マーケ組織は「弱い組織」であると認めよ
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マーケ組織は、会社組織においては“弱い組織”であり、まずその自覚から始めるべきだと私は考えています。マーケティングも最終的には「売上」や「利益」を目標としますが、会社組織において権力を握るのは、よりダイレクトに売上へ貢献する部門だからです。
特に、BtoBなら「営業担当」、ECなら「店舗担当」「商品仕入担当」。マーケ担当は、彼らを支援するポジションになりがちです。
こうしたチームは日々厳しい売上目標にコミットしているため、役割の性質上、必然的に「短期視点」になります。彼らは、達成できるかどうかギリギリの目標を月次・週次・日次で追い続ける「屈強な戦士」であり、中長期でブランドイメージがどうなるか、IRで企業価値がどうなるかを気にする余裕がないことが多いです。
むしろ「中長期の視点」を言い訳にしないからこそ、短期的な売上目標を達成し、会社を成長させる原動力となっています。
最新刊は『なぜ定石だけでは組織は動かないのか? マーケターのための人心を動かす「社内調整」の技術』(日本実業出版社)。
では、その「屈強な戦士」たちと、マーケ組織はどう向き合うべきなのでしょうか。まず彼らを「敵」と捉えるべきではありません。私は、営業部門は会社を成長させる戦士として尊重すべきだと考えています。ただし、彼らが屈強であればあるほど、企業は「長期視点」と「顧客視点」を見失いやすい。ここに大きな問題があります。
特に「顧客視点」については、売上貢献の大きい部門ほど、自分が顧客のことを最も知っていると勘違いしがちです。たとえば営業部門なら、日々顧客に相対して商品を売り込んでいるのですから、顧客のことを知った気になるのも無理はありません。しかし営業担当を前にしたときの顧客は、本来の顧客ではありません。商談のなかでは本音を語りませんし、商談以外の時間で何をしているかなど、まったくわからないままです。
だからこそ、「長期」×「顧客」視点を組織全体に補正することが、マーケティング組織の存在意義だと言えます。強い部門である営業部門を牽制し、会社が短期利益だけに走らないようにする。これこそがマーケの担うべき役割です。
とはいえ、弱い部門が強い部門をコントロールしようとするわけですから、「長期視点」だの「顧客視点」だのと掛け声だけを叫んでも、組織は1ミリも変わらないでしょう。頑張って社内調整に奔走したところで、「焼け石に水」状態が続くだけです。
組織を動かすのは「人事」ではなく「力学」だ
「弱い組織」であるマーケが強い部門を牽制するために必要なのは、「組織設計」です。ただし、ここで言う組織設計は、多くの方がイメージするものとは少し違うかもしれません。
組織を議論する会議で、「誰を配置するか?」という「人事」の話に時間を浪費してしまう現場をよく見かけます。「Aさんは最近成長しているからそろそろ部長にするか?」「部長にするには部署が必要だから、一つ部門を切り出すか?」「いやいや、あいつはまだ若いし、部下につけるBさんがへそを曲げるのでは?」といった具合です。
組織構造よりも人事が優先されるため、必要のない部署が作られたり、レポートラインを持たない部付のメンバーが大量に生まれたりしてしまう。これでは組織設計の議論とは呼べません。
もちろん人事も大切な要素ですが、アサインされた人がパフォーマンスを発揮できるかは未知数ですし、中期では異動や退職でいなくなる可能性もあります。人事は不確実性が高く、再現性も低いので、組織設計という論点においては最後の調整弁くらいに考えておいたほうが良いでしょう。
では、本来の「組織設計」とは何なのか。それは、たとえ誰がアサインされたとしても、マネジメントが期待する方向にビジネスが進むような「力学」を生み出す構造を設計することです。
そのために組み合わせるのは、「KPI」「権限」「文化」という3要素。なかでも「KPI」は、組織の行動原理を強く規定します。書籍では「協働」「長期」「顧客」「牽制」の4視点でKPIを設計するアプローチを提案していますが、なかでも一番大事なのは、4つ目の「牽制」視点です。
「牽制」視点のKPIは、強い部門の主要KPIによる暴走を止めるためのブレーキと言えます。たとえば営業部門のKPIが「短期の売上」だけだとすると、そのKPIを追求するために顧客に無理な提案をしたり、既存顧客のフォローを疎かにして新規獲得ばかりに走ったりするリスクがあります。ここに「顧客満足度」や「継続率」といったKPIを、マーケ組織や別部門が担う形で組み込めば、営業のブレーキ役として機能します。
ポイントは、ブレーキを他部門が担うという点です。強い部門に自分でブレーキをかけろと言っても、絶対にかかりません。それは人間の心理として無理な話でしょう。KPIは戦略そのものであり、強い組織との綱引きを実現する道具だと言えます。
