(クリックすると拡大します)

 2022年6月現在、HubSpot Japanでは200ほどのebookを用意しています。そう聞くと、「そんなにたくさんの数は用意できない」と思われる方もいるかもしれません。でも、まずは1つから、本当に役に立てるという情報を発信してみてはいかがでしょうか。たとえばTikTokのマーケティングが強い会社は、「TikTokマーケティング活用ガイド」を作成する。自社のバリューが最も発揮できる内容でebookを作り、まず「ひとつ」で勝つというスタンスで始めるといいと思います。目指すのは、スモールサクセス。実際にHubSpotでも、いきなり200のebookを揃えることができたわけではなく、一つひとつの積み重ねで今があります。

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この記事の著者

室橋 健(ムロハシ ケン)

HubSpot Japan株式会社
マーケティングマネージャー

大手人材会社のSEO、観光インバウンドベンチャーのInstagramマーケティングを経て渡英。英国のデザインスクールで修士号取得後、2017年にAnkerに入社。 Anker公式オンラインストアの立ち上げ、HubSpotの導入を実施。合計5つの製品をベス...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/08/16 14:54 https://markezine.jp/article/detail/39431

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