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定期誌『MarkeZine』特集

売上よりもファンの声を重要指標に関係性をじっくり育む 西武ライオンズのマーケティング

3つのセグメントに分け、最適な手法で接触する

――Cookie制限にともない、顧客情報を適切に管理していく重要性は一層高まっていくと考えられます。しかし、たとえば「CRMを導入したもののうまく運用・活用できていない」など、課題を持つ企業が多いのも実情です。ライオンズでは、どういった点を重視されていますか。

 当社の顧客構造は、数年前も現在も数年後も大きな変化はないと考えている一方、上位顧客の指標やそれぞれの顧客へのアプローチ手法は、常に見直し磨きをかけています。

 現在は、上位顧客にあたるファンクラブ会員層、西武線沿線にお住まいで、野球に興味・関心がある層、そして、ライオンズを認知しているものの野球への興味が低い潜在顧客層の3つにセグメント化し、それぞれの層に適した施策を打ち出しています。

 特徴は、顧客層に合わせてタッチポイントやコミュニケーションを細かく調整していること。たとえば、野球への関心が低い潜在顧客層に細かくターゲティングしたデジタルの情報を発信しても、大きな態度変容は起きません。この層へは、電車内の中吊り広告など、オフラインの情報発信を中心に展開しています。ここでは、西武鉄道をはじめとした西武グループの強みが活かされていますね。対して、エンゲージメントの高いファンクラブ会員層は、IDが取得できていますので、デジタルによる1to1マーケティングが可能です。マーケティングオートメーションも進化し、規模に関係なく活用できるようになってきましたので、当社でも取り組みを開始しております。またCRMを活用する際は、企業側からの視点が強くなりがちな傾向がありますので、施策に対するファンの反響やSNSの声を尊重し、先ほど説明したCMRを意識するようにしています。

ファンの反応次第でアナログを残すことも

――それでは、上位顧客向けの具体的な施策について教えてください。

 ファンクラブ会員に対しては、チケット特典施策が強いです。シーズンシートの購入層も対象に、人気の試合のチケットを一般販売よりも優先的に、特別価格でご案内しています。他にも、選手参加型の限定イベントに抽選でご招待したり、新しいサービスを優先的にアナウンスしたりするなど、ファンファーストのコミュニケーションを心がけていますね。

 また、今年2月にリリースした球団公式のスマートフォンアプリも、ファンクラブ会員向けの機能が中心です。現在は、デジタル会員証の表示やチケット、グッズの購入ができ、シーズン中は試合の情報発信を行っていく予定です。アプリは、ファンクラブの運営をアナログからデジタルにシフトする上で重要なツールですし、これから1to1マーケティングを充実させていく上で、影響力の高いアウトプットチャネルの一つと捉えています。今後は、球場内の飲食の予約やトイレの混雑状況などがわかるような機能の拡充を検討しています。現状のアプリダウンロード数は4万ほどですが、一気にダウンロード数を増やそうとするのではなく、アプリの利便性向上に合わせて、ファンと常につながるハブとしてじっくり育てていく方針です。

2020年2月、球団公式アプリをリリースした(西武ライオンズのWebサイトより)https://www.seibulions.jp/news/detail/00003457.html
2020年2月、球団公式アプリをリリースした(西武ライオンズのWebサイトより)

――ファンのすそ野を広げていくという観点では、いかがでしょうか。

 全体的な観客動員数を増やす観点からは、「1度来てみたら、また行きたくなった」と思っていただけるような施策を意識しています。2008年以降一貫して、試合終了後にグラウンドへ降りて行うフィールドイベントに力を入れてきました。また、グルメにも力を入れており、現在は、70店舗以上で1,000種類を超えるメニューを提供し、選手がプロデュースしたフードの開発も増やしています。選手を含めて全社で取り組み、展開した結果、来場者数とアクティブ会員の増加につながったと考えます。

 あわせて、施設への投資も進んでいます。現在メットライフドームエリアの改修工事を行っており、試合だけでなく、来場者に1日中楽しんでいただけるボールパークを目指しています。また、コミュニティプロジェクトとして「L-FRIENDS」を発足させました。これは、野球振興・子ども支援・地域活性・環境支援の4つを軸に、スタッフと選手が一丸となって取り組む社会貢献の活動です。現在は50の自治体と締結し、子どもたちに向けた野球教室や、試合の招待券、キャップの提供などを行っています。野球や体を動かす楽しみを知り、ライオンズに興味をもっていただきたいと考えています。

――マーケティングコミュニケーションだけでなく、球場での体験提供や野球の認知向上など、あらゆるタッチポイントでファンが喜ぶ施策を展開されているんですね。

 そうですね。そのためCookieの制限については、ターゲティング広告や新規顧客を得るチャネルが減ってしまう側面はあるものの、大きく影響は出ないだろうと考えています。野球は、1球団あたり年間143試合行われ(2019年実績)、そのうちの半分が、ホームゲームです。ライオンズの特徴は、3試合連続、ときには遠征して6試合連続と応援にいらっしゃる熱心なファンが多いこと。そんな環境下でのファン・マーケティングは、ファンの声を聞きながら施策を最適化していくことが大切だと考えます。

 たとえばライオンズでは、2017年にデジタルチケットを導入しましたが、便利だと評価をいただいている反面、利用率は25%に留まっていました。アンケートなどからわかったのは、ファンの皆さまが紙チケットをとても大切なアイテムだと思っていらっしゃることです。ファンクラブ会員が購入できるチケットは、選手がデザインされていて評判が高く、コレクションされている方もいらっしゃいます。ですから、ファンファーストでやるならば、紙チケットを廃止してはいけません。そこで、今シーズンからは紙チケット自体にバーコードやQRコードをつけて、電子認証で入場いただく方法に変更しました。デジタル化は手段であって目的ではありません。今回で言えば、いつ来場したかなどの行動履歴を集め、今後の施策に活かしていくことこそが目的のはずです。そのためファンの声をくみ取り、ときにはオフラインの手段との融合も考えながら進めていこうとしています。

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売上よりも顧客の反応がわかる数値をKPIに

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この記事の著者

マチコマキ(マチコマキ)

広告営業&WEBディレクター出身のビジネスライター。専門は、BtoBプロダクトの導入事例や、広告、デジタルマーケティング。オウンドメディア編集長業務、コンテンツマーケティング支援やUXライティングなど、文章にまつわる仕事に幅広く関わる。ポートフォリオはこちらをご参考ください。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:44 https://markezine.jp/article/detail/33192

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