「欲しい商品を検索する」「複数の商品を比較する」「購入する商品を決める」。これまで消費者自身が行ってきた一連の行動を、AIが代わりに担う時代が近づいている。Microsoft Advertisingは2026年8月21日、エージェントコマース時代に企業が取るべき戦略をまとめたレポート「Prepare for the Age of AI Shopping」を公開した。そこでは、AI時代のコマースを単なる「検索方法の変化」と捉えるのではなく、商品の発見から比較、購入、効果測定までを変えるものとして描いている。注目すべきは、この変化が消費者だけのものではないことだ。AIが消費者の代理人として商品を探し、評価し、購入するようになれば、マーケターの仕事も「人間に商品を売る」ことから「人間とAIの双方に商品を売る」ことへ広がっていく。
探す、比べる、任せる。Microsoftが描く3つのWeb
「Prepare for the Age of AI Shopping」において、Microsoftは現在のショッピング体験を「3つのWeb」に整理している。
1つ目は「Help me find it」。検索エンジンを使い、タブを開き、比較サイトを回りながら人間自身が商品を探す従来型の「Human Web」だ。2つ目が「Help me choose」。ChatGPTやCopilotなどのLLMに相談し、複数の選択肢を比較してもらう「LLM Web」を指す。そして3つ目が「Do it for me」。人間は目的や条件だけを伝え、AIエージェントが商品を探し、評価し、購入まで実行する「Agentic Web」である。
Microsoftは現在、この3つのWebが同時に存在していると説明する。
出典:「Prepare for the Age of AI Shopping」(クリックすると拡大します)
変化の兆候は数字にも表れている。同レポートが引用するHUMAN Securityの調査では、自動化されたトラフィックは人間によるトラフィックの8倍の速さで成長し、AIによるセッションは2025年に約3倍となった。Microsoftの米国消費者調査では、72%超が今後1年以内に企業へAIを活用したショッピング体験を期待しているという。
さらにAdobe Analyticsによれば、AI経由で訪れた消費者のコンバージョン率は、AI以外から流入した消費者より42%高い。Microsoftはこの変化を「モバイルの台頭以来、デジタルコマースにおける最も重要な変化の1つ」と位置づけている。
最新・正確な商品データがマーケティング資産になる
では、マーケターの仕事は具体的に何が変わるのか。Microsoftが最も強調しているものの1つが、商品データである。
人間は商品の写真やデザイン、コピー、ブランドストーリーなどを見ながら商品を選ぶ。一方、Microsoftは、LLMやAIエージェントは構造化されたデータを使って商品を評価すると説明している。商品情報が不完全だったり古かったりすれば、検索順位が多少下がるという話ではない。AIの推薦候補そのものから外れる可能性があるのだ。
そこでMicrosoftは、「商品データはもはや広告のためだけのものではなく、最も強力なマーケティング資産の1つになった」と指摘する。
推奨される作業はかなり具体的である。Microsoft Merchant Centerには広告で売りたい一部商品だけでなく、全商品を登録する。商品タイトルや説明に加えて、GTINやMPN、価格、商品カテゴリー、リアルタイムの在庫状況を正確にし、商品フィードは最低でも毎日更新する。
これは組織の仕事の境界線にも影響する。従来、「商品マスター」「在庫データ」「商品フィード」はEC運用やシステム部門の仕事と考えられることも多かった。しかしAIが商品を選別するようになれば、商品データの欠損や鮮度の低下が、そのままマーケティング機会の損失になる。
マーケターには「広告クリエイティブは魅力的か」だけでなく、「AIは自社の商品を正しく理解できているか」を確認する仕事が加わることになる。
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岡 徳之(オカ ノリユキ)
編集者・ライター。東京、シンガポール、オランダの3拠点で編集プロダクション「Livit」を運営。各国のライター、カメラマンと連携し、海外のビジネス・テクノロジー・マーケティング情報を日本の読者に届ける。企業のオウンドメディアの企画・運営にも携わる。
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