顧客が言語化できない課題こそインサイト
中澤:石川さんが「インサイトを見つけた」と感じたのはどのような場面ですか。
石川:お客様に解約理由をインタビューした時に「あまりにも好みにドンピシャのお洋服が届いて、持っているお洋服と同じだから辞めた」という話をされました。レコメンドの精度が高いことが解約の理由になった、というのが衝撃でした。
石川:ここで初めてわかったのは、「今持っているお洋服とドンピシャのものが欲しい」わけではなく、「好みに近いが自分では選ばない、少し冒険できるお洋服が欲しい」ということです。
ですが、お客様自身もニーズを言語化すると「ぴったりのお洋服を届けてほしい」とおっしゃると思います。しかし、それでは結局「違うな」となってしまう。
そこにインサイトがあると気付きました。インタビューを行った時の最初の答えから少しずつ深掘りしながら、「本当に欲しいものは何か」を類推する必要があるとわかりました。
中澤:まさに「インサイトとニーズは違う」ということですね。インサイトは顧客の隠れた欲求や言語化できない課題だからこそ、聞いてもなかなか出てこない。会話をしていく中でお客様自身の欲求に気付かれる瞬間があるんですよね。
インサイト発見のキーワードは「類推」と「実際の反応で確認」
中澤:インサイトを見つける時には、ニーズと違うことを理解しているかどうかは非常に重要ですが、お二人はその違いをどのように判断していますか。
宮木:お客様が言っていることをそのまま信じるのはインサイトの発掘ではないと確実に思っています。ただ、「これがインサイトだ」と確認する術もありません。そのため、思い込みもあるとは思いますが、想像力で補う部分もあると思います。
だからこそ、それらを踏まえて出来上がったアイデアやプロトタイプで本当に顧客は動いてくれるのか、つまり想像したインサイトが本物だったか否かを、「テストしてみる」ことが極めて大事だと思います。
石川:前述のエピソードの時点で「インサイトだ!」と腑に落ちていたわけではありませんが、経験を積むにつれて少しずつニーズとインサイトの違いがわかってくる場面が増えてきました。今では、お客様が仰っているニーズをベースに、抽象化して深掘りしたものがインサイトなのではと思っています。
中澤:インサイトを見つける時のキーワードの一つが「類推」ですね。類推は言い換えると抽象化なので、与えられた情報を断片として捉え、抽象化することがポイントです。
もう一つは「インサイトは確認ができない」ということ。だからこそ実際にアウトプットして反応を見る以外では答え合わせができないのが、インサイトの特徴であると思います。
インサイト発見スキルの育成に必要な「三つの要素」
中澤:インサイトを見つける能力は生まれ持ったセンスでしょうか、それとも育成できるものなのでしょうか。
宮木:育成できるものだと思っています。実際、弊社ではOJTに取り組むことで、マーケティングのスキルや経験がなかったメンバーたちも数多くの経験を積み、少しずつインサイトの発見ができるようになってきていると実感しています。
インサイトの発見方法を部下に伝えていく中では、三つの要素を大事にしています。
一つ目は、「出ろ」です。対話のために積極的に社外に出ることはもちろん必要ですし、自分の既成概念の外に出ろと言う意味もあります。
二つ目は、「いけ」です。データだけ見ていてもインサイトはわからないため、お客様の現場に直接足を運ぶことが重要だと考えています。
三つ目は、「やれ」です。何かインサイトを発見したら、提案を作るなり、誰かに話すなりと行動に移すことが大切だと思っています。
宮木:この三つのアクションを繰り返すことに加え、顧客を取り巻く環境を俯瞰する「鳥の目」や、つぶさに行動観察する「虫の目」による振り返りと整理も重要視しています。ビジネスモデルキャンバスやバリュープロポジションキャンバスといったフレームワークを活用しながらチーム内で振り返り、整理することでインサイトを発見する能力は磨かれていくと思います。