SmartHRが「やさしい日本語」をはじめた理由
白石:SmartHRさんは2024年より「やさしい日本語」対応の取り組みを開始されていますね。まだまだ、「やさしい日本語」に対応する企業は少なく以前より注目していました。取り組みの経緯や、背景について詳しくうかがえますか。
「やさしい日本語」とは:文法・言葉のレベルや文章の長さに配慮し、わかりやすくした日本語。阪神・淡路大震災をきっかけに、外国人にも迅速に正しい情報を伝える手段として始まった取り組み。子供やお年寄り、障害者にとってもやさしいコミュニケーションになる(東京都多文化共生ポータルサイト『やさしい日本語とは』参照)。
坂巻:前提として、当社のサービス「SmartHR」では、多言語対応機能として8言語に対応しています。2019年に英語を含む5言語の提供からスタートし、お客様のご要望に応える形で拡大してきました。その背景には、技能実習生や外国人雇用を進める企業が増えてきたという日本の労働環境の変化があります。
そこからなぜ「やさしい日本語」を始めたのかというと、私たちの多言語機能の位置付けが「外国人に使ってもらうために外国語を追加しよう」という考え方ではなく、「すべての人に使ってもらえるサービスであろう」という思想を土台にしているからです。
私が所属するアクセシビリティ本部には障害者や高齢者に向けたアクセシビリティの向上に取り組むチームと、外国人向けの情報アクセシビリティをテーマにするチームが共存しています。単に外国人向けという区切りではなく、「日本におけるマジョリティ以外の人」も含めたみんなが当たり前に使えるようにするために何が必要か、という視点からこの取り組みが始まっています。
「誰1人取りこぼさない」ための顧客理解
白石:SmartHRさんは「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」というミッションをお持ちですね。みんなが使えるサービスを目指すという考えともリンクしますが、「誰もが」とは誰を指すのでしょう?
坂巻:「誰もが」と聞いて思い浮かべる姿は人それぞれ違います。この「誰もが・みんな」の想定から、こぼれ落ちてしまう方々がいます。その理由は外国人や障害者といった「属性」や、「モチベーションが湧かない」「体が辛い」といった、その人がそのときに置かれている「状況」など様々です。そのすべてをカバーして、誰もが使えるようにすることが目標です。
「やさしい日本語」導入の背景につながるのですが、私は元々、障害者や高齢者向けの情報アクセシビリティの専門家として働いてきました。そのため、外国人向けの多言語対応とは少し異なる領域ですが、「みんなに使ってもらう」という使命は共通しています。一方で、私自身が趣味で外国語を勉強しており、海外の文化に興味を持っています。個人的な興味と、情報のわかりやすさとしての「やさしい日本語」がリンクして「これなら、外国人の方にも知的障害のある方にも、どちらにも使っていただけるものになるのではないか」とひらめきました。
白石:坂巻さんの個人的な経験や、そこからの視点を活かしてスタートされたのですね! 人には重要ではないと判断したものを無意識に見えなくしてしまう「心理的盲点(スコトーマ)」があります。そうした盲点を埋めるために、日頃から気をつけていることはありますか?
坂巻:とにかく想像力を働かせること。そして、当事者の「生の声」を徹底的に知るようにしています。たとえば、海外から日本に働きに来られている方々が求人情報をシェアしたり、「今こういうことで困っている」と助け合ったりしているFacebookコミュニティやLINEグループに参加しています。
SmartHRの社内にも外国籍メンバーはいますが、彼らはIT企業で働いていて日本語レベルも非常に高いです。その意見だけを基準にしてしまうと、現場で実際にサービスを使う方々のリアルな使いやすさとは乖離してしまう危険性があります。自社基準のバイアスを取り除き、「こんなところで困るんだ」というひらめきやインサイトを拾い上げるようにしています。
