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楽天銀行が抱いた「アンケート結果への疑問」を払拭した、楽天リサーチのWeb Log分析

 アンケート調査を実施したところ、回答結果に対して違和感を持つ。そのような経験をしたマーケターも少なくないのでは? 楽天銀行では、この「何かおかしい」という曖昧な疑問を解き明かすため、Webサイト訪問前後の行動を可視化する、楽天リサーチの「Web Log分析」を活用。ユーザーの認識と行動の乖離を実数値として把握し、対策を打ち始めている。今回、調査の流れと結果の詳細を取材した。

楽天銀行が取り組んだ新たな調査とは

 ネット銀行最多の口座数(※2016年9月時点)を誇り、急速に利用者数を伸ばしている「楽天銀行」。同社は楽天リサーチをマーケティングリサーチのパートナーとして、アンケートやインタビューといった消費者調査、およびアクセスログ解析を進めている。

 同社は、定性・定量調査から見えてくる楽天銀行への評価と、提供するサービス実態の間に横たわる違和感を解き明かすべく、アンケート調査とWeb上のアクセス解析(Web Log分析)をかけ合わせたマーケティングリサーチを行った。そこから見えてきたものは何か。詳しい話を取材した。

左:楽天銀行株式会社 個人営業本部 個人営業推進部 部長 黒川智玄氏、右:楽天リサーチ株式会社 第一事業部 部長 兼 営業企画部 プロダクトマネジメントチーム チームリーダー 中村俊也氏
左:楽天銀行株式会社 個人営業本部 個人営業推進部 部長 黒川智玄氏
右:楽天リサーチ株式会社 第一事業部 部長 兼 営業企画部 プロダクトマネジメントチーム チームリーダー 中村俊也氏

全国約9万台のATMに対応も「ATM少ない」の声が集まる矛盾

――急速に顧客数を伸ばしている楽天銀行ですが、徹底したマーケティングが功を奏していると伺います。そこになぜ、何を目的として、Web Log分析を活用するに至ったのでしょうか。

黒川:楽天銀行はネット銀行最多の口座数(※2016年9月時点)を有していますが、世間の認知・理解は十分とは言えません。そうした中で、私が部長を務める個人営業推進部では、ユーザーのインサイトに応じた適切なマーケティング施策の立案・実行を重要な業務としています。

 昨年、アンケートとインタビューによるユーザーニーズに対する定性・定量調査を行ないましたが、さらに深い分析をして施策に活かすために、ユーザーのネット上の行動を分析することにしました。

中村:楽天銀行さんにご利用いただいたWeb Log分析は、当社の「楽天アクセスログリサーチ」サービスの一つです。もともと楽天リサーチは、アンケートおよびインタビューによる定性・定量のマーケティングリサーチを提供していたのですが、楽天グループの強みを活かすべく2016年より「楽天アクセスログリサーチ」を開始しました。サービス内容は大きく3つに分かれます。

 まず1つめがクッキー情報を利用して、特定のサイトや広告を閲覧した人にアンケートを実施する「Web Tracking Panel」です。広告に接した人が「サイト外で商品を購入したか」「ブランドにいいイメージを持ったか」など、コンバージョンやクリック率では測定できない部分を補完することが目的です。

 そして、2つめが「Real Timeアンケート」。特定のページを訪問した方に直接アンケートを行うものです(こちらの記事で事例を紹介しています)。3つめが今回ご利用いただいた「Web Log分析」です。Webサイト訪問前後の行動を可視化するサービスで、蓄積済みのデータを活用するため、即時の分析や追跡調査が可能です。訪問ページや検索キーワードなどがわかり、自社だけでなく競合他社のデータも分析対象とできるため、その差分から課題やビジネスチャンスを発見することができます。

黒川:まさにそこが選定ポイントの一つでした。ユーザーが銀行を選ぶときの基準、重視する点、情報収集方法などを調査し、意思決定および行動プロセスを可視化することで、効果的なコミュニケ―ション戦略を立案するための楽天銀行の“強みと弱み”を見出したいと考えていました。

 実は、昨年実施したアンケートでは、インターネット銀行を開設した理由として「ATM数の多さ」をあげるユーザーが多かったのですが、楽天銀行を開設したユーザーは、他のインターネット銀行と比較すると開設理由に「ATM数の多さ」をあげたユーザーの割合が少ないという結果が得られました。しかし、実際には全国約9万台のATMに対応しており、決して他社にひけはとりません。そこで、「お客様の認識と実態に差があるのではないか」「お客様の言葉と行動に乖離があるのではないか」と考えたのです。本当に顧客が重視しているものは何か、またその領域でのコミュニケーションが適切に行われているか、検証のためにWeb Log分析を行ったわけです。

中村:アンケートで聴取できる自己申告による「意識データ」と、Web Log分析で得られる「行動データ」の両方をみていくことで、新たな気づきを得られる可能性があります。1つの調査結果で決めつけるのではなく、多面的に事象を捉えることが大切です。

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ATM数を重要視すると回答しつつ、関連ページは閲覧していない現実

――定性・定量アンケートおよび「Web Log分析」では、いつどのようなことをされたのですか。具体的に教えてください。

黒川:アンケートも楽天リサーチさんと行ったのですが、そこで先程触れた矛盾点が気になり、相談したところ「Web Log分析」をご紹介頂きました。

 2016年の1月に楽天銀行と競合の4社分について、申し込みというコンバージョンを起点に3ヶ月前まで「Web上でどのような遷移をしたのか」という行動プロセスの分析をしました。

中村:今回はアンケートで得た仮説をもとにWeb Log分析を行ないましたが、Web Log分析を行って、アンケートを取る流れも良いと思います。複数の分析によって、事象を正しく理解できないか? と考える姿勢が重要だと考えています。

――取り組みから、どのような調査結果がわかりましたか? また、その結果を受け、どのような行動を取られたのでしょうか?

黒川:まず、Web Log分析のきっかけとなった「ユーザーのATMの数に対する興味」についてですが、他社を含めた5行の総アクセス数からは、ATMの数に対する関心度はあまり高くないことが判明しました。

 つまり、アンケートで重視していると回答されている割に、サイト内でATMの情報は確認されていないわけです。関心はあるのにお客様自身が積極的に情報を見ないということは、「ATMが少ないのではないか」という誤ったイメージを払拭するためには、当社からコミュニケーションを取る必要があると考え、即座に当行のメリットを訴求するページを改善しました。

判明「アプリ関連ページ閲覧者のCVRは非閲覧者を大きく上回る」

中村:予想はしていたものの、アンケートとWeb Log分析の差は大きかったですね。そこで、「オフラインで利用者が重視すると答えた項目に則って、オンラインのコミュニケーションフローを構築すると、コンバージョンに直結するのか?」という疑問に立ち返り、利用者が重視すると答えた全項目のWebページ閲覧状況について自社他社を比較し、PV、UUの違いを分析しました。

黒川:明らかになったことが「アプリの利便性」に対する評価の高さです。もともと楽天銀行では、強みの1つとして「アプリの利便性」は掲げてきたのですが、これまで客観的に調査したことはありませんでした。しかし、Web Log分析の結果では、楽天銀行への口座申込に至った人の3割以上がアプリに関するページを閲覧しており、さらにページを「見た人」は「見なかった人」よりコンバージョン率で大きく上回ることがわかりました。それは他社と比較しても有意差があり、楽天銀行の強みとして多くのユーザーに訴求すべきだと感じました。

中村:口座申込をしたユーザーとしなかったユーザーの行動の違い、さらに何がキーとなってコンバージョンに結び付いたかを解明することができたのは、大変有意義だったと思います。今回の調査ではパソコンのみの結果なので、スマートフォンも含めた調査をすると、さらにもっと明確な差が生まれる可能性があると考えています。

黒川:そうなると、アプリによる利便性を強く訴求するのはもちろんですが、たとえば、支店番号や口座番号がわからなくても振込先のメールアドレスとカナ口座名義だけで振込みができる「メルマネ」、FacebookやViberと連携するとカンタンに振込できるサービスのプロモーションに今まで以上に取り組んでいきたいと思っています。

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可視化による共通認識の醸成で対策スピードも向上

――Web Log分析を使って感じた利用メリットはありますか?

黒川:一番のメリットは「実測値として可視化できたこと」でしょうか。それまで感覚値のみだった「ATM数の評価への違和感」や「アプリへの関心の高さ」などを実測値として可視化することで社内での共通認識の醸成につながり、マーケティングはもとより、サービス開発においても具体的な施策へとスピーディに移行することができました。そうした機会を得られたこと自体が大きな収穫だったと感じています。

 また、自社だけでなく他社サイトについても分析できる点は重要でした。比較して初めて自社の強みや弱みがわかり、どこの銀行と比較されているかがよくわかりました。

中村:楽天リサーチとしても、「オンラインだけ」と「オンオフ含めて」のマーケティングでは、それぞれ異なるコミュニケーションが必要になりそうだと気付きを得られました。新たな視点を手に入れたことで、いっそうお客様のマーケティング支援に貢献できると感じています。

楽天グループの強みを活かしたデータ活用を

――最後に、今後の展望について教えてください。

黒川:今回の調査結果で、楽天銀行の現状を定量的に把握することができました。強みとして明確になった「アプリの利便性」については、サービス開発、プロモーションに活かし、ユーザー満足度をさらに高められるように邁進してまいります。

中村:今回はPCベースでしたが、2017年からスマホのログ分析もできるようになり、シングルソースでデバイス間のユーザー行動が掴めるようになります。現在でもWeb Log分析できるユーザー数は業界最大級ですが、さらに分析の対象数を増やし、データ分析の充実を図っていきたいと考えています。さらに楽天グループには多彩なデータセットがあるので、例えばメーカーに対しては楽天市場の消費者行動分析データと掛け合わせて分析するなど、さらなる活用方法をご提供できればと思います。

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウマミ)

フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの製作などを経て独立。ビジネス系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2016/12/16 19:12 https://markezine.jp/article/detail/25694