良質なコンテンツの流通を支援するのがメディアの役割
一方、キュレーションアプリ「antenna*」を展開するグライダーアソシエイツ 取締役副社長の荒川徹氏も、昨今のキュレーションメディアの問題を危惧する一人だ。
荒川氏は「良質な記事や特徴を持ったメディアやコンテンツこそ、世の中に流通するべき」という考えを持っている。そんな荒川氏が注目しているのが、企業が持っているコンテンツだ。
たとえば、カゴメの「VEGEDAY」は、多くの人々に野菜に関する関心を持ってもらうことと、カゴメのブランドイメージ向上を目指し、2017年春に開設されたメディアである。カゴメが100年以上蓄積してきた野菜に関する知識が詰まっており、読み物としても非常に有益なものとなっている。
荒川氏が企業ブランドのメディアを見ていると、「非常に変化が速く、面白い試みを次々と行っている」と感じるそうだ。
たとえば、トヨタの「LEXUS」ブランドで運営する「VISIONARY」というオウンドメディアは、LEXUSが提案するライフスタイルへの価値観やスタイルを展開している。特徴的な試みとしては、BGMとともに、J-WAVEでナビゲーターを務める岡田マリアさんが記事を読み上げる音声コンテンツを提供していること。価値観を表現する手段として「音」も活用しているわけだ。
こうした企業が発信している良質なコンテンツは、もっと読まれるべきではないか。荒川氏は、「カゴメ様やトヨタ様のような企業のオウンドメディアが持っている価値あるコンテンツと、今後nor.がタッグをくむことができたら、生活者のためにも、企業やメディアに対しても、新しい価値が提供できるのではないか」と語る。
もうひとつユニークな試みは、日本航空が展開している「機内Wi-Fiだけで楽しめるコンテンツの提供」だ。日本航空は2017年5月よりantenna*と提携し、国内線全便の機内および羽田空港のファーストクラス・ビジネスクラス専用ラウンジだけで楽しめる独自コンテンツを提供している。飛行機と空港ラウンジの中という「場所」をメディア化することで、ブランド価値向上につなげているわけだ。
記事の後半では、「ブランド化するメディアの運営」をめぐる中瀨氏と荒川氏の対談の様子をお届けする。
接点のないユーザーにコンテンツを認知してもらうには
中瀨:ブランドのマーケターはオウンドメディアを作る際、完成形のパッケージを目指すケースが多いと思います。労力を割いて誠実にコンテンツを作るのですが、悩ましいのは、その企業のファンはメイン読者となるものの、見込み顧客となる「ファンの外」にはなかなか届きづらいことですね。
すると、やはりコンテンツ単位でリーチを拡げてブランドの認知を獲得していくことは重要になります。一方で、人が作ったコンテンツを自分たちのメディアブランドに取り込んでいくのは難しい。この点について、荒川さんはどのようにお考えですか。
荒川:おっしゃるとおり、リーチに悩んでいる企業は非常に多いので、nor.の提案は有効だと思います。一方で、いま指摘された「他社のコンテンツをどう取り込むか」という問題については、なかなか結論が出ません。強いていえば、実際に編成を仕切る担当者の力量によるのではないでしょうか。
コンテンツの再編成には、コンテンツの制作やメディア運営とはまた別のスキルが求められますが、根底にあるコンセプトがぶれなければ、試行錯誤しながら自社にとっての解を見つけられると思います。
中瀨:最初から他人のコンテンツを入れる形で運営していくというのは重要ですね。
荒川:本来であれば全部を自社で作りたいところですが、それができないのならば、選択と集中をやった方がいい。でも、これまでそういうやり方ができなかったのです。実際、自社でコンテンツを全部作ることで苦しんでいる企業は多いと思います。nor.のような仕組みをうまく使えば、良い企画が出てくるのではないでしょうか。