時代の空気を読んで人の心に残るプロモーションを実施
続いて、KINCHOブランドで知られる大日本除虫菊で取締役相談役を務める上山久史氏が、KINCHO流コンセプト設計のポイントを説明した。
同社で最も重きを置くのが「時代の空気を読む」ことだと言う。
「一番は今の消費者の空気感、流行っていることを意識しています。時には便乗商法と言われることもありますが、広告なのでいかに人の心に残るかが重要です」(上山氏)
この心得を持って制作した広告の一つが「ケースバイケース広告」だ。
2020年に発売したゴキブリムエンダーだが、当時の世の中はコロナ禍の真っただ中だったことで自粛ムードが流れていた。しかし、政府からは積極的な経済活動が推奨されており、広告をどのようなスタンスで作ったら良いのかを悩んだと上山氏は語る。そこで、その“戸惑い”の気持ちを正直に表現し、六つのパターンで新聞広告を制作。「消費者皆様の気分に合わせて読んでください」という打ち出し方が斬新で話題になった。
上山氏はこのヒットを次のように分析する。
「当時は、我々も消費者の方も非常に苦しんでいました。その気持ちをくみ取り、企業側と消費者の空気が一つになったことで拡散した良い広告だったと思っています」(上山氏)
続いて加藤氏は、KINCHOが2021年7月に実施した「いま、いいよね。一方通行の新聞広告」についても言及した。同広告は、ゴキブリ駆除の四つの製品を訴求するために実施したもの。しかし、ゴキブリに関する要素を前面に出すと消費者に敬遠されてしまうため、商品を強調するのではなく、見た人に疑問に思ってもらうことを狙ったと上山氏は語る。
「Web広告ではユーザーの行動に沿って商品がピンポイントで紹介されるので、監視されているように感じる人も少なくないと思います。そこでその空気感を逆手にとって、新聞広告であればじっくり読んでも広告が追いかけることはないと新聞広告の良さをほめる広告を展開しました。そして、QRコードからサイトを訪問してもらうことで製品の認知拡大を目指しました」(上山氏)
その結果、KINCHOがおもしろいことをやっていると話題になり、掲載月のサイトアクセス数は約17万件となった。
さらに、新聞購読者に向けて一日ごとに広告サイズが小さくなる「ダウンサイズ新聞広告」や、CMを宣伝する新聞広告「LOVEメディア広告」の例も紹介。加藤氏はこうしたKINCHOの戦略について「商品の説明をほとんどしていないのがすごい。イノベーティブな商品ほど機能を伝えがちななか、思い切った施策」と評した。
消費者目線の徹底がアイデア創出の秘訣
では、このような広告のアイデアを発想するコツは何かあるのだろうか。日本ハムの長田氏は次のように語った。
「アイデアを出す時には社内の数名で行うのではなく、広告を一緒に作ってくれている代理店を巻き込んだ一つのチームで行っています。こうすることで本当にいろいろな角度のアイデアをぶつけ合うことができ、その中で最後まで残ったアイデアを採用するようにしています」(長田氏)
一方、大日本除虫菊の上山氏は次のように語った。
「絶対うまくいくと断言できるような方法はいまだに見つかっていませんが、そんな中でも、本日頻出しているキーワード“消費者目線”は意識して広告作りをするようにしています。消費者目線に立っておもしろいと感じた広告は沢山の反応が得られることが多いです」(上山氏)
広告が上手くいったという手応えについては「営業から不満がなかったら成功」と上山氏。長田氏は「気になる広告として朝の情報番組など多くのメディアに取り上げていただいたことで、主要な購買層に届いた」と、反響から手ごたえを感じたことを振り返った。