松本健太郎氏が、BtoBマーケティングを深掘りする本連載。今回は、花王で「ビオレ」のブランドダイレクターを務める小林氏を迎え、BtoCブランドによるBtoB市場開拓の裏側を紐解く。2025年にスタートした「ビオレの冷サポート」が、システム未整備、専任チームなしの状況下で1,300社超の導入を達成した鍵とは? 部門の垣根を越え、既存組織を丸ごと巻き込んだ取り組みに迫る。
新しいスキンケア習慣を提案してきた「ビオレ」
松本:多くの人になじみ深い「ビオレ(Bioré)」が、実はBtoB事業も展開していると聞き、とても驚きました。どのような事業なのか、ビオレのブランドダイレクターを務める小林さんに詳しく伺います。
小林:最初に、ビオレについてご説明します。そもそも花王は、固形の化粧石けんを原点とする会社です。そして、1980年に発売した洗顔料がビオレです。肌への刺激が少ない洗浄基剤を独自開発し、洗顔後もつっぱりにくい使用感で支持されました。1984年には液体のボディソープを発売。花王にとって、原点である固形石けんを自ら否定するような挑戦でもありました。
小林:このように、その時々の社会の潮流や生活者のニーズに合わせて、常に新しいスキンケア習慣を提案しながら、ビオレは成長してきました。
松本:私は肌が弱いので「ビオレu ザ ボディ 泡タイプ」を愛用しています。ビオレが長く愛されてきた背景には、こうした挑戦の積み重ねがあるのですね。
小林:現在、ビオレが着眼しているのは「環境ストレス」です。年々暑さが厳しくなり、紫外線も強まっています。こうした環境ストレスからスキンケア商品を通じて生活者の肌を守り、快適な暮らしに貢献したいと考えています。
特に注力しているのが、外部環境から肌を守る「プロテクション」の領域です。具体的には、肌にアウターバリア機能をまとわせる日焼け止めや、冷却系商品などです。その1つが「ビオレ 冷タオル」です。開発のきっかけは、野球観戦中に、汗拭きシートを首にのせている人を見かけたことです。そこから、首にかけて使える大判シートを開発しました。
小林:2025年時点で、2020年比約4倍の規模に成長しており、累計で約2,000万パックを出荷するヒット商品となっています。
その背景にあるのが、肌は人と人、人と社会をつなぐ「インターフェースである」という考え方です。肌を快適・健康に保つことは、人々が安心してアクティブに活動する土台になる。だからこそ、ビオレはスポーツ観戦やレジャー、学校などで「暑さから人々を守るアクション」を続けており、過酷な環境で働く方々にも快適さを届けたいという問題意識が、BtoB事業の立ち上げにつながっています。
「現場の切実な声」が原動力。ビオレがBtoB事業へ踏み出した理由
松本:ビジネスモデルありきで始まったわけではないのですね!? 事業化に至った経緯を詳しく教えてください。
小林:最初は、自社工場の「導入テスト」でした。過酷な暑さの現場で働く花王の社員に試してもらったところ、これが予想以上に大好評でして。
「これなら、他社の作業現場でも絶対にお役に立てるはずだ」と直感し、ビッグサイトで開催された『猛暑対策展』に出展しました。そこで耳にしたのが、「暑さ対策は急務だが、何から手を付ければいいかわからない」という現場の切実な声だったのです。その生々しい声を聞いたとき、この商品が「企業の暑さ対策の第一歩」として事業化できると考えました。
「ビオレ 冷タオル」なら、いつでもどこでもサッと使えます。現場でも配りやすいので、導入のハードルが非常に低いんですね。大型の冷却設備を入れるとなると莫大なコストがかかりますが、これなら1本たったの約100円で済みます。
さらに、2025年6月には労働安全衛生規則の改正によって、暑熱対策が企業に義務付けられたことも追い風となり、「ビオレの冷サポート」を本格的にスタートさせました。
松本:そうした社会情勢が事業化のきっかけだったのですね。
小林:BtoBとしての実績を作るため、まずは先行導入にご協力いただける企業様を探しました。そこで「ぜひ現場で使いたい」と手を挙げてくださったのが清水建設様です。しかも、「知見のある花王さんと一緒に解決策を見つけることができたら、建設業界全体にとってもインパクトのある取り組みになります」とまで言っていただけました。
こうした取り組みを重ねた結果、2026年は500社への導入を目標にしていましたが、1,300社(※2026年8月20日時点)に導入いただいています。
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- この記事の著者
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松本 健太郎(マツモト ケンタロウ)
株式会社EVERRISE 執行役員CMO
龍谷大学法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で統計学・データサイエンスを“学び直し”。デジタルマーケティングや消費者インサイトの分析業務を中心に、さまざまな分析を担当する。noteで活躍しているオピニオンリーダーの知見をシェアする「日経COMEMO」メン...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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