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長祐氏と考える顧客理解と顧客戦略

顧客視点で解釈し、ニーズの先を開拓──「5年後のスタンダードになる」三井住友カードのマーケティング

「新しい取り組みの芽」を大切に

長:ここまでお話を伺って、三井住友カードは顧客起点の考え方があらゆるレイヤーで浸透していると感じます。冒頭で、マーケティング組織の体制を手探りの中整えてきたと話されていましたが、大切だと思うことはありますか?

伊藤:トップのマインドが非常に重要だと考えています。特にレガシーな組織では、ボトムアップでも一定の変革は可能ですが、組織全体を大きく変えていくとなると難しいことも多いです。そうした中で当社の場合、社長をはじめマネジメントライン全体が新しい取り組みの芽を摘まない姿勢でいたことが大きいです。

 加えて各部門のトップがお客様起点で最終意思決定をしていることも大きな成功要因だったと考えています。マネジメントライン全体がお客様起点で意思決定をしていれば、縦割りの組織であっても同じ方向を向くことができ、組織がワークします

 「Olive」は、まだ発展の余地があると考えていますが、特筆すべき点として「真ん中でやった」ことが結果につながっています。多くの場合、サブブランドの展開など、本体とは別に横で実施するケースが一般的です。しかし「真ん中でやる」、つまり組織全体で取り組むという決断は、経営層の深い理解がなければ実現が難しいです。ただ、世の中をより良くしていこうとするならば、この「真ん中でやる」というアプローチは避けては通れない道だと考えています。

長:組織全体が同じ方向を向き、お客様を中心に据えた価値を提供していこうとしていることが特徴的だと感じました。

「5年後のスタンダードになる」ことを見据えて

長:最後に、今後の展望についてお聞かせいただけますか?

伊藤:商品・サービスに関しては、既に企画段階にある多くのアイデアがまだ実現されていない状況です。まずは、それらを一つずつ着実に形にしていきたいと考えています。

 また、「Olive」は、より多くの方々に使っていただけることを目指していますが、現状では既存サービスの延長線上にとどまっている面があり、UI/UXにも改善の余地があると認識しています。これらは、お客様の声を積極的に取り入れながら改善を進めていく必要があります。

  そして、「5年後のスタンダードになること」を見据えた上で、お客様がまだ気づいていない価値を創造し、提供していきたいと考えています。

長:マーケティングであれ、プロダクト開発であれ、新しいアイデアを創出し続けていくという取り組みは、非常にやりがいのある挑戦だと感じます。

伊藤:お客様はもちろん、世の中全体を驚かせたい思いが強くあります。私たちのアイデアは、常にその思いから生まれています。

長:やはり既存の延長線上でビジネスを伸ばすのではなく、新しい価値を創造し続けることでユーザーベースを拡大していくことが大切です。5年先、10年先に、どのようなサービスが生まれ、スタンダードになっているか楽しみです。

 伊藤さん、本日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

【取材後記】

──5回にわたり、マーケター業界の最前線で活躍する方々の話を聞いていきました。みなさまのお話を伺っていかがでしたか。

長:みなさんの話から、「顧客起点マーケティング」の核となる考え方は、顧客理解を単なるデータや施策開発の方法論としてでなく、あらゆるブランド活動の「基盤」として据えることが重要であることが見えてきたのではないかと思います。具体的には、次の5つが挙げられます。

1.顧客に基づくビジネス課題の理解
企業が解決すべき本質的なビジネス課題は、「自社顧客の理解」「カテゴリー顧客の理解」など、顧客を深く掘り下げることで明確になります。N1分析や定量的な顧客理解を通じ、顧客心理や顧客構造を把握することで、課題の本質を見極めることが可能です。

2.顧客戦略の策定
あらゆるブランド施策の根本となるべきは「顧客戦略」です。誰に、どのような価値を提供するかを明確化し、9segs®などのフレームワークを活用して戦略を設計します。これにより、施策の方向性が統一され、全体の一貫性が保たれます。

3.顧客の心を動かす施策作り
顧客戦略に基づいて展開される「顧客起点の施策」は、顧客の行動だけでなく、「心を動かす」ことを目的としています。定性的なインサイトやデータに基づく仮説を、定量的に検証し、施策に落とし込むことで、精度を高めるのです。アサヒビールの「生ジョッキ缶」やSUBARUの「アイサイト」の事例は、顧客期待を超える体験が新たな市場を生むことを示しています。

4.効果測定と改善のPDCA
施策の成果を確認し、次の改善につなげるためには「効果測定」が不可欠です。顧客構造の変化や、顧客の心を動かす指標(次回購入意向など)といった顧客視点のKPIを設定し、PDCAサイクルを回すことで、持続的に成長するビジネスを設計することができるのです。

5.顧客起点の組織と文化の構築
顧客起点の組織や文化を構築することが重要です。全社員が顧客視点を共有し、データだけでなく現場で得られる顧客洞察を重視することで、組織全体が顧客起点の方向へ進化します。こうした文化が、企業の競争優位性を引き上げる土台となります。

長:顧客を起点とした「顧客戦略」を策定し、それに基づく「顧客起点の施策」を実行。さらに顧客を分析して「効果測定」を行い、顧客を起点とした意思決定ができる「組織や文化」を作る。この一連の「顧客起点のPDCA」を構築することこそ、強いビジネスを作る鍵となってくるのです。

 最後になりましたが、本連載をお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事の著者

⻑ 祐(チョウ タスク)

 東京大学大学院卒業後、P&G入社。ジレット、ジョイ、SK-II、BRAUNなど多岐に渡るブランドマネジメントを行い、P&Gジャパン執行役員に就任。2019年にM-Force株式会社代表取締役に就任し、顧客起点マーケティング「9segs®」の運用ツール「9segs®analyzer」の開発・導入・運用支援を行う。

https://mforce.jp/
https://markezine.jp/article/detail/34425

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

和泉 ゆかり(イズミ ユカリ)

 IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/01/20 08:30 https://markezine.jp/article/detail/47344

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