4,400万人のLINE友だちを抱えるDHCは「LINEアカウントの未連携層」にどう向き合ったか
MarkeZine編集部(以下、MZ):本日はDHCのLINEを軸とした取り組みについてうかがっていきます。まず、DHCのマーケティング戦略において、LINE公式アカウントはどのような位置づけなのでしょうか。
亀田:当社のLINE公式アカウントは2013年に開設し、現在は4,400万人を超えるユーザーに友だち追加をいただいています。重要な顧客接点の1つとして、商品やキャンペーン情報の発信に加え、継続的な関係構築を目的にコミュニケーションを行っています。
マーケティング戦略全体で見ても、LINE公式アカウントは販促の接点にとどまらず、CRMを推進する上で欠かせないチャネルです。新規のお客様との出会いからリピート購入、ファン化まで、フルファネルで支える役割を担っており、ユーザー一人ひとりの属性や行動に応じて、必要な情報を適切なタイミングで届けることを目指しています。
オンラインショップのコンテンツ制作と、LINE公式アカウント・メールマガジンの運用を担当。本取り組みでは、よりニーズに沿った発信に向け、顧客理解の深化に注力している。
MZ:どのような課題感から今回の取り組みに至ったのでしょうか。
須田:2025年の時点で、DHCでは既に配信の最適化やパーソナライズの強化を進めており、その取り組みを通じて売上への貢献も着実に広がっていました。ただ、これだけ大規模なアカウントを運用する中で、さらに精度の高いパーソナライズ配信を実現するには、顧客理解をもう一段深める必要があると感じていました。
オンラインショップの運営と、LINE公式アカウント・メールマガジンの戦略立案から運用までを担当する。本取り組みでは事業者側の立場として、分析に必要なデータや課題を整理し、得られた示唆を施策にどう活かすかの検討を担った。
須田:これまでも購買履歴や会員属性をもとにセグメント配信を行ってきましたが、それはあくまでDHCの会員IDとLINEアカウントを連携いただいている範囲での話です。課題となったのが「LINEアカウント未連携」のお客様であり、この層をいかに解像度高く捉えられるかが、次の打ち手を左右すると考えていました。
そこで2025年8月から活用を始めたのが、LINE上の行動データや興味関心データと、電通・電通デジタルが保有・連携するデータに、当社の1stパーティデータを掛け合わせて分析できる「SynWA project」です。顧客の解像度を高め、より適切なターゲティングと訴求設計につなげることを狙いました。CVRや売上といった成果指標に加え、メッセージへの反応率やエンゲージメントの向上も重視し、顧客理解に基づいたパーソナライズ配信の高度化を重要テーマに掲げて、取り組みを開始しました。
「SynWA project」で様々なデータを掛け合わせた分析が可能に
MZ:その課題に対する戦略と「SynWA project」について、取り組みの支援に入っている電通デジタルからご説明をお願いします。
キム:DHC様は非常に大きなLINE公式アカウントの友だち基盤をお持ちですが、すべてのお客様に同じ情報を届けるだけでは、一人ひとりの関心と合わずブロックされる可能性があります。アカウント連携済みのお客様には会員情報を活用した配信ができる一方、未連携のお客様に使えるデータは限られ、どうしても大まかなセグメントでの配信になっていました。
ソーシャルメディアを起点に課題解決を行う部門で、LINE公式アカウントを中心としたCRM領域のプランニングや運用支援を担当。2024年8月からDHCの支援に携わり、今回はPMとして課題やニーズの整理、分析テーマの設計、検証案のプランニングを担当した。
キム:未連携層も含めて顧客理解を深め、新たなセグメントを模索するためにご提案したのが、「SynWA project」の活用です。
これはLINEヤフー社と電通、電通デジタルによる共同分析プロジェクトで、LINEヤフーが保有するWeb上の行動データ、電通グループが保有・連携するテレビ実視聴データ(※STADIA360)や位置情報データ、さらにクライアント自身が保有する1stパーティデータをプライバシーが保全されたセキュアな環境下で掛け合わせ、多角的に分析できます。
※STADIA360:国内で1,560万台におよぶコネクテッドTV(インターネット回線に接続されたテレビ端末)において、ユーザーの同意許諾を得たテレビメーカー由来の視聴データに基づいた、デジタル広告の配信・効果検証が可能な統合マーケティングプラットフォーム
キム:本取り組みは、この「SynWA project」において初めてのクライアント1stパーティデータを活用した事例となり、DHC様ならではの切り口で分析をすることができました。
顧客の関心や行動への解像度をぐっと向上させた、2種類の統合分析とは
MZ:実際に、「SynWA project」を活用してどのように統合分析を進めていったのでしょうか。
針原:配信に向けた示唆を得ることを目的に、まず2種類の分析を行いました。1つ目は、DHC様のLINE公式アカウントの友だちを対象としたペルソナ分析です。購買頻度の高いお客様・低いお客様、新規会員・休眠会員といった会員ステータス別の切り口に加え、化粧品・健康食品・ファッションなどの購買カテゴリー別にもユーザーを分類し、それぞれがどのような興味関心や行動特性を持つのかを分析しました。
この分析の特徴は、DHC様が保有する顧客データに、LINEヤフー社が保有する興味関心、購買意向、属性・ライフイベントなどのデータを掛け合わせることで、LINE公式アカウントの友だちに対する理解をより深められた点にあります。分析の結果、顧客ステータスや購買カテゴリーによって、興味関心の傾向に明確な違いがあることがわかりました。
また、利用頻度によっても異なる傾向が見られるなど、複数の切り口から分析することで、お客様の多面的な特徴を捉えることができました。DHC様のデータから「どのようなお客様なのか」を捉え、そこにLINEヤフー社のデータを組み合わせることで、「そのお客様が何に関心を持ち、どのような行動傾向を持つのか」まで立体的に把握できるようになったと考えています。これにより、より深い顧客理解につなげることができました。
電通のデータ・テクノロジーセンターで、LINEヤフー社をはじめとするプラットフォーム事業者のデータを活用した分析やソリューション開発を担当する。本取り組みではアナリストとして、DHC社の1stパーティデータとLINEヤフー社のデータを掛け合わせ、顧客理解の分析と機械学習モデルによるセグメント設計を担った。
針原:2つ目は、ジャーニー分析です。LINE公式アカウント経由で商品を購入したお客様を対象に、購買前後の検索行動を分析しました。その結果、購買直前には商品に関連する検索が増加する一方で、それ以前の段階では、情報収集や比較検討を目的とした幅広い検索行動が見られることがわかりました。
こうした購買に至るまでの情報探索の変化を捉えることで、お客様の検討段階に応じて、どのタイミングでどのような情報を届けるべきかを考えるうえでの示唆を得ることができました。
亀田:こうした切り口での分析は、これまで当社であまり行ってこなかったものでした。「この見方をすればこういう行動が見えるのか」と非常に勉強になりましたし、大きな可能性を感じる試みでしたね。
反応率が改善!「LINEアカウント未連携層」から連携意向が高い層を絞り込み、効率的にアプローチ
MZ:これらの分析結果を、どのように配信設計や施策へ落とし込んだのでしょうか。
亀田:大きく2つのテーマで配信設計を行いました。1つ目のテーマは「アカウント連携の促進」です。分析によってアカウント連携に至りやすいユーザー像を抽出し、そのセグメントに重点的に訴求しました。従来は幅広い未連携層に同じメッセージを配信していましたが、連携意向が高い層に絞り込むことで、より効率的なアプローチができるようになりました。
針原:具体的には、DHC様の1stパーティデータを活用し、アカウント連携済みのお客様や一定以上の購買金額・回数に達したお客様を教師データとして予測モデルを構築し、LINEヤフー社が保有する興味関心データや検索行動データを説明変数に活用しています。
構築したモデルを用いて、LINE公式アカウントでメッセージ配信が可能なユーザー群をスコアリングすることで、「今後アカウント連携する可能性が高いユーザー」や「将来的に購買につながる可能性が高いユーザー」を抽出。アカウント連携が完了したお客様の人物像を様々なデータから推論し、未連携群から連携確率を付与、対象ユーザーへ配信していく形です。
亀田:そして2つ目のテーマは「購買金額の向上」です。同じ商品カテゴリーを購入したお客様でも、買い物の際に重視するポイントは一人ひとり異なります。そこで分析から得たインサイトをもとに、セグメントごとにメッセージやクリエイティブを最適化しました。お悩みに合わせて対象に刺さるクリエイティブへ落とし込む設計で、その制作まで電通デジタル様に入っていただいています。
これらの取り組みの結果として、従来の一斉配信と比べて配信効率や反応率が改善し、お客様視点でも不要な情報が減る、より価値の高いコミュニケーションにつながっています。
分析の結果をもとに「誰に・何を届けるか」を一体で設計
MZ:一連の取り組みを通じた、手応えや成果はいかがですか。
須田:最も手応えを感じたのは、顧客理解の解像度が大きく向上したことです。従来は購買履歴のような顕在化したデータが中心でしたが、興味関心データと当社の1stパーティデータを掛け合わせることで、これまで見えていなかった顧客像まで予測できるようになりました。会員アカウント連携の枠を越えて顧客理解を深められ、配信設計の精度を一段上に引き上げられたと感じています。
亀田:分析して終わりではなく、その結果を実際の配信に落とし込めたことが大きな成果です。「SynWA project」は、顧客理解から施策の実行までを一気通貫でつないでいただける取り組みでした。LINEはこれだけ多くのお客様に友だち追加いただいているからこそ、「誰に届けるか」と「何を届けるか」を一体で設計することが重要だと、改めて実感しました。
MZ:電通・電通デジタルの視点からも、成果につながった見解をお聞かせください。
キム:今回の取り組みのポイントは2つあります。1つは、クライアントの課題に合わせて顧客理解の切り口を設計できることです。今回は「購入確度の高いお客様を分析し、セグメントを高度化する」ことが目的でしたから、その定義から出口を意識して設計しました。
DHC様の1stパーティデータを活用することで、「化粧品を購入されているお客様はどんな興味関心を持っているのか」「高ランクの会員様とそうでないお客様では検索行動や関心領域にどんな違いがあるのか」といったような、DHC様が普段見ている会員ステータスや購買状況から顧客像を可視化し、様々な観点から分析できるようになりました。
もう1つは、選定したユーザーから類似ユーザーを予測し、オーディエンスとして広告やLINEのメッセージ配信に活用できることです。亀田様のおっしゃるとおり可視化して終わりではなく、目的に合わせて配信まで落とし込み、さらに施策の結果を次に活かしていくサイクルを実現できることが「SynWA project」の強みです。
針原:1stパーティデータは、顧客を深く理解するうえで非常に重要な情報ですが、それだけで生活者の全体像を捉えることには限界があります。一方で、LINEヤフー社が保有するデータを活用すれば、生活者の興味関心や行動特性を幅広く分析できますが、クライアントが重視する顧客像を起点とした分析には一定の制約があります。
今回の取り組みでは、DHC様が保有する1stパーティデータとLINEヤフー社のデータを組み合わせることで、DHC様にとって重要な顧客像を起点に、より多面的な分析を行うことができました。さらに、属性や過去の行動履歴をもとにしたリターゲティングにとどまらず、現時点では明確な行動として表れていない潜在的なニーズや今後の行動可能性まで捉え、ターゲティングに活用できるようになった点も、今回の取り組みの大きな特徴です。
顧客理解にもとづき、長期的な関係作りを
MZ:最後に、今後の展望をお聞かせください。
須田:取り組みを通じて、データを活用した顧客理解が、配信設計の改善にとどまらずCRM戦略全体の進化につながる可能性を改めて実感しました。今後は分析対象や活用シーンをさらに広げながらお客様の解像度を高め、顧客理解にもとづく長期的な関係作りを進めていきます。
亀田:今回の取り組みから、顕在化しているデータだけでは見えにくかったお客様像にもアプローチできる可能性を感じました。得られた知見を日々の運用に活かして、これからもお客様にとって価値ある情報を最適なタイミングでお届けすることを追求し、より満足度の高いコミュニケーションを目指します。
キム:得られた示唆をもとに、お客様にとって価値のある提案をお届けし、DHC様との継続的な関係やLTV向上につなげていきたいと思います。引き続き分析から実行、改善まで一気通貫で伴走し、お客様とDHC様の双方に価値あるコミュニケーションを実現していきたいです。
針原:1stパーティデータとプラットフォームデータを掛け合わせることで、顧客理解から配信活用までを一気通貫で設計できる手応えを得ました。今後は、配信結果や購買行動も含めて検証を重ね、より精緻な予測やセグメント設計につなげていきます。お客様の興味関心や会員ステータスの変化を捉えながら、分析と施策の両面から、より深い顧客理解と効果的なコミュニケーション設計を目指します。

