現場の声がプロダクトを動かす。広告会社とSpotifyが回すフィードバックループの全貌
コマースメディアやモバイルマーケティング領域における営業・事業企画の統括に加え、複数の外資系スタートアップの日本事業立ち上げを経験。その後、スポティファイジャパンに入社。業種担当のクライアントパートナーや広告会社担当のエージェンシーパートナーと密に連携し、アカウントマネジメントからアドオペレーションまでを担うカスタマーサクセス本部の日本チームを統括。
林:Spotifyでは2026年2月、「Spotify Advertising Agency Awards」を初開催し、個人賞「Amplifier」を設けました。Spotify広告マネージャーの導入・活用推進への貢献、社内での教育、新たな取り組みの推進といった多角的な貢献を表彰するものです。
通常、広告会社を対象としたアワードといえば会社や部署単位での表彰が多い中、個人を対象にした点はかなりユニークだと思っています。その第一号受賞者が小尾口さんです。
小尾口さんの貢献は非常に大きいのですが、特に印象的なのは「英語で書かれた60ページものフィードバック資料」です。グローバルチームの責任者クラスが来日していたタイミングで持参されていましたよね。作成の背景にあった思いを聞かせていただけますか。
前職のアドテク系企業でDSP運用を経験後、電通デジタルに入社。DSPの運用チームを経て、社内公募制度を利用し、プラットフォーム対面のチームへ異動。現在はSpotifyを担当し、運用からセールス推進、媒体社との連携まで幅広く携わる。
小尾口:Spotify広告マネージャーは当時立ち上げフェーズにあり、機能面で整っていない部分もありました。そこで、実際に運用を通じて感じた課題や、「こうなればもっとクライアントに良いものが届けられる」という視点を資料にまとめました。
「グローバルチームの方々にフィードバックできる場がある」と聞いていたので、そこに向けて準備した形です。スタンスとしては、一人の広告会社の担当者というよりも、Spotifyのプロダクト担当者の一員のような意識で取り組んだつもりです。
林:日本市場での運用実態をもとに丁寧に作り込まれ、Spotifyとしても、あれほどのものを持ってきていただけるとは正直想定していませんでした。受け取ったグローバルチームはすぐに社内へ共有し、実際のプロダクト改善につながっています。
「広告会社からのフィードバックをプロダクトに還元する」。このサイクルを着実に回していくことが、カスタマーサクセスとして私たちが大切にしているミッションの一つです。小尾口さんのように、プロダクトの成長を自分ごととして考えてくださる方との協業があるからこそ、そのサイクルが力を持ちます。日本の現場からの声をプロダクトに活かしながら、協業の深度をさらに高めていきたいと思っています。
スクリプトさえあれば2営業日。無償の音声制作ツールが変えた、提案の会話
林:Spotify広告マネージャーの初期導入フェーズでは、小尾口さんが電通デジタル社内での普及を大きく推進してくださいました。当時どのような課題があり、どう乗り越えてきたのか、具体的に教えていただけますか。
小尾口:課題は大きく2つありました。1つ目は、音声広告のクリエイティブ制作に関するハードルです。当時は、音声広告の制作にはコストや時間がかかるというイメージがあり、活用を検討する企業にとって導入のハードルとなっていました。その突破口になったのが、Spotify広告マネージャーに備わっている無償の音声制作ツールです。
小尾口:スクリプトさえ用意すれば2営業日ほどで音声素材が完成するため、新規素材の制作ハードルが劇的に下がりました。「コストや納期の負担を抑えながら、まずは試してみよう」という会話ができるようになったのは大きな変化でした。
2つ目は、音声広告の活用価値を社内外に広げていくことです。 Spotify広告マネージャーは従来の予約型広告とは異なる特徴を持つため、その特性や有用性を継続的に共有し、提案につなげていく取り組みが重要でした。
そこで2025年からは、新しいアップデートが出るたびに自分で試して事例化し、月1〜3件のペースで資料化しました。営業がそのまま提案に活用できる形で情報を整理することで、音声広告への理解促進と提案機会の拡大につなげてきました。
サウンドオンの時代。ミュートされないマーケティング戦略を、Spotifyと考えませんか。
AI・ストリーミング・コネクテッドデバイスの普及により、音声は補助的なチャネルから中核メディアへと進化しています。広告主の80%が「デジタル音声は他メディアより信頼を得やすい」と回答。Spotifyが発行する最新インサイトレポートで、音声マーケティングの今と未来を読み解きましょう。
帰宅時間にもチルアウトな感情にも。日々の生活に “寄り添う広告”
林:プラットフォームとしてのSpotifyの特性について、運用者の視点からどのように評価されていますか。
小尾口:Spotifyの最大の魅力は、ユーザーの生活のあらゆるシーンに入り込める点だと思っています。通勤・通学、料理、就寝前、ドライブ中……ユーザーが手を止めることが難しいタイミングを含む幅広いモーメントに配信できますし、「ながら聴き」のユーザーに対して広告への抵抗感を感じにくい状態で接触できるのも特徴です。
また、音楽を聴いている時間はユーザーがポジティブな状態にあることが多いという点も重要です。コンテクスチュアルターゲティングにてプレイリストのトーンというターゲティングがあり、ユーザーの感情を捉え、「チルアウト」や「恋愛」といったプレイリストの雰囲気に最適化した配信を行うこともできます。ユーザーが前向きな状態にある瞬間を捉えられるのは、運用者から見ても大きな強みであると感じています。
小尾口:他にもファンベースという機能では特定のアーティストを指定してそのリスナー層にアプローチできますし、In-Car(車内)の広告メニューも引き合いが増えています。
このように、生活に寄り添うコンテンツとしてユーザー体験を損なうことなく、ポジティブな文脈で届けられるSpotifyには、音声ならではの固有の価値があると感じています。
音楽アプリの枠を越えたプラットフォームへ
林:そうした評価をいただけるようになったSpotifyですが、グローバルでは20周年、日本に上陸してから今年で10年になりました。この間に最も大きかった変化は、日本においても音楽や音声を取り入れたユーザー体験が生活に深く浸透してきたことだと考えています。ワイヤレスイヤホンの普及によって生活者にとっては「聴く」体験がより身近になり、さらにコロナ禍でのリモートワークを経て、「ながら聴き」という行動が一気に日常化しました。

林:グローバルの月間アクティブユーザーは7億6,100万人(前年比12%増)に達していて、国内ユーザーについてもZ世代から45歳以上まで各世代にわたってバランス良く利用されています。2025年9月には無料プランを大幅に刷新し、プレミアムと同様に聴きたい曲を自由に再生できるようになりました。
その結果、アプリの滞在時間が26%増加しています。AI DJ、ミュージックビデオ、ChatGPT連携、ビデオポッドキャスト、アプリ内メッセージといったアプリ内機能を拡張するだけでなく、熱量の高いファンに向けたオフラインの体験も拡充し、ファンとアーティストをつなぐプラットフォームとしての役割がより強まってきました。単なる音楽アプリの枠を越えた存在になってきたと感じています。
小尾口:それは運用者としても実感するところです。30〜40代以上の層への効果が確認できた事例が増えていて、「Spotifyは若い人向けのアプリ」という先入観を持つクライアントに実際のデータをお見せすると、認識が変わる場面が増えてきました。
幅広い世代にリーチできるということは、アプローチできるクライアントの幅が広がることでもあって、媒体としての可能性が広がっていると思います。
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特に印象的な音声広告事例は?データが証明した意外な実力
林:電通デジタルはSpotifyを活用した事例を積極的に積み上げてくださっています。特に印象的な案件や、そこから得た知見を教えていただけますか。

小尾口:1つ目は旅行サイト『エクスペディア』の事例です。「ブランドリフトが最大化する最適な配信設計を検証したい」という目的で、ナレーターの性別(男性・女性)とターゲティングの性別を組み合わせた4パターンを設計して検証しました。
その結果、アッパーファネルでは有意差は出なかったものの、興味関心や検討といったミドルからロワーファネルでは「ナレーターと受け手が同性の組み合わせのほうが、効果が高い」というデータが得られました。クリエイティブの性別と受け手の性別の相関がロワーファネルに影響するという知見は、今後の配信設計に活かせる発見でした。
もう1つがアサヒビールのアサヒゼロの案件です。忘年会・クリスマス・年始のシーズンに合わせて、物性訴求が主となる普段のメインコミュニケーションではなく、年末というモーメントを最大限に意識しました。ターゲットのインサイトを深ぼりしたクリエイティブを配信することで、自分ごと化につなげ、年末にターゲットが抱く情緒にあわせ、新しい選択肢としてアサヒゼロがあるという訴求を目指しました。
結果として、認知率では+12pt以上・購入意向は+20%以上も広告接触者でのリフトが確認でき、特に反応が高かったのが「40代男性・子持ちの正社員」で、まさに既存のアルコール商材に慣れ親しんでいる層で態度変容が見られたことは、Spotifyでの音声広告が持つ力を実感できる結果になりました。

使用した音声広告クリエイティブ
Spotify広告とデータクリーンルームを組み合わせる活用も広がっていて、カーブランドや製薬会社など、来店効果を検証したい広告主からの関心が高まっています。
昨年末、BMW Japanの案件において、音声広告の来店効果を初めてデータで実証することができました。自動車関連施設への来訪履歴を持つ高関心層にアプローチし、来店単価は通常配信比で 約15分の1に低減。テレビ・OOH・デジタル・音声の4媒体すべてに接触したグループが来店率 15.00%で最高値。次いでテレビCM・OOH・デジタルが12.58%、テレビCM・OOH・音声が8.77%と、組み合わせが増えるほど来店率が上がり、かつ音声が加わることで底上げ効果が生まれることが確認されました(詳細がわかる記事はこちら)。
以前は「音声広告は効果の可視化が難しい」と言われることもありましたが、購買や来店、検索といった深いファネルまで計測できるようになってきていて、キャンペーンの結果を次の打ち手に結びつけやすくなっています。
フルファネルの証明へ。音声広告の新たなスタンダードを、ともに作る

林:今後の展望について、取り組みたいことや期待していること、広告会社のプランナーへのメッセージを聞かせてください。
小尾口:まずデータクリーンルームをさらに多くのクライアントに活用いただき、マーケティング課題を深く掘り下げられる環境を広げていきたいです。プロダクトへの期待としては、Spotifyはアッパー〜ミドルファネルの媒体というイメージがまだ根強いので、ロワーファネルへの貢献がよりわかりやすくなる機能の拡充を楽しみにしています。
プランナーの皆さんへのメッセージとしては、まずSpotifyを実際に使って広告に触れてみて欲しいというのが一番です。Spotifyの自社広告を含め、音声ならではのクリエイティブの発想に触れることで、「こういうアプローチができるんだ」という気づきが生まれます。まずトライしてみることが、新しいスタンダードを作っていく第一歩だと思っています。
林:データクリーンルームによって高度なオーディエンス分析や来店・購買などの効果計測できるようになってきた今、Spotifyがフルファネルで機能するプラットフォームであることを実績として積み重ねていけるフェーズに入ってきました。2026年は特にその実績を数字として証明していくことも1つの大きな目標です。
広告会社・広告代理店の皆様にとって、Spotify広告マネージャーを活用いただきやすい環境が整ってきていると感じています。無償の音声制作ツールで音声クリエイティブの制作ハードルは大きく下がっていますし、今後生成AIによる音声制作機能もリリース予定で、業界全体でその空気が変わり始めています。まずは実際の配信を通じて知見を蓄積しながら、その成果を我々、カスタマーサクセスチームと一緒に育てていきたいと考えています。電通デジタルとも引き続き連携し、日本における音声広告の可能性をさらに広げ、市場形成を加速させていきたいと考えています。
サウンドオンの時代。ミュートされないマーケティング戦略を、Spotifyと考えませんか。
AI・ストリーミング・コネクテッドデバイスの普及により、音声は補助的なチャネルから中核メディアへと進化しています。広告主の80%が「デジタル音声は他メディアより信頼を得やすい」と回答。Spotifyが発行する最新インサイトレポートで、音声マーケティングの今と未来を読み解きましょう。

