企画会議の音声も、売上データも「旅行コンテクスト」になる
編集知は、どうデータとして実装されるのか。西村氏が示したのは、これまで活用されてこなかった非構造化データの掘り起こしだ。
「企画会議の音声や企画書には、最終的に記事に載らなかった議論の中身が詰まっています。ガイドブックの売上データも、どの地域でどの本が売れたかを見れば、その地域のニーズが読み取れるはずです。アプリやメディアの行動データからは顧客の思考プロセスが見えてくるでしょう。さらには、リアル店舗のるるぶキッチンで、どの地域の料理にお客様がどう反応したかといったレビューまで取り込むとおもしろいことが起こるはずです」(西村氏)
では、これを技術面でどのように実装していくのか。生データをそのままAIに渡すのではなく、「どんなコンテクストがあるのか」を抽出・構造化する処理をプレイドが担って開発しているという。
たとえば美術館でいえば、住所や料金、展示といったスペック情報の先にある「子連れでも行きやすい」「雨の日でも過ごしやすい」「半日滞在に向いている」といった文脈情報を掘り起こしてこそ、多様なニーズを持つユーザーへの提案の材料になる。その提案へ反応したユーザーのリアクションも、「この人はこういうものが好き」という学びとなり、次の提案を良くする循環が生まれる。「提案は終点ではなく、次の顧客理解の起点になります」と西村氏は語る。
コンテクストデータの用途は顧客体験の向上だけではない。AIに理解・引用される情報源になるための、いわゆるSEO/AIO対策として記事やサイト構造の設計に活かすこともできる。西村氏は「どの本がどこでどう売れているのか、どんなコンテクストが今バズっているのかが客観的なデータで見えれば、次の企画の立て方も変わるはず。編集業務そのものも変わっていくでしょう」と語る。こうして編集知は顧客体験、社内業務、そして新規ビジネスへと広がっていくという。
旅行コンテクスト」で拓く、新たなビジネスモデルと他業種連携
ビジネスモデルも、従来の流入・送客・コンバージョンの上に積み上げていく。
「ライフスタイルに関わる企業にこの情報を使ってもらえれば、顧客理解が深まり、CRMが極めて深まる。旅行コンテクストデータの他業種への提供も含め、幅を広げて利益を生み出す形にしたい」と盛崎氏は語る。
最後に古市氏が投げかけたのは、「AIが誰でもそれらしい旅行情報を無限に作れる時代に、ユーザーがるるぶに委ねる決め手は何か」という問いだ。盛崎氏が返した答えは「信頼」というキーワードだった。
「ブランドだけではなく、誰がどんな知見と責任を持ってレコメンドしているのか。その情報が自分の文脈に合っているか。そして『行ってよかった』という旅を繰り返し提供できているか。そういったものを含めた信頼が、最後に選ばれる決め手になると思います」(盛崎氏)
最後に盛崎氏は、旅行が「ライフスタイル全体のニーズや文脈がキュッと詰まったもの」であることを踏まえ、会場に呼びかけた。「自分たちだけの編集知で顧客を深く理解することには限界があります。旅の文脈で選ばれるコンテンツを持つコンテンツホルダーの皆さんと、企業コンソーシアムを形成し、価値ある提案を一緒に実現していきたいです」。
ガイドブックからWeb、そしてAI時代への対応へと、53年の編集知を武器に、るるぶの変革が始まっている。

