AIは「思考と判断の質」にレバレッジをかける拡張装置
――AI活用が進む中で、マーケターの仕事にはどんな変化が起きていますか。
私はAIの専門家ではないことを前提に、クライアント企業の方も私も業務にAIを活用するようになった中での変化をお話ししますね。
基本的にAIは、思考と作業にレバレッジを効かせる拡張の装置だと認識しています。思考力が高い人や業務設計がうまい人には、思考・判断・作業の3つに対して素直にレバレッジが効く。生産性は上がるし、成果も上がり、打てる手数も増えます。
たとえば分析業務ですと、1万人規模のアンケートの自由記述のデータ処理は以前なら手作業も多く、1週間程度はかかっていたのが、数分で済むようになりました。N1インタビューでも、インタビューが終わってすぐにログ起こし、インサイトの要素が整理され、対象者のニーズがメジャーな話なのかニッチな話なのかの判断も、アンケートのテキストデータの定量的な傾向との照合までほぼ自動で済ませられます。これは、分析工数がネックで放置されがちだった蓄積データを、AIによって有効活用し、効果を実感したことの1つです。
ただ一方で、現時点ではAIだけで顧客理解やWHO/WHATの整理は、職人芸と比べると高水準とまではいかず下ごしらえの整理に留まり、顧客との接触量が多い人間による解釈も重要な要素で残ります。そのためAI任せで顧客理解が浅いまま施策に落として、「誰にも響かないバナーやLPが大量にできる」といった負のレバレッジも起きがちです。
戦略や判断が曖昧な会社では、量産力が上がったことで重要ではないことにもエネルギーを使わざるを得ない状況にもなりがちです。施策の品質判断に不安な人ほど、施策の数を増やすことでカバーしがちな傾向もあります。すべては、人の思考と判断と業務設計の質次第ということですね。
経営は「少ない人数でいける」と動き始めている
――組織の在り方はどう変化していると考えますか?
役割上の違いにより、経営層と現場の視点が一層乖離してきていると感じます。手を動かしている現場からすると、AIで楽になるどころかむしろ忙しくなっています。AIがあるとはいえ、実行やPDCAの自動化はまだ難しく、楽になるよりむしろ忙しくなっている。だから人を減らすのは反発を生みます。
一方、経営に近い目線では大きく2つの変化があります。
1つは、思考力や判断力が高い人がAIを使ったほうが、良いアウトプットが量産されるという話です。企画やアイデアや判断の質が大事な業務では、チームのジュニアメンバーを減らし、大勢のチームでやるより、思考の質が高い少人数や1人だけで済ませる動きが現実に起きています。典型的な「俺がやったほうが早い病」の蔓延ですが、ジュニアメンバーの育成の一点を除けば、生産性は実際に高い例が増えてます。
これは手を動かせる能力を持つ経営層ほど強く感じつつ、でも、この話を正直に社内でするのは部下を不安にさせ、部下との信頼関係を壊す話となるため、本音は言わずにさりげなく静かにチーム編成を変えるという方法で変化が起きています。
もう1つは、コスト側の話です。マーケティングの売上向上は目標として目指しつつも、経営からすると不確実性が高いのも本音です。しかし、コスト削減は実行すればPLに100%確実に響く。10人の仕事を5人にできるなら、そのコスト削減のインパクトは大きく確実です。ただ、AIの進化は日進月歩であるため、着地点としてどの程度の人数が必要か、誰も読めないから、とりあえず中途採用を止める、新卒採用を減らすという判断も水面下で相当起きています。
まとめると、現場の実感と乖離があったとしても、経営目線では「より良いアウトプットをより少ない人数でやれるはずだ」という方向は確実に強まっています。(次ページに続く)
