「顧客視点が足りない」アイデアは、やり直す
長:このような顧客理解は具体的にどのように行っているのですか?
伊藤:まず自分たちが「いいじゃん!」と思えるものを作り、その上で社内アンケートや外部調査、決済データによる分析を行うというプロセスです。というのも、クレジットカードが当たり前の存在となった今、社員一人ひとりが「生活者としてのカード利用者」でもあります。毎日カードを使う中で「自分たちが本当に欲しい」と思えるものを作れば、それはきっとお客様にも響くはずだ、という確信が経験則として積み重なってきました。
長:お客様自身もまだ気づいていないインサイトからアイデアを生み出すには、私たち自身もユーザーであるという「顧客視点」を持って仮説やアイデアを考え、それを顧客データや調査で検証していくわけですね。この顧客視点を磨くためにはどのようなことをしたらいいでしょうか?
伊藤:毎週オンラインで共有会を実施しています。各メンバーが基本項目に沿って週次の活動報告を行うほか、企画段階のアイデアも共有しています。特徴的なのは、役職や年次に関係なく、若手から管理職まで幅広く、多くの社員が参加していることです。この場を通じて、それぞれがどのように課題を捉え、どのように解決策を導き出しているのかを共有できています。
ここで「顧客視点が足りない」と判断されたアイデアは、最初からやり直すことになるケースも多々あります。
長:それほどの規模の組織でも、顧客視点が徹底されているのですね。
ちなみに代理店や調査会社といった外部パートナーとともに施策を行うことも多いかと存じます。顧客理解がずれないよう、タッグを組む上で気をつけている点はありますか。
伊藤:オリエンテーションの資料が鍵になると考えています。顧客像や背景となる課題など、様々な要素を論理的かつわかりやすく伝えることが、プロジェクトの成否を左右する重要な要素となります。そのため、オリエン資料の内容は特に注意を払っています。プロジェクトの方向性を正しく共有し、効果的な施策展開につなげるための重要なプロセスです。
データを顧客視点で解釈、意味づけする
長:プロセスを進める上でのポイントはありますか。
伊藤:やはり調査結果に頼り過ぎないことを挙げます。調査というのは、ある一時点のデータを切り取ったものに過ぎないからです。とはいえ、データは周囲を巻き込む説得材料として重要です。納得していただくことが難しい場合は、データの見方を変えて説明します。
たとえば、多くの人が「番号はカードに印字されている必要がある」ケースでも、「番号確認が必要なのは、ECサイトでの買い物時がほとんど」という事実から、「三井住友カード ナンバーレス(NL)」はニーズがあるという洞察を示せました。また、番号が印字されていないと、情報を盗み取られる可能性が低くなるといったメリットを説明しました。
あとは「実現したい」という熱意だと思います。
長:データの裏側にある「お客様が本当に何を考え、何を求めているのか」と洞察を示すことで、「確かにその通りかもしれない」という関係者からの共感を得やすくなるのですね。データは重要な判断材料ではありますが、それを顧客視点で解釈し、意味づけすることでより説得力が増すと思いました。
KPIについても伺いたいです。ビジネスを成長させている中で、具体的にどのようなKPIを設定し、戦略の修正を行っているのでしょうか。
伊藤:カード事業では、KPIの設定が比較的明確です。主要な指標として会員数と利用金額があり、これらの目標値に対して、相関性の高い行動指標、たとえばアプリへのログイン率などを設定していくというオーソドックスなアプローチを一つの軸としています。加えて、利用金額とサービス利用数の関係性を定点観測しています。これらの指標をトラッキングすることで、現状把握と方向性の確認を行っています。