4. YouTubeが「テレビ」になる日
テレビ局の「デジタルファースト化」
音声メディアが親密さを拡張している一方で、映像の世界でも大きな地殻変動が起きています。その中心にあるのが、YouTubeのテレビ化です。
2026年、英BBCは従来の見逃し配信や宣伝中心のYouTube運用から、YouTube向けにオリジナル番組を制作する「YouTubeファースト」へと大きく転換しました。社内のプロデューサー150名にYouTubeクリエイターとしてのスキルを教育し、YouTubeに最適化した番組を制作。それを後から自社の配信基盤にも展開していくという、従来のテレビ起点とは逆のデジタル起点の戦略です。
クリエイターが生み出す新しいゴールデンタイム
一方で、クリエイター側のコンテンツも大型化しています。クリエイターエコノミーが成熟しているフランスでは、「Zen」や「Popcorn」といったYouTuber発の番組が、豪華なセット、練り込まれた企画、トップタレントのゲスト出演を伴う本格的なエンターテインメントへと進化しています。もはやクリエイターは、個人の発信者にとどまらず、新しいゴールデンタイムを生み出すメディアの主役になりつつあります。
「何を観るか」から「誰と観るか」へ
こうしたメディアの移行にともない、視聴体験そのものも変わり始めています。その象徴がミラー配信、「コストリーミング(Co-streaming)」の大衆化です。
代表例が、クリエイター主導型サッカーリーグ「Kings League」のTwitch配信です。フランスでは、大手テレビ局の配信プラットフォームと複数のトップクリエイターが同じ試合を同時配信し、視聴者は「どの試合を見るか」だけでなく、「誰の実況で見るか」「どのコミュニティと一緒に見るか」を選んでいます。コンテンツは1つでも、体験はクリエイターの数だけ存在するのです。
主導権は、クリエイターとファンの手に
このように、テレビ局はYouTubeに最適化し、クリエイターは大型番組を制作し、視聴者は「誰と観るか」を選ぶ。視聴体験の主導権は、放送局やプラットフォームだけでなく、クリエイターとそのコミュニティへも広がり始めています。
そのなかでブランドに求められるのは、投資先の捉え方を広げることではないでしょうか。クリエイターが構築し始めた新しいゴールデンタイムやコストリーミングの場は、単なる追加チャネルではなく、生活者が能動的に集まる新しいメディア空間になりつつあります。これからのスポンサーシップは、広告枠を買う行為だけにとどまらず、クリエイター経済圏の中でブランドの自然な居場所を作れるか。その視点が、今後のメディア投資においてますます重要になっていくはずです。
メディアの価値は「接触」から「信頼」へ
ここまで、グローバルで起きているカルチャーの動きを見てきました。ノスタルジアに安心を求め、リアルな場に癒しを求め、ポッドキャストに親密さを求め、クリエイターのコミュニティに共有体験を求める。
変化の裏側を紐解くと、生活者は、ただ新しいメディアを追いかけているわけではないことがわかります。情報が増えすぎ、あらゆる場所からメッセージが届くようになった結果、むしろ「何を受け取らないか」「誰の声を信じるか」「どの空間に身を置くか」を、より慎重に選ぶようになっています。
そう考えると、メディアの価値はリーチや接触量だけでは測れません。その接触が生活者にとって安心できるものなのか、信頼できるものなのか、参加したいと思えるものなのか。数字には表れにくい関係性の質が、これまで以上に重要になっています。
だからこそブランドに必要なのは、より大きな声でメッセージを届けることだけではありません。生活者が心を許している文脈の中に、どれだけ自然に存在できるかです。広告枠を買うだけでなく、安心できる場、信頼される声、共有したくなる体験の一部になること。届ける広告から、そばに在るブランドへ。カルチャーの変化は、ブランドと生活者の関係性が「接触」から「信頼」へと移り始めていることを示しているのではないでしょうか。
