「初日から反響」ソーシャルで可視化された音声広告の届く力
──ソニー銀行がSpotifyの音声広告を実施したきっかけを教えてください。
15年以上在籍し、マーケティングに従事。顧客対応部門、新規事業部門を経て、現在は幅広い年代をターゲットとしたマスメディアからデジタル媒体までのプランニングおよびバイイングを統括している
久保田:私たちの主力商品であるデビットカード Sony Bank WALLET は15歳から持つことができるため、高校生などの若年層に届くメディアを常に探していました。テレビCMの視聴層は45歳以上など高年齢化が進んでおり、動画メディアは20〜30代に強い傾向があります。そんな中、若年層の利用率が圧倒的に高いSpotifyに目をつけました。当時、音声広告を出稿した経験はなく未知数でしたが、「まずはアプローチしてみよう」と考えたのが始まりです。
──初回の手応えはいかがでしたか?
久保田:出稿の直後からSNS上で大きな反響があり、初日から衝撃を受けました。これは他のメディアではほとんど見られなかった現象です。
当時使用したクリエイティブでは、音楽メディアの中で印象を残すため、BGMを極力入れず、人の声でハッとさせるような音声にトライしていました。アテンション重視のチャレンジングな表現だったと思います。その結果、接触したユーザーの中には、夜にイヤホンで聞いていたことでその声に驚いてしまったり、隣の人から話しかけられているように感じたりという方も一定数いらっしゃったため、反応は賛否両論に。状況を真っ直ぐ受け止め、予定よりもかなり早い配信終了を判断しました。
当然ながら、クリエイティブには磨き込む余地があったと感じますが、一方で私は「広告において何も反応がないのが一番良くない」と考えています。これだけ大きなレスポンスが得られたこと自体が、「しっかり人に届いている」という証明であり、今後も継続して活用できるメディアだと確信するきっかけになりました。
他媒体との比較で見えた、音声広告の「意外な実力」
──その後、ソニー銀行ではSpotifyの音声広告が持つポテンシャルを正しく把握するために、MMMを用いたクロスメディア分析に取り組まれたそうですね。伴走したノバセルでは、今回どのような支援を行ったのでしょうか?
ラクスルグループのマーケティング支援会社ノバセルにて、セールスを担当。MMMを用いたクロスメディア分析の支援をはじめ、メディアのプランニングおよびバイイングの高度化および効率化を可能にするマーケティングDXソリューションを中心に支援・提案している
内海:ソニー銀行様はテレビCMや動画メディアなど多様なメディアに出稿されています。しかし、「どのメディアがどれくらいCVに寄与しているのか」を同一の指標で横並びに評価するのが難しいという課題がありました。
そこで、私たちは「指名検索数」と「サイトセッション数」を中間指標として設定したクロスメディア分析を提案しました。ユーザーが広告などの情報に接触したとしてもいきなり口座開設につながるわけではなく、認知した後に検索し、サイトを訪れるというフローがあります。この中間指標を用いて各メディアの寄与度を複合的に可視化しました。
──実際の分析結果として、SpotifyのCVへの寄与はどう評価されたのでしょうか?
内海:これまで複数のキャンペーンにわたって計測し、大きく3つのアウトプットを出しました。「寄与度」と「今後の投資余地」、そして「予算配分のレコメンド」です。
「感覚」から「データ」へ。MMMが導いたSpotifyへの投資価値
内海:1つ目の「寄与度」としては、対象が10媒体ある中で、Spotifyは指名検索数への寄与が2番目に高いという非常に良い結果が出ました。
2つ目の「今後の投資余地」は、広告投資額とそれによって得られる効果の伸びしろの関係を統計学的にモデリングし、サチュレーションカーブとして描き出すことで、この曲線の「傾き」の強さで多寡が理解できるようにしています。結果、Spotifyは傾きが急で、投資を増やせばさらに効果が伸びる余地が十分にあると判明しました。
──3つ目の「予算配分のレコメンド」について、具体的にどのような提案になったのでしょうか?
内海:様々な全体予算でシミュレーションしたのですが、たとえば当初からご相談されていた「全体予算を変えずに効果を最大化する予算配分」をシミュレーションしたところ、Spotifyへの予算は増額させるプランが最適解となりました。実際のレポートでは、年間予算のシミュレーションを行い、特定のメディアからどれくらい減額し、Spotifyへの投資をどれくらい増やしたほうが、純粋な指名検索数が伸びるというデータを詳細に提示しています。
久保田:我々としても、「1インプレッションの価値が異なるメディアを、感覚ではなく同じフィールドで評価したい」「全体の予算を変えずに最適解を導きたい」という2つの強い要望がありました。ノバセルさんの分析はまさにそれに合致するもので、ドラスティックな予算変更のシミュレーションを何パターンも行いながら、最適な配分を探ることができました。
Z世代からミドル層、ゲーマー層まで。広がり続けるターゲティングと表現
──Spotifyでこれほど高い効果が得られた要因はどこにあると分析されていますか?
内海:メディアの特性だけでなく、ソニー銀行様が「Spotify専用のクリエイティブ」を制作されたことが非常に大きいと分析しています。他媒体の使い回しではなく、音声メディアにマッチしたユニークなクリエイティブだったからこそ、ユーザーの検索行動を強く喚起したのだと思います。
久保田:視覚的な広告は世の中に溢れていてシェアを奪い合っていますが、移動中などに「耳へのアプローチ」ができるのは音声広告の大きな強みです。私自身もSpotifyユーザーだからこそ、専用のアプローチで作るべきだと考え、毎回土井さんと相談しながらオリジナルのものを制作しています。
──ターゲット層やクリエイティブの設計は、どのように幅を広げているのでしょうか?
金融業界の企業を担当。クライアントのビジネス成長を支援する立場として、データやインサイトを活用した音声広告のプランニングからクリエイティブ制作まで、各社の状況に基づいた提案を行い、伴走している
土井:Spotifyユーザー全体としても、Z世代だけでなくミドル・シニア層のユーザーが増加しています。それに応じて、「演歌風」や「昔の音楽番組風」「ラジオショッピング風」といった音声クリエイティブを配信するなど、ソニー銀行様のアプローチの幅も広げていただいています。
久保田:当初はZ世代向けでしたが、「もっと上の年代にも届くのでは」と考え、昭和世代向けのクリエイティブなど様々なトライを重ねてきました。最近では、ソニーグループ内のアセットを活かしたPlayStation 5の購入キャッシュバックキャンペーンにおいて、Spotifyを利用する「ゲーマー層」にターゲティングして出稿するなどの取り組みも行っています。
使用した音声広告クリエイティブ
土井:Spotifyは近年のPlayStationシリーズでゲームをしながらの利用に対応しており、ゲーム関連の楽曲配信も豊富であることから、ゲーマー層から選ばれるプラットフォームでもあります。こうした多種多様なユーザーのご利用があるからこそ、ターゲティングにおいても多様なセグメントが可能となっています。
視覚から約400万のリーチも。プロダクトの進化とJBPで広がる挑戦の幅
──音声以外の新しい広告フォーマットにも挑戦されていると伺いました。
土井:はい。ホームページテイクオーバー広告というビジュアル訴求のメニューを実施いただきました。アプリを開いた際、トップ画面全体を動画・静止画でジャックする、視覚的インパクトの大きい広告フォーマットです。こちらも、約400万リーチという非常に高い効果を記録しました。コストパーリーチという観点からも、「ROIが高い」とソニー銀行様にご評価いただいており、すでに2度実施されています。また、広告主向けの新たな機能であるSpotify広告マネージャーもいち早く活用されています。
久保田:Spotifyがユーザーに提供するサービスも年々進化しており、歌詞を見たり、ミュージックビデオ、ビデオポッドキャストを楽しんだりと、「スクリーンを見る」機会も増えてきたように思います。その機能拡充に合わせて、我々もバナー広告を組み合わせるなど、新しいメニューにいち早くトライできるのも良い点ですね。
──2025年度から2年連続で、ジョイント・ビジネス・プラン(JBP)を締結されています。通常の媒体出稿での関係性とは何が違うのでしょうか?
久保田:中長期的な視点でプランニングしやすくなりました。たとえば、「夏休みは旅行シーズンだから外貨訴求」「Z世代のバイト代が入る時期だからここでアピールしよう」といった会話をしながら、年間単位での効果最大化に向けたプロットを一緒に検討しています。
土井:データやそれに基づくインサイトの活用を強みとする我々としても、早い段階からクライアント向けにそれらを整理し、企画から一緒に作れるのは年間パートナーシップの大きな意義です。制作会社を交え、プロの視点をクイックに取り入れられるクリエイティブの打ち合わせを行ったり、広告アイデアを発掘する場として音声をうまく活用する展示やライブなどのカルチャーイベントに同行したりと、「音声体験の解像度を上げる」取り組みをともに進めています。
──音声広告のクリエイティブ制作において、スピード感も強みになっているのでしょうか?
久保田:動画広告は撮影や編集作業に多大な労力がかかりますが、音声広告はそれに比べると収録・編集が短縮でき、すぐに出稿できます。複数パターンを用意して機動的にPDCAを回せるコストパフォーマンスの良さは非常にありがたいです。

測る、そして広げる。ソニー銀行とSpotifyが見据える次のステージ
──最後に、今後の展望や読者の皆様へのメッセージをお願いします。
久保田:移動中でも確実にアテンションが取れる音声メディアには、まだまだ無限の可能性があると感じています。視覚的なメニューも増えてきているので、今後もSpotifyさんとともに新しいことに先んじて挑戦していきたいです。
こうした試行錯誤において成功の確度を高めるには、マーケターの皆様はよくご存知のとおり、データの裏付けが欠かせません。勘や経験に頼るのではなく、ノバセルさんが展開するようなクロスメディア分析で現状を常に正しく評価し、効果検証とクリエイティブ改善の両輪を綺麗に回していくことを強くおすすめします。
土井:Spotifyは「聴く」だけでなく、「見る」「体験する」など、総合的に音楽やカルチャーを楽しめるプラットフォームへと進化しています。ソニー銀行様の金融事業に限らず、ゲーム、音楽、映画とエンタメ領域に幅広く事業展開するソニーグループ様とはその点でも親和性があり、今後も強いシナジーを生み出していきたいです。
また、音声広告が「認知だけでなく、指名検索数の寄与など、CVまでしっかりと人を動かせるメディア」であることを、データに基づいて証明した今回の事例を通じて、より多くのマーケターに知っていただき、挑戦していただけることを願っています。

