マーケ・セールスの軋轢、本当は“悪い”組織体制とは
松本:BtoBの世界では、お客様のほうが詳しいこともありますよね。こちらが情報を提供すると「そんなことは、もうわかっているよ」と思われるお客様も一定数いらっしゃいます。だからこそ、マーケターもセールスも、ドメイン知識を深めなければなりません。
茂野:以前は情報共有の場として、とにかく勉強会を開いていました。インサイドセールスは、アプローチするリードについて事前に調べ、仮説を立ててから連絡します。そのため、業界のホットトピックや変化に詳しいのですよ。
今なら、たとえば「Onboard AI」のようなツールを使い、ドメイン知識を深めることを仕組み化するのが、とても重要だと思います。深いドメイン知識がなければ、良い施策も打てませんから。
松本:現場の情報を部門間でフィードバックし合う仕組みは、心理的安全性が確保されている組織に限って機能する、ということはありませんか。マーケティングとセールスは、関係がギスギスしやすいじゃないですか。私自身も、過去にそうした組織にいたことがあります。そこでは、そもそもフィードバックを歓迎する文化がありませんでした。互いに率直な意見を伝えられる文化は、どのように作ればよいのでしょうか?
茂野:実は、松本さんが経験されたような「ギスギスして言い合える組織」は、むしろ非常に健全だと私は思っています。少なくとも、お互いに言いたいことを言える「安全性」があるからです。
最も避けるべきは、何も起きない「凪」の状態です。「言っても仕方がない」と諦めたり、気を遣って何も言わなかったりすると、改善は進みません。マーケティングやインサイドセールスの行動は大体3ヵ月後に効いてくるからこそ、早い段階で「何ですか、このリードは!」と言い合える関係性のほうがよほど健全です。
では、どうすれば率直に言い合えるようになるのか。組織は上から変わります。重要なのは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、それぞれのトップが、どれくらい密に連携できているかです。
以前、ある現場のリーダーから「ISとFSのメンバー間のコミュニケーションがうまくいっていない」と相談されたことがあります。そこで、「君自身は、FSのリーダーと仲が良いの?」と聞くと、「そうではありません」と返ってきました。原因はそこですよね。現場のメンバー同士の関係から変えようと考えがちですが、関係性は必ず上から順に作られます。だからこそ、まずは部門長同士のコミュニケーションから見直すべきでしょう。
境界線が溶ける時代のキャリア論
松本:最近、エンタープライズ顧客との向き合いを強化するために、組織の一部を再び垂直統合型へ戻す企業が増えていると聞きます。組織は戦略に従うので、企業としては自然な動きだと思いますが、個人にとってはキャリアの築き方が難しい時代です。これから、どのようにキャリアを築いていけばよいのでしょうか。茂野さんの率直なお考えを聞かせてください。
茂野:いろいろな仕事の境界線が溶け始めている時代だと、僕は思っています。そのため、キャリアの築き方にも、変化が見られるのではないでしょうか。
少し前までは、「自分の武器が欲しい」「スペシャリストになりたい」と話す方が多かったですよね。役職に就き、責任のある仕事を任されるまでには時間がかかるので、なるべく最短距離で進むために、特定の領域へリソースを集中させようと考えてきたわけです。
今はむしろ、幅広く経験することが大事。マーケティングも、フィールドセールスも、カスタマーサクセスも、機会があればやってみたほうが良いです。それぞれの仕事に対する解像度と実務経験が備わった上で、生成AIを活用すれば、できることの幅も広がります。
学ぶこと自体も、本当に簡単な時代になりました。であれば、まずは幅広い仕事を早い段階で経験し、その中で自分の適性を見極める。その上で、これまで培ってきた知見や経験を組み合わせて生かせるポジションを取るほうが、価値は高いと思います。
松本:たとえば、自分の適性を見極めるために、インサイドセールスを経験した方がマーケティング部門へ異動したとします。その経験が大きな強みになるのはどこでしょうか。マーケティングだけを経験してきた方と比べて、どのような違いがありますか?
茂野:1つ目は、ギャップを知っていることです。マーケティング組織が実行した施策がお客様に届いたとき、マーケティング側の意図と、お客様の受け取り方との間にギャップが生じることがあります。インサイドセールスを経験していると、なぜそのギャップが生まれたのか、どこで生まれやすいのかを、肌感覚として理解しやすいです。
2つ目は、後工程に対する解像度の高さです。マーケティングの仕事はリードジェネレーションだと捉えると、生み出したリードがインサイドセールスに渡り、どのようなオペレーションを経てフィールドセールスにトスされるのか深く理解しています。
たとえば、インサイドセールス出身のマーケターが展示会のオペレーションに関わると、非常にきれいに設計できます。後工程まで見えているので、一連の流れが理にかなっているのです。
松本:事業部長や経営者を想定した質問なのですが、マーケティングとセールスを横断する異動について、「本当にできるのか」「求められる能力が違うのではないか」と感じる方もいると思います。職種を越えた異動のハードルは、それほど高くはないのでしょうか。それとも、ある程度のハレーションを覚悟してでも、異動を促したほうが良いですか。
茂野:人の成長を促す上で、異動率、つまり企業内の人材流動性は、組織の状態に合わせて許容できる上限はあるものの、高いほうが良いです。人はホワイトスペースを経験することで大きく成長しますし、組織の変化に対する受容性も高まります。
実際、ビズリーチ WorkTech研究所が調査したところ、「人材配置・異動の仕組み」の運用状況について「非常に機能している・概ね機能している」とした割合は、成長企業は81.1%だったのに対して、非成長企業は47.4%と大きな差がありました。
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また、とても大事なのは、本人のWill(意志)です。今は、必要なことを学べる時代です。我々のチームにも、プログラミング経験がまったくない状態からPdMに就き、プロトタイプまで作る人がいます。それができるのは、本人に「やりたい」という強い想いがあるからです。
Willを持って「何かを実現したい」と考える人は、AIを使う側になる。一方で、Willを持たず、目の前の処理だけをこなす人は、AIに使われる側になるでしょう。
Willを育むためには、様々な経験を重ね、挑戦することが重要になる。これからは、環境に左右されず、誰もが新しい一歩を踏み出しやすい時代になってほしいと思っています。僕らのプロダクトが掲げるミッションは、「すべての始まりに最高のスタートを」です。AIによって挑戦のハードルが下がる時代だからこそ、一人ひとりが持つWillを実現する場面まで支援したい。そう強く思っています。
松本:よくわかりました。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
