「営業が動く理由」を設計する。重要顧客20社×1キーワードから着手せよ
では、管理職や業務設計(Ops)を担う部署は何をすべきか。和田氏が示したのは、VoCをもとに「営業が動く条件」を設計する考え方である。
全顧客に一律でアンケートを送るのではなく、更新前や利用頻度が低下したときなど、判断が必要な場面で声を取り、その結果をCRMへ戻す。その上で「このシグナルが出たら、この担当者が、この理由で動く」と条件をあらかじめ組織で定義しておくのだ。
たとえば「競合検討中」と答えた重要顧客がいれば担当営業へ即座にアラートを飛ばし、特定機能への要望が増えていればマーケティングや開発へ傾向として共有する。また、営業のCRM画面には商談に関する示唆を、マーケティングや開発にはダッシュボードで課題傾向を示すなど、見せ方も役割に合わせて最適化する。
「マーケティングが良いリストを作るのではなく、『営業が動く理由』を作る。この発想の転換が必要です」(和田氏)
VoC活用における現場負荷に関する調査データも示された。「設問設計(=思考)」と「リスト作成・配信対象の抽出(=作業)」がほぼ同率で上位に並ぶ。「人が思考すべき仕事」が、「自動化できる作業」に侵食されている──これこそが現場の停滞を生む構造だ。
さらに深刻なのが、「共有スピードの遅さ」である。ネガティブな回答が届いたとき、関係部署への共有に1週間以上かかる企業が約45%にのぼる。だが、顧客の不満には「賞味期限」がある。営業が知らないうちに競合比較が進み、翌月のレポートで初めて知るのでは遅すぎる。
解約検討、競合比較、サポートへの不満といったシグナルを早く拾えるかどうかで、次の一手は変わる。「月次のバッチ処理型」から、必要な声を必要な人へすぐ届ける「リアルタイム連携」へ。これは単なる作業の効率化ではなく、LTVを守るための初動設計だと和田氏は位置づける。
とはいえ、「大規模なシステム構築を目指す必要はない」と和田氏は言う。まず着手すべきは、「優先度ラベル」と「キーワードの検知」だ。「解約検討」「競合比較」「対応への不満」といった該当する回答が届いた際、即日エスカレーションを行い、顧客カルテを自動更新して担当営業へアラートを飛ばす。
「いきなり全社対応を目指さないこと。まずは重要顧客20社、そして1つのキーワードから始めてください」(和田氏)
完璧なルールを目指せば、また現場の作業が増える。小さく始め、反応を見ながら条件を磨くことが重要だ。
ツール選定に関する調査でも、現場が重視するのは「直感的に操作できる」「誰でも引き継げる」「サポートが手厚い」といったポイントであり、「機能の豊富さ」は最下位という結果が出たという。高機能でも一部の担当者しか使えなければ、担当者が変わった時点で運用は止まり、関係性を資産として積み上げられない。和田氏は、同社のCRM「Synergy!」も同じ思想で開発されていると触れた。
「ツールを使いこなす組織」が、模倣されない成長基盤をつくる
では、現場が作業から解放された先に、一体何が待っているのか。
「業務時間を削減できたらその時間を何に使いたいか」という問いに対し、1位は「コンテンツ制作」、2位は「企画・戦略立案」となり、「残業削減」は3位に沈んだ。
「現場はただ休みたいのではなく、本来やりたい仕事をやりたいと考えているのです」——和田氏はそう現場の真面目さと熱量を代弁した。定型作業から解放されれば、人は自然と顧客理解や企画立案といった「AIには代替しにくい仕事」へ向かっていく。LTV最大化に必要なのはツールの数や機能の多さではなく、「ツールに使われる組織」から「ツールを使いこなす組織」への転換なのだ。
セッション終盤、和田氏が「今日一番お伝えしたいこと」として掲げたのが、「VoCとCRMで、模倣されない成長基盤をつくる」というポイントだ。
CPA最適化もMQL最大化も、これからも重要であることに変わりはない。ただ、AIによる均質化のなかで差は次第に消えていく。その「施策の外側」に存在する価値が、「顧客との関係性」という真の資産である。VoCをCRMに紐づけ、「誰がどんな課題を持ち、いつ、なぜ動くべきか」を組織で設計する。この情報は広告プラットフォームから買えず、競合が同じAIツールを入れても模倣できない。自社の顧客接点、自社のVoC、自社の営業活動のなかでしか育たないからだ。
その上で和田氏は、本セッションの締めくくりとして「持ち帰るべき3つの判断」を提示した。
- 「ただのリスト渡し」をやめ、「この人にはこの理由で今動くべきだ」と渡すこと
- VoCを活用し、営業が動く「理由」を作ること
- リアルタイム連携により、現場を作業から解放すること
「1つの条件、1つの声、1つのアラートから始めてみてください。大規模なシステム開発より先に、運用の設計を変えることこそが第一歩です」(和田氏)
今日から変えられる「運用の設計」が、2年後、3年後に競合には模倣できない大きな差となって現れるはずだ。

