「プレーヤーが主役」という純粋性と共存するビジネス視点のあり方
──特定のカルチャーに企業が深く関わることに対して、プレーヤーからの反発やアレルギーは起こらないのでしょうか。
熊倉:私たちに関しては、率先してリスクを取り、コートや情報といった「市場に足りないもの」を提供してきた経緯があり、プレーヤーの方々からは「自分たちも一緒に市場を盛り上げる仲間」として助けていただいたり、「応援しています」と感謝されたりすることが多いです。
実際に、大会運営のスタッフを募集した際には、わずか2日で400人以上の応募がありました。プレーヤーの皆様が「自分もコミュニティの一員として何か手伝いたい」と主体的に関わってくれており、一緒に競技を広げる仲間として受け入れられている感覚があります。
中司:これは立場によっても見られ方が異なると思います。カルチャー形成の初期段階で、市場の摩擦を身を挺して解消してきたピックルボールワンさんは既にコミュニティの「仲間」ですが、後から参入する私たちのような企業に対して、「商業化されすぎるのではないか」と不安を抱く方もいるかもしれません。
だからこそ、大切なのは企業が主役になるのではなく、プレーヤーやコミュニティが主役であり続けることです。初期の熱意や善意に頼るだけでは、長い目でみるとどこかに無理が生じてしまい、普及や成長が停滞する可能性もあります。企業の力を使って、プレー体験を豊かなものにしたり、より多くの人がコミュニティに参加しやすい環境を整えたりと、ピックルボールの熱量がより長く、より健全に続く状態を作っていきたいと考えています。
社会に根付き、ウェルビーイングを支える「日常の風景」を目指して
──最後に、ピックルボールの普及と市場成長に向けた、お二人の今後の展望をお聞かせください。
熊倉:ピックルボールが、「誰もが当たり前にプレーするスポーツ」として日常風景に完全に溶け込んでいる状態を作ることが私の目標です。
これからAI技術がさらに進化すれば、人々の余暇の時間は圧倒的に増えていくはずです。その時間をどう使うかが人生において重要になる中で、自動的に流れるコンテンツを眺めていたずらに浪費するのは少しさみしい気がします。それよりはピックルボールを通じてリアルな人間同士のつながりを楽しむことのほうが、心身の健康にとって遥かに価値がある選択肢ではないでしょうか。このスポーツを通じて、多くの人が幸せになる世界を作っていきたいです。
中司:特別な人たちだけがプレーするのではなく、家族や友人、会社の仲間や地域の人たちにとって「誰かとつながるための身近な選択肢」として、自然に選ばれるスポーツになってほしいです。
生活者に近い体験の入り口が増えていくことで、競技としての広がりだけではなく「社会の中での意味」が育まれていくと思います。単なる余暇活動に留まらず、生活者にとっても企業にとっても価値のあるスポーツとして根付かせること。そして、この社会に根付いていくプロセス自体が、他の新興スポーツやカルチャーを育てていく上での「市場形成のモデルケース」になることを目指して、引き続き取り組んでいきます。

