配信を重ねるほど顧客は離れていく? LINEにおける「消費」と「蓄積」の分岐点
ソーシャルデータバンクが提供する「Liny(リニー)」は、LINEを活用した顧客コミュニケーションを支援する顧客管理・分析プラットフォームだ。顧客情報の一元管理やセグメント配信など豊富な機能を備え、既存の業務フローや外部システムとも柔軟に連携できることから、企業から自治体まで幅広く導入されている。また、専任担当者が運用定着まで伴走するサポート体制も強みの一つだ。
同社は現在、Salesforceや基幹システム、さらにはAI連携までを見据えた「外部サービスとのAPI連携によるエコシステム構想」を掲げ、企業や自治体の顧客接点と業務プロセスの変革を支援している。
セッションの冒頭、同社グループ取締役副社長の安東由歩氏は、LINE公式アカウント運用における核心を突く質問を会場へ投げかけた。
「既にLINE公式アカウントを運用し、友だちのリストを保有している企業は多いでしょう。そのリストへ1ヵ月以内に1回以上配信している企業も大半を占めるはずです。しかし、その友だちリストが『1年後も同じ、もしくは今以上の価値を持つ』と胸を張って言えるでしょうか」(安東氏)
安東氏は、従来のLINE公式アカウント活用の多くが、「メッセージを送るたびに消費される使い方」になっていると指摘し、これを同社では「使い切り型(消費型)」と呼ぶ。予算を投下して友だちを集めても、配信を重ねるほどにブロックによる離脱を招き、アカウントの価値が目減りしていく構造だ。対して、本セッションが提示するのは、使うたびにデータと信頼が蓄積され、時間が経つほど価値が増していく「複利型(蓄積型)」への転換である。

「LINE公式アカウントを単なる『配信ツール』として捉えるか、あるいは『顧客資産』を構築するための基盤として捉えるか。この視点の差が、1年後のマーケティング成果を決定的に分かつことになります」(安東氏)
では、企業内に眠っている未活用のデータをLINE公式アカウントとつなぎ、どのように顧客資産へ転換すべきなのか。その具体例として紹介されたのが、カルビーとUTグループという、異なるビジネスモデルを持つ2社の取り組みだ。
カルビーが抱えていたのは、店舗での購買という「リアルな接点データ」をいかにデジタル上のファンエンゲージメントに昇華させるかという課題。一方、UTグループが抱えていたのは、月1万人以上の求職者が流入する「基盤CRMデータ」を、いかに選考オペレーションの効率化とユーザー体験の向上に活用するかという課題であった。「業界も業種も異なるが、LINEを資産に変えるための構造は同じ」と安東氏は語る。
「双方向かつタイムリーに」。カルビーが挑んだ新たな顧客接点構築
まず、カルビー コーポレートコミュニケーション本部の伊藤奈美子氏が、直面していた課題について語った。スナック菓子を中心とした実店舗での販売を中心とする同社は、数多くのリアルな接点を持ちながらも、LINE公式アカウントの運用においては課題を感じていた。
「以前のLINE公式アカウントは、新商品情報などを一方的に届ける『配信ツール』にとどまっていました。管理画面で地域や年代などのセグメント分けは行っていたものの、十分な最適化ができず、一斉配信に近い運用が続いていたんです。結果として顧客の関心と一致しない情報を届けてしまう場面もあり、ブロック率は52%に達していました」(伊藤氏)
さらに、毎週のように新商品が発売される同社にとって、代理店を経由した施策実行に2週間を要するリードタイムは、現場のスピード感との乖離を生んでいたという。「ダイレクトかつタイムリーに配信したい」というニーズがあっても、リソースやシステム運用面のハードルがそれを阻んでいた。
この「配信すればするほどファン離れにつながる」悪循環と、施策実行のタイムラグという二重の課題を打破するため、同社は従来の「一方的な情報配信」から脱却し、LINEを起点とした新たな顧客接点の構築に取り組んだ。
「IからWeへ」。カルビーLINE公式アカウントを軸にした「ファンエンゲージメント」最大化の体験設計
カルビーの売上構造を分析すると、パレートの法則(20:80の法則)のとおり、全体の2割ほどのコアなファン層が売上の半数以上を支えている。価格改定などの局面でもブランドを支持し続けてくれるファンとの絆を、LINEを通じていかに深めるかが戦略の要となった。そこで導入されたのが、ユーザーを主役として巻き込むコンテンツ設計である。
「LINEは個人のスマホの中で完結するため、通常は『自分と企業』だけの関係(I)に閉じがちです。そこを『We』、つまり他にも同じ商品を応援しているユーザー同士のつながりを感じられる空間に転換したいと考えました」(伊藤氏)
具体的には、Linyの機能を活用し、LINEユーザー参加型の企画を次々と実施。LINE上での応募数が増えるにつれて、プレゼントの当選人数や内容が段階的にアップしていくキャンペーンだ。「他の友だちもこんなに参加しているんだ」「みんなで目標を達成しよう」という一体感を醸成し、参加意欲を高めることに成功した。
また、2つの選択肢からユーザーがタップで好みの投票を行う「どっちが好み」企画も展開。自分が選び、応援した商品が支持を集めることで特典がもらえるという参加型体験は、LINE公式アカウントならではの強みであるリッチメニューを最大限に活かした設計だ。
さらに同社は、購入した商品の空きパッケージを撮影してポイントを貯めるネイティブアプリ(※)「カルビー ルビー プログラム」との連携も強化した。いきなりアプリをダウンロードしてもらうのはハードルが高いが、LINEを「ライト層との緩やかな接点」として位置づけ、LINE上で遊べる農園ゲーム「サクサク掘れ掘れCalbeeFarm」をLINEミニアプリで展開。LINEでの体験を通じてエンゲージメントが高まったタイミングでネイティブアプリへと誘導する導線を構築した。
※端末にダウンロードして利用する専用アプリ
「リアルからLINE、LINEから再びリアルへ。エンゲージメントのループを回すことで、LINE公式アカウントは配信ツールから『顧客との継続的な接点となる資産』へと変化しています」(伊藤氏)
この取り組みの結果、開封率は48%から85%へと大きく上昇し、アンケート回答率は2.8倍に改善。カルビーにとってLINEは、見えなかったコアファンの顔を可視化する重要な接点となった。
現場の属人性を根底から排除する──UTグループのLINE一本化戦略
続いて登壇したUTグループの渡辺稚月氏は、BtoB/HR領域における徹底したオペレーション変革の事例を紹介した。同社は製造業向けの人材派遣・紹介事業を展開し、月間1,000名以上の派遣社員を雇用する巨大なオペレーション基盤を有している。
「当時の課題は、求職者との『つながりにくさ』でした。従来は電話、SMS、メールを中心に対応していましたが、年々その接触率が低下していました。また、膨大な求職者データをCRMで管理していたにもかかわらず、実際の採用業務とデータが分断されており、ユーザー特性に応じた最適なアプローチができない『点の対応』になっていました」(渡辺氏)
最大のボトルネックは、700名を超える現場スタッフごとの対応のばらつき、つまり属人化だ。どのようなコミュニケーションを取っているかがブラックボックス化しており、対応漏れや選考の途中離脱が防ぎきれない状況にあった。
この課題を解決するため、同社は求職者との連絡手段をLINEに統一。さらに、CRMとLinyをAPIでデータ連携させることで、求職者の選考状況に応じて最適な案内やリマインドを自動で配信できる仕組みを構築した。データと実務プロセスを一本化し、自動化と可視化を徹底することで、現場の属人化を根底から排除する採用DXへと舵を切ったのである。
131通りのシナリオ自動化がもたらした、求職者離脱の防止と再応募数4倍の成果
CRMとLINEの連携によって同社が構築したのは、求職者の状態を細分化した「131個の選考ステータス」にリアルタイムに連動するインターフェースの設計だ。ステータスが切り替わると、LINE公式アカウントのトークルーム画面に表示されるリッチメニューや配信メッセージが求職者ごとに自動で出し分けられる仕組みを施した。
たとえば、キャリア面談の15分前になると、担当面接官の顔写真とメッセージが自動的に求職者のLINEへ送信される。手動では困難なきめ細やかなリマインドが、求職者の心理的ハードルを下げ、直前のキャンセルを防いで来場率を劇的に高めた。
さらに、求職者からの相談内容はすべてLiny上で一元的に可視化される。管理者がリアルタイムで対応状況をチェックできるだけでなく、属人化を排除したことで、他のオペレーターや担当者間でのスムーズな相互フォローも可能となった。
要件定義に半年、開発に3ヵ月強をかけて構築されたこの仕組みは、劇的な成果を叩き出した。LINE経由の再応募数は従来の4倍に拡大し、選考の途中離脱数は月間で300人減少。面接の来場者数も月250人増加した。
渡辺氏は、「導入当初は現場からの反発もありましたが、ソーシャルデータバンク社が弊社のビジネス構造を深く理解し、現場に寄り添ったアレンジを加えてくれたことが成功の鍵になりました」と語る。
両者の共通点:眠れるデータをつなぎ、LINEを真の顧客資産に変える
セッションの締めくくりとして、安東氏は改めて「PL(損益計算書)からBS(貸借対照表)へ」のマインドセットの転換を呼びかけた。
「メッセージを送るたびに費用を使い切るPL的な運用から脱却し、施策を打つたびにデータと関係性が積み上がるBS的な運用へとシフトしなければなりません」(安東氏)
カルビーとUTグループに共通しているのは、自社の中に既に存在していた「未活用の資産」をLINEというハブを通じてつなぎ合わせ、価値に変換した点だ。
「皆さんの会社の中にも、リアルな接点やCRMデータなど、まだつながっていない資産が必ずあります。それらをLinyのエコシステムに組み込むことで、LINEは2倍、3倍の価値を生む顧客資産へと進化するはずです」(安東氏)
LINE公式アカウント運用の「常識」を疑い、データ連携によって新たな資産を築くことの重要性が改めて浮き彫りとなった本セッション。単なる「メッセージ配信ツール」として終わらせるか、あるいは「企業の持続的な成長を支える顧客資産」へとシフトさせるか。その思想と実践知を提示し、セッションは幕を閉じた。

