新商品は「意識の高さ」を強いない、でもブレない
──ブレない継続力こそがブランドの信頼の源ですね。ここからはプロダクトについてもうかがいます。環境に配慮したブランドだからこそ、洗浄力や使い勝手といった生活者のリアルなニーズと、どのように折り合いをつけてきたのでしょうか。
廣岡:元々ヤシノミ洗剤は「洗剤の使いすぎは良くない」という考えから、ひどい汚れは拭き取ってから、適量の洗剤を継ぎ足しながら洗うことを推奨していました。「環境のために意識高くあってください」と要求することでもあります。実際、離脱してしまうお客様が半分ほどいらっしゃいました。
そこで、本来のコンセプトは崩さず、一般の洗剤と同じようにサッと油汚れが落ちる使い心地を実現した「ヤシノミ洗剤 プレミアムパワー」を開発しました。「環境のことが気になる」という方々が無理なく入ってこられる入り口(選択肢)を用意し、生活者に寄り添えるようにしたのです。
──台所用に続き、衣類用の洗濯洗剤も展開されていますが、これも利用者を増やしていくという観点から生まれたのでしょうか。
廣岡:ファンの方から長らく「ヤシノミ洗剤のコンセプトで洗濯洗剤が欲しい」という強い要望があり、そのお声に対応したものです。実は過去にも2回ほどチャレンジもしているのですが、苦戦をし撤退してきました。それでも2016年に3回目の挑戦に踏み切ったのには時代の変化があります。
当時、洗濯洗剤市場は香りを競い合う側面があり、無香料・無着色の商品は棚に置いてもらいにくかったのですが、ECの確立が活路になりました。また、「香害」という新しい社会課題が顕在化したことも大きいです。自社調査では「80%は香り付きを望み、無香料を求める人は20%しかいない」という結果が出ました。多くの企業は市場の80%を狙うでしょうが、サラヤのDNAは「社会課題をビジネスで解決すること」です。香りに困っている人が20%もいるのであれば、我々にやる意味があると考え、3回目の挑戦として「ヤシノミ洗たく用洗剤」を発売しました。
──結果はいかがでしたか?
廣岡:最初は店頭での数字があまり良くなかったのですが、ECのデータからリピート率とLTVが非常に高いことがわかりました。そこで営業では、お店の棚が香り付き洗剤ばかりになっている事実を提示し、「5分の1にあたる20%の無香料ニーズを店側が逃しているのではないか」と再提案しました。ECでの高いリピートデータと、お店にとっても顧客へ選択肢を提案できる意義を示した結果、バイヤーさんからも「サラヤさんの商品に数は求めていない」と言われつつも、棚を確保してもらえるようになりました。ECを中心に非常に良い売上成長を記録しただけでなく、「数を売ること」ではなく「独自の提供価値」を最大化することで、レッドオーシャンでも競合とバッティングせずに独自のポジションを築けています。
積み重ねた時間こそ資産、これからのヤシノミ洗剤
──一連の取り組みは、現在のサラヤさんにどのような影響をもたらしていると感じますか?
廣岡:社内においては、「自分たちが取り組んでいる活動は、社会に確実に貢献している」という誇りと自信が強固なものになりました。その結果、「ボルネオだけでなく、他の商品でもこうした社会課題を解決できるのではないか」と、社員自らが自主的にビジネスと社会課題解決をクロスさせるアイデアや行動を生み出すサイクルが回り始めています。
採用においても、ソーシャル意識が非常に高く、極めて優秀な学生たちが応募してくれるようになりました。
──ヤシノミ洗剤が培ってきた20年以上のストーリーそのものが、最大の無形資産になっているのですね。最後に、これからのサラヤの展望についてお聞かせください。
廣岡:当初、この支援活動を20年続ければ、ボルネオの環境破壊問題は解決してゴールできると思っていました。しかし現実はそう甘くありません。現場に行き続けているからこそ、未だゴールは見えず、解決しなければならない新しい課題が次々と見つかり続けています。そこに対応していきます。
今や大手競合メーカーも次々と環境保護活動に参入してきています。しかし、我々が取るべきスタンスは、決して周りに流されず、ただ「ブレないこと」です。コンセプトを変えず、愚直に現場に足を運び、徹底した現場主義で粛々とやるべきことをやる。大手メーカーの持つ巨額の予算には勝てませんが、我々が20年以上現場で泥臭く培ってきた「時間と信用、ネットワークの歴史」だけは、いくらお金を積んでも絶対に買えません。
──方針をブレさせずに20年もの間、その歴史を積み重ねてこられた組織的な要因はどこにあるのでしょうか。
廣岡:経営トップ自身が直接現場に行ってコミットしていること、そして何より担当者が変わらないことです。多くの企業では、環境やCSRの部門に異動してきても、数年でまた別の部署に転属してしまうため、知識や信頼関係が組織に蓄積されにくい傾向があります。「どうせ数年でいなくなる担当者だろう」と思われては、現地の熱い信頼は得られません。私たちは同じメンバーが20年間ずっと現場を担当し続けているからこそ、培ってきた知識、信用、ネットワークが揺るぎない資産として現場に蓄積され、活動を継続できているのです。
私たちはこれからも、無理にメジャーを狙いに行く必要はないと考えています。ただひたむきに「マイナーメジャー」の道を究め、私たちの想いに本気で共感してくれる世界中の仲間たちと一緒に、社会をより良い方向へと変えていきたいと考えています。
