情報との出会い方はAIDMAからALSASへ
電通メディアイノベーションラボで主任研究員を務める天野彬氏は「時代の流れとともに情報収集の方法が変化してきた」と指摘する。新聞・テレビのように伝統的なメディアが主流だった時代を経て、2000年代にはサーチエンジンが誕生。誰もが情報発信できる時代になった。2010年代はSNSが発達し、2020年代はAIやアルゴリズムなどによる情報収集の自動化が注目を集めているという。
アルゴリズムの台頭により、消費者の行動プロセスも変化しているそうだ。天野氏によると、消費者が情報を受動的に受け取る時代は「AIDMA」が代表的なモデルだったが、自分で検索して情報を探す時代には「AISAS」が、そして現代はアルゴリズムが起点にある「ALSAS(アルサス)」が新たな情報行動モデルとなりつつある。
「ユーザーがコンテンツを発見する時代から、コンテンツがユーザーを発見する時代へと変わってきています。この時代の主役がショート動画です」(天野氏)
ショート動画の主要プラットフォームであるTikTokのアルゴリズムは、厳密には開示されていない。しかしながら天野氏いわく、TikTokでは二つの指標で動画の良し悪しを判断しているという。
第一の指標は視聴時間・視聴完了率だ。興味がない/つまらないと感じる動画を即座にスワイプ可能なTikTokのUIにおいて「視聴時間・視聴完了率は重要なシグナルになる」と天野氏。第二の指標は「ユーザーのアクション」である。いいね!・コメント・動画シェア数など、動画に対してユーザーが起こしたアクションの多寡によって評価を行っているとのことだ。
「SNS全般で、この考え方に則ってアルゴリズムが構築されています。アルゴリズムのゴールは明確です。ユーザーがより長い時間プラットフォームを利用することにあります」(天野氏)
尖ったコンテンツが真似されて広がる
ショート動画の普及によって、どのような影響が生じているのか。天野氏は第一の影響として「アテンションの獲得合戦」を挙げる。
「リーチはお金で買えますが、アテンションは買えません。見る/見ない、シェアする/しないはユーザーが決められます。ショート動画の台頭によってコンテンツが増加する一方、ユーザーの時間は有限なためにアテンションの価値が高まっているのです」(天野氏)
第二の影響は「クリエイター数の爆増」だ。ショート動画の制作ハードルが長尺の動画に比べて低いことに起因している。続いて天野氏は「キャラ立ちしたコンテンツのスケーラビリティ」を第三の影響として指摘。ショート動画を含めたSNSプラットフォームにおいては、特定の分野に“尖った”コンテンツであっても十分な数のファンを有するコミュニティが形成され得るためだ。天野氏はショート動画がエンタメ業界にもたらした影響として、K-POPアーティストのダンスを例に挙げる。
「かつてのK-POP業界においては、アーティストが難易度の高い歌とダンスをYouTubeで披露する戦略が一般的でした。しかしながら現在は、ユーザーがSNSで切り取る/真似することを前提とした戦略が広まっています。多くの人が真似できるキャッチーなポイントを振り付けに盛り込むことで、ユーザーがそのポイントを切り取り、ショート動画として拡散する流れを狙っているのです」(天野氏)
K-POPアーティストのダンスをユーザーが真似して拡散するような情報の流れを、天野氏は模擬や模造を意味する言葉を用いて「シミュラークル型」と表現する。アーティストに限らず誰かが発信した情報を発端が不明のまま多くの人が憧れ、共感を抱いて模倣するのが現在の拡散の仕組みだという。