顧客基盤の分析で注意すべき2つのポイント
これまで概念、測定、理論について説明してきました。今回からは、ブランド・リレーションシップのマネジメントに入り、マーケターに役立つ様々な知識やフレームワークを紹介していきます。
成功するマネジメントの多くは、まず現状を把握することから始まります。ブランド・リレーションシップのマネジメントでも環境分析は欠かせません。なかでも自社の顧客基盤について十分に理解することは、とても大切です。そこで今回は、ブランド・リレーションシップをマネジメントするために必要となる「顧客基盤の分析」について考えていきます。
ブランド・リレーションシップのマネジメントのための顧客基盤の分析では、注意すべき点が2つあります。
1つ目のポイントは、消費者だけに焦点を合わせた分析では不十分だということです。もちろん個々の消費者に目を向けることは大切です。しかし顧客の集合である「市場」に焦点を合わせて初めて見えてくるものがあります。たとえば「自社ブランドに愛着を感じている消費者は、市場全体で何割くらいいるか」などです。
2つ目のポイントは、ブランド・リレーションシップだけに焦点を当てた分析は、現実的にはあまり意味がないということです。多くの企業は、ブランド・リレーションシップを向上させるだけでなく、それによって、売り上げや利益、顧客ロイヤルティの向上を目指します。したがって実際のビジネスで有効なのは、ブランド・リレーションシップの状態を顧客ロイヤルティの状態と組み合わせて把握することです。
以上のように、ブランド・リレーションシップのマネジメントには2つのポイントがあります。そして、これらに対応するために開発されたのが「RPマトリクス」と「VBマップ」です(久保田, 2014, 2024)。
RPマトリクスは、顧客のタイプと対応策がわかる
RPマトリクス(relationship‐purchasing matrix:絆ー購買マトリクス)は、ブランド・リレーションシップの程度(縦軸)とブランド購買の程度(横軸)を組み合わせた、とてもシンプルなツールです(図2)。「心理」と「行動」に着目することで、自社ブランドの顧客を分析できます。
セグメントA:絆が強く購入頻度が高い層
図の右上に位置するセグメントAは、既にブランド・リレーションシップが形成されており、なおかつ積極的に購買してくれる顧客から構成されています。いうまでもなく、このセグメントは重要な顧客基盤です。ブランド・リレーションシップが強いため、新しい顧客の紹介、クチコミ、有益な情報のフィードバックなど、取引以外の価値行動も期待できます。
その一方で、セグメントAが充実している場合、ブランド・アイデンティティの修正に慎重となるべきです。顧客が現在のブランドの価値に共鳴している場合、それらを大きく変更することは彼・彼女らにとって「裏切り」と映りかねず、重要な顧客基盤を失う危険性を秘めているからです。
セグメントB:絆は形成されていないが定期的に購入する層
図の右下に位置するセグメントBは、ブランド・リレーションシップは形成されていないものの、積極的に購買してくれる顧客から構成されています。このセグメントは積極的な購買行動を見せますから、セグメントAと並び重要な顧客基盤となります。
セグメントBへの対応には2つの考え方があります。1つは、ブランド・リレーションシップが形成されていなくても、購買量が十分であればそれで良いという考え方です。もう1つは、ブランド・リレーションシップの形成を促すことで、より頑健な顧客基盤を構築するという考え方です。
セグメントC:絆は強いが、購入頻度が低い層
左上のセグメントCは、ブランド・リレーションシップは形成されているが、購買には積極的でない顧客から構成されています。意外かもしれませんが、このような顧客は少なからず存在します。
セグメントBと同様に、セグメントCへの対応にも2つの考え方があります。1つは、ブランド・リレーションシップの強さを、購買行動へ結びつけていく考え方です。これはセグメントCにおける基本戦略であり、セグメントAへのシフトを期待するものです。
もう1つの戦略は、ブランド・リレーションシップの強さを、購買以外の活動に結びつけていくという考え方です。顧客の中には購買よりも、新しい顧客の紹介、クチコミ、有益な情報のフィードバックといった、購買以外の価値行動を期待したほうがいい人もいます。
セグメントD:絆が形成されておらず購買も低い顧客層
左下のセグメントDは、ブランド・リレーションシップが形成されておらず、購買も積極的でない顧客から構成されます。セグメントDの顧客には、伝統的なブランド・マネジメントの考え方を適用するといいでしょう。つまりブランド・リレーションシップ以前の問題として、認知率やセイリエンスの向上、ブランド自体の理解と好印象の形成、好ましいイメージの効果を阻害している要因の排除といった課題に取り組むことになります。