事例動画が社内の熱源に。共感と紹介で生まれたBtoBの好循環
松本:BtoBビジネスにおける戦い方の1つとして、まずトライアル導入からはじめ、その成果を踏まえて翌年度以降の予算に組み込んでもらい、継続購入につなげる進め方があります。「ビオレの冷サポート」では、予算獲得のためにどのような設計をされているのですか。
小林:私たちはBtoBマーケティングの専門家ではないため、現在もかなり手探りで仕組みを構築しています。リード管理についてもまだシステム化できていませんし、ROI(投資対効果)の提示や継続的な予算確保につなげる仕組みも十分に整備されていません。この商品は主に夏季に利用されるため、翌シーズンの予算に組み込んでいただき、継続導入につなげるサイクルをいかに確立するかが現在の重要な課題です。

小林:そのため現時点で私たちが重視しているのは、事例を構築して共感を広げること、そして導入しやすいチャネルを整備することです。
松本:仕組みが手探りな中で、どのように顧客を開拓しているのでしょうか。
小林:実は、お客様から新たなお客様を紹介いただくケースが非常に多いのです。たとえば、協業しているプロサッカーチームから、暑さ対策に課題を抱える建設会社を紹介いただくなど、BtoCで築いたつながりがBtoBの商談へと発展することがあります。
さらに、営業チームが以前から持っていた顧客接点を活用するだけでなく、有志の社員がそれぞれのネットワークを生かし、自発的にお客様を紹介する好循環も生まれました。
松本:BtoBビジネスでは、部門間の壁によって顧客の紹介が円滑に進まないことも珍しくありません。それにもかかわらず、花王では社員の皆さんが自発的にお客様を紹介しておられます。その原動力はどこにあるのでしょうか。
小林:まず、当社の社員には「世の中に貢献したい」という強い思いがあります。自社製品を通じてお客様の役に立っていると実感できることが、行動を促す原動力になっています。
ここでも大きな役割を果たしたのが、清水建設との事例動画です。社内フォーラムで放映したところ、アンバサダーとして「自分も貢献したい」という声が次々と上がりました。自社製品が社会課題の解決に貢献する様子を目にすることは、組織の意識を大きく変える契機になったのだと思います。
松本:BtoBマーケティングにおいて事例構築は定石ですが、それが社内のモチベーション向上にこれほど寄与しているケースは非常に稀有であると感じます。他部署からは見えにくい「顧客の喜び」を可視化したことで、社内を巻き込む強力なツールになったのですね。
BtoBで再認識した「現場主義」を、再びBtoCのものづくりへ
松本:体系的にBtoBマーケティングを行っているわけではないというお話でしたが、BtoB事業を推進する中で得られた知見や視点、考え方の中で、BtoC事業へ還元できるものはありましたか。
小林:最も大きいのは、カスタマーサクセスの視点です。専任組織はありませんが、導入企業へのヒアリングを徹底し、現場での使われ方や課題を把握して次の商品開発に生かすサイクルを回しています。「売ったら終わり」ではない、継続的な商品改善のPDCAです。
これはBtoCにおいても同様です。デプスインタビューで回答を得るだけでなく、生活者が使用する場面を観察することが重要だと再認識しました。たとえば製品の体験イベントも、従来は運営会社任せでしたが、現在は社員が必ず現場に赴いています。
松本:リサーチにおける「訪問調査」に近いアプローチですね。
小林:近年は訪問調査を行う機会が減少していましたが、やはり現場のリアルな姿に触れることこそが、ものづくりやブランド活動を動かす原動力になると確信しています。
松本:最後に、展望についてお伺いします。今後どのようにブランドを成長させ、BtoB事業を育成していきたいと考えておられますか。
小林:現場の声を起点に、次のイノベーションを生み出したいです。これはビオレの「現状不満足」の精神に基づいています。その時代の社会や生活者の課題を捉え、プロダクトイノベーションを通じて新たなスタンダードを創造し続けることが私たちの使命です。
BtoB事業では、商品が過酷な環境でどう使われているかを直接観察できる体制が整いました。現場の要望を研究開発メンバーとともに受け止め、より適した商品へ進化させていきます。
「ビオレの冷サポート」が成功したと言えるかどうかはわかりませんが、社内においてBtoB展開の可能性が広く認識されるようになりました。日焼け止めやハンドソープなど、他の製品群についても働く現場への導入を検討する動きが活発化しています。社内のBtoB事業に対する意識を変える、1つの契機になったと感じています。
松本:よくわかりました。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
