「なんか、優良顧客が離れてる気がする……」など、ビジネスの中で漠然と感じる黄色信号から、問題解決の意思決定につなげる分析を実現するためには「何を分析するか」=課題・論点設計と、仮説の構築が重要です。マクロミルグループでマーケティング戦略支援を行うエイトハンドレッドのデータアナリスト上田拓朗氏が、データ分析の7つのフェーズを軸に、各ステップでAIをどう活用し、人間は何を判断すべきか解説する本連載。今回は1ステップ目となる課題・論点設計の基本とAIを活用するためのポイントを解説します。
AI時代のデータ分析術
─ いつだって分析は「問い」から始まる――AI時代のデータ活用で変わること・変わらないこと
─ 「何を分析するか」の決定が結果を分ける!課題・論点設計と仮説構築におけるAIと人間の役割(本記事)
─ 分析の前に一度立ち止まる勇気を。仮説を検証可能な数字に翻訳する「分析設計」5つの基本とAIの使い所
「何を分析するか」を決めるのが最も難しい
データ分析の現場では、分析担当者はしばしばこんな依頼を受けます。
「なんか最近、優良顧客が離れている気がするんだよね。ちょっと分析してみてくれない?」
実は、分析担当にとってやっかいな依頼です。もちろん依頼側に悪意がないことも、「問題がありそう」という感覚があることもわかります。しかし、「なにかありそう」という感覚をそのまま分析に持ち込んでも、有用な結果にはなりにくいのが現実です。
多くの分析プロジェクトが成果につながらない理由は、分析手法の選択ミスでも、データの不足でもありません。「何を明らかにするための分析なのか」が曖昧なまま走り出してしまうこと、つまり問いの設計の失敗にあります。どんなに精緻な集計も、問いがずれていれば意思決定には使えません。逆に言えば、問いがしっかりしていれば、シンプルな集計でも十分に示唆が出ます。
役に立つ分析を行うためには、「何を分析するか」を分析者自身が考え、咀嚼した上で手を動かすことが不可欠です。今回は、分析の論点を設定するための考え方と、その場面でのAIの活用方法をご紹介します。なお、本記事では「ドラッグストアの優良顧客理解」を例に取り上げます。
課題・論点設計の流れ
「ビジネス課題」をどのように「分析課題」へ変換するのか。まずは流れを整理しましょう。
出発点となる依頼(課題)は、たいてい漠然としています。「優良顧客が離れている気がする」「最近、売上の伸びが鈍い」「競合にシェアを取られているかもしれない」。これらはいずれも、まだ「分析できる問い」ではありません。
ここで必要なのが、ビジネス課題を分析課題へ翻訳するプロセスです。具体的には、次のような問いかけを自分に課しながら論点を絞り込んでいきます。
- 誰の話をしているのか?(全顧客? 特定セグメント?)
- いつから変化しているのか?(直近1ヵ月? 半年前から?)
- 何が変化しているのか?(来店頻度? 購入金額? 購入カテゴリ?)
- なぜそれを知る必要があるのか?(どんな打ち手を検討するための分析か? 誰に何を判断してもらうための分析か?)
たとえば「優良顧客が離れている気がする」という依頼を受けたとします。この「気がする」をそのまま分析に持ち込んでも、何を確認すればよいかが定まりません。まずやるべきは、感覚を事実に変えることです。そこで、次の問いで実態を確認します。
「直近半年で、優良顧客の人数や来店頻度・客単価はどう変化しているか」
もしかしたら、離れている優良顧客はごく一部だけかもしれませんし、頻度は落ちていても客単価は上がっているかもしれません。まず「本当に離れているのか、離れている場合は誰がどの程度か」を把握しなければ、その先の議論へ進めません。実態が見えて初めて、原因を掘る問いが立てられます。
調べたところ、実際に優良顧客の一部の来店頻度が低下していたとしましょう。すると、次の問いが生まれます。
「来店頻度が低下した優良顧客について、低下前後で購買カテゴリがどのように変化しているか」
ここまで来て、ようやく論点が整理され、「何をすべきか」という打ち手の議論ができる状態になります。ひとつの漠然とした依頼・問いが、段階を経ることで具体的な問いへと変換されていく、このプロセスこそが後の仮説構築や分析設計の土台になります。
こうした論点の分解には、イシューツリーという考え方が役立ちます。大きな問いを「そのために何を知る必要があるか」という形で階層的に分解していくことで、MECEに論点を整理できます。慣れないうちは、まずホワイトボードや紙に「問い」を書き出し、それを枝分かれさせていくだけでも十分です。
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上田 拓朗(ウエダ タクロウ)
株式会社RONNABYTE ブランド&マーケティンググロースDiv マネージャー
西日本旅客鉄道株式会社を経て、2022年に株式会社エイトハンドレッドへ入社。購買行動データ、Webアクセスログ、意識調査データ等を活用した業界横断的なデータ分析に従事。直近では、大手レジャー予約プラットフォームにおける販促・プライシング戦略...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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