デジタル戦略強化に取り組むジュピターショップチャンネル
LINE公式アカウントを単なる「つながる手段」としてではなく、価値ある顧客体験の実現に向けて積極活用している企業が大きな成果を挙げている。
TimeTechnologies社が提供したセッション「既存顧客をアプリへ導く。ショップチャンネルが実践する『LINE×アプリ』でロイヤルユーザーを動かすCRM戦略」に登壇したジュピターショップチャンネルもそうした企業の1つだ。
(写真右)ジュピターショップチャンネル EC本部 Eコマース部 eCRMグループ LINE・アプリチーム長 相澤 将吾氏
ジュピターショップチャンネルがLINE公式アカウントの運用を開始したのは2023年。友だち数が増加するにつれ、ある課題が浮上した。同社の相澤将吾氏は「友だち数の増加にともなって配信費用がかさみ、きめ細かいセグメント分けをしたメッセージ配信が難しいという課題に直面しました」と説明する。
この課題解決を支援したのが、TimeTechnologies社が提供するLINEに特化したAI×MAツール「Ligla(リグラ)」だ。
ジュピターショップチャンネルの主な購買チャネルは、テレビショッピング、Web(ECサイト、ネイティブアプリ(※1)の3つ。会員のWeb利用者・アプリ利用者数は約半々だという。
Ligla導入後、まず着手したのはWeb利用者に対するLINE公式アカウントを活用したパーソナライズ施策だ。過去の購買行動・閲覧履歴に基づく商品レコメンド、スタンプラリーやおみくじルーレットなどキャンペーンによる休眠顧客の掘り起こし、顧客情報を活用したバースデークーポンなどのCRM配信を行った。
細やかな配信を実現した結果、ユーザーは自分に合った情報を取得できるようになり、LINE公式アカウントのブロック率が低下。また、ゲーミフィケーション(※2)要素を取り入れた休眠顧客の掘り起こしにより、半年間購入のなかった休眠顧客の購買につなげた。
※1 ネイティブアプリ:App StoreやGoogle Playなどのストアを経由して、スマートフォンやタブレットにダウンロード・インストールして使用するアプリ
※2 ゲーミフィケーション:ゲームが持つプレイヤーを活性化させるノウハウを、ゲーム以外の領域に使うこと
アプリとLINE公式アカウントの掛け合わせでさらなる相乗効果
同社ではWeb施策の成果を受け、LINE公式アカウントからアプリ利用者へのメッセージ配信施策を開始した。ネイティブアプリのイベントログデータをLiglaと連携し、セグメントを作成。各セグメントに応じたメッセージ配信を行った。
具体的には、アプリで商品詳細ページを閲覧したまま離脱したユーザーへの「閲覧リマインド」を実施し、従来のWeb施策と配信通数(コスト)は変わらないものの、3倍のCV数(売上)を記録した。
また、カートに商品を入れたままのユーザーへの「カートリマインド」では、アプリ内行動を捕捉できる対象者が増えたことで、CV数はWeb施策の5倍に達するなど、アプリユーザーならではの圧倒的な効果を実現したという。
施策の精度を高める上では、Liglaのアフターサポートが大きな役割を果たした。
「カートに商品を入れた後に購入がなかったお客様へのリマインド配信については、配信時間を最適化する分析もご協力いただき、しっかり結果につながりました」(相澤氏)
売上額全体は前年同月比で110%の増加。そのうち、アプリ経由の売上は前年同月比で123%、LINE公式アカウントの配信経由の売上は同135%と、売上増に大きく貢献した。TimeTechnologies 代表取締役CEOの柴田剛氏は「効果は高いと予想していましたが、アプリデータとLINEのこれほどの相性の良さは、新しい発見でした」と振り返る。今後も両社は、LINEを通じた顧客体験の改善に取り組んでいくという。
続いて紹介するのも、CRMにおける高度なLINE活用を事例に基づいて解説するセッションだ。業種の異なる3つの事例が一挙に語られた。
メッセージ配信を「メルマガの延長線にしない」工夫
同日のセッション「LINEを使う企業と、LINEを顧客体験に実装する企業。――多慶屋・ミルボン・アニフェアに学ぶ成長戦略」に登壇したのは、LINEを起点にしたセールス・マーケティングプラットフォームサービスを展開するクレッシェンド・ラボ社と、同社のクライアントである多慶屋、ミルボン、社団法人アニマルウェルフェア東京だ。
クレッシェンド・ラボ カントリーマネージャー 猪股 唯耶氏
多慶屋 執行役員 渉外・マーケティング統括 馬 躍原氏
ミルボン マーケティング本部 ブランド・DXデザイングループ ECプロモーション企画室 マネージャー 宮城 愛実氏
アニマルウェルフェア東京 理事 横田 惟宇氏
クレッシェンド・ラボ日本法人カントリーマネージャーの猪股唯耶氏は、LINE公式アカウントのメッセージ配信をメルマガの延長として使うだけに留まっている企業がいまだに多い現状を指摘する。
「LINE公式アカウントはリーチ力が高いからこそ諸刃の剣となり、メッセージを送った結果ブロックされてファンを失うこともあります。LINEを顧客体験に実装することで、事業成長につなげることができます」(猪股氏)
LINEを顧客体験向上の基盤として活用したい企業に向け、クレッシェンド・ラボが提供しているのが「MAAC(マーク)」と「CAAC(カーク)」だ。
MAACは、AIが顧客行動データを活用し、LINE公式アカウントで最適なコミュニケーションを実現するためのマーケティングプラットフォーム。CAACは、営業・CS向けソリューション基盤として、LINE公式アカウントやInstagramなどの主要チャネルを統合し、きめ細かい顧客対応を実現するマルチチャネルプラットフォームだ。
多慶屋とミルボンではMAAC、アニマルウェルフェア東京ではCAACを導入し、LINE公式アカウントを通じた顧客体験の向上に取り組んでいる。
LINEで体験価値を高める各社各様の取り組み
多慶屋は、東京・上野御徒町にある老舗のディスカウントストアで、台湾やタイなどの訪日外国人客、国内の中高年層から支持されている。台湾での利用率が高いLINEは、この顧客層に最適なチャネルだ。
2023年にMAACを導入した同社は、ユーザーの嗜好に応じたセグメント配信や、ポイントカードのLINE統合を行い、きめ細かいコミュニケーションを行ってきた。最近はMAACのビーコンとも連携し、店舗から半径数メートル〜50メートル圏内にLINE公式アカウントの友だちが近づくと、自動でメッセージが届く仕組みを構築。「いかにユーザーの日常に溶け込み、コミュニケーションを行うか」に工夫して取り組み、実現している。
美容室専売ヘアケア商品メーカーであるミルボンは、同社商品を導入している美容室が出店するプラットフォーム型のECサイト「milbon:iD」を展開している。milbon:iD会員になるには、出店美容室のカウンセリングが必要となり、商品の売上は美容室に入金される仕組みだ。
同社は、milbon:iDの会員情報とLINEアカウントのID連携を前提として配信設定を行っている(※3)。MAACで会員の登録美容室と購入可能な商品を「タグ」として管理することで、LINE上で会員に最適なメッセージのセグメント配信を可能にし、美容室の売上に貢献。また、milbon:iDの美容室向け管理画面から一部の配信を制御できるようにMAACと連携開発し、美容室個別のクーポン配信なども可能に。このミルボン、美容室、会員の三方良しの施策で、ID連携率は83%と高い水準を保ちつつ、LINE公式アカウントのブロック率は8.3%(2026年4月時点)と低く抑えているという。
※3 会員情報とLINEアカウントのID連携は、ユーザーの許諾・同意が必要です
全国5拠点でシェルターを運営し、毎月約500頭の保護犬に里親を決めているアニマルウェルフェア東京は、里親となった人とのつながりを一過性のものとしないために、LINE公式アカウントおよびCAACを活用している。それまで同団体の対応窓口は、LINE・メール・電話・InstagramのDMとバラバラだったが、CAACを通じて一元化した。これにより、問い合わせ工数を月60時間削減し、対応品質も均一化、引き継ぎコストもほぼゼロとなったという。
クレッシェンド・ラボの猪股氏は「100社いれば理想的な顧客対応も100通りあります。異なる取り組みをされている3社のお話が参考になればと思います」と語り、セッションを締めくくった。
最後に紹介するのは、最適な顧客接点をゼロから素早く構築できる「AI×LINEミニアプリ」の最前線だ。
顧客体験を「育てる」時代。AI × LINEミニアプリ開発の可能性
最後のセッション「AI × バイブコーディングでLINEミニアプリ開発はここまで進化する――『作れる』だけでは終わらない、これからの顧客接点づくり――」に登壇したエボラニ 取締役CSOの永井将史氏は、LINEを活用した顧客接点作りについて、「LINEミニアプリ」という観点から解説した。
エボラニは、LINEヤフーとKakaoという日韓の2大コミュニケーションプラットフォームから出資を受けている開発企業。特にLINEヤフーは同社について、マーケティングソリューションの導入ならびに支援など各領域に特化したパートナーを認定する「LINEヤフーPartner Program」において、LINEミニアプリとコミュニケーションの2部門におけるTechnology Partnerとして認定している。開発ノウハウや知識がなくてもノーコードで自動接客を実現するLINEミニアプリ開発プラットフォーム「anybot(エニーボット)」を提供しており、1万社以上の顧客を抱え、大手企業を中心にタイや台湾の企業・ブランドにも利用されている。
同社の永井氏が会場を訪れた参加者に示したのは、「AIでアプリを容易に開発できるようになった今、顧客接点・顧客体験を作るだけでなく、“育てる側”になりませんか」という提案だ。
永井氏によると、中国やアメリカ、韓国では、既にスーパーアプリ上で顧客体験を設計し、購買体験まで完結する世界観になっているという。中国のWeChatをはじめ、XmoneyやXchatでスーパーアプリ化を目指す米国のX、そして韓国で決済を軸に目覚ましい勢いで発展中のTossなどがそれにあたる。特にTossでは、非エンジニアでも生成AIで容易にアプリを開発できる「バイブコーディング」でミニアプリを立ち上げることができるため、一般のクリエイターもこぞってアプリ開発に参加している。「開発にかかる期間はわずか1日程度」という事例もあるという。
リピート購買3割増の事例も。ミニアプリ導入の勝ち筋とは
LINEもこうしたスーパーアプリへと進化する可能性があるが、永井氏はLINEミニアプリの現状課題として、3つの問題点を指摘した。
1つ目は開発などの立ち上げ負荷が非常に重く、スピーディーにアプリを実現できないこと。2つ目に単発で終わるLINEミニアプリが多く、育っていかないこと。3つ目にデータの分断が起きやすいことだ。
一方、サービスの継続的な改善を行っているグローバルトップ企業は、ビジネス上でも大きな成果を挙げている。たとえばNetflixは、サムネイル改善を行うことでクリック率を20%向上し、年間10億ドルの価値を生み出している。WeChatでも、ラグジュアリーブランドがゲーミフィケーションを取り入れてリピート購買を3割増加させているという。
「LINEミニアプリも、一度作って終わりではなく、改善を重ねて育てていくことで、大きなビジネス成果が生まれます」と永井氏は言う。
そんな同社が提案するのが、バイブコーディングを実現する「AnyApps(エニーアップス)」だ。永井氏によると、「カップラーメンが3分待てば美味しい体験を提供するように、3分あればアプリのシナリオからUI、機能実装までを仕上げ、LINE上でリリースできるようになります」という。
永井氏は実際、セッション参加者の協力を得て、AnyApps上で「人材紹介会社のキャリアアドバイザーと面談予約できるアプリ」の開発デモを行い、AIとノーコードを活用して短時間で実装できることを示してみせた。
最後に永井氏は、「何を作るかというよりも、どれだけ早く改善できるかが顧客体験の価値になる」と述べ、ミニアプリのさらなる活用に取り組む必要性を訴えた。

