加熱するAIトレンドと「Maxxingの時代」
今年の6月に創業20周年を迎えたHubSpot。同社の看板イベントとして15年間親しまれてきた「INBOUND」が、メモリアルイヤーに「UNBOUND」へと生まれ変わった。

UNBOUNDには、否定・解放を表す接頭辞「Un-」が含まれている。新たな名称にはどのような思いが込められているのか。同社CEOのヤミニ・ランガン氏は次のように説明する。
「私たちの成長の仕方は根本から変わりました。新しいチャネル、新しいプレイブック、新しいテクノロジー。そして私たちには『今の自分たちがこうありたい』と願う感覚に合う名前が必要でした。制約されない(Unconstrained)、恐れない(Unafraid)、止まらない(Unstoppable)。Unboundという言葉がしっくりきたのです」(ランガン氏)
変革をもたらしているのは、言うまでもなくAIだ。モデルの進化は目覚ましく、自律型のAIエージェントもビジネスの在り方を大きく変えている。高度な自動化によってビジネスパーソンの仕事は楽になるのかと思いきや、ランガン氏の友人は「AIのせいで仕事量が3倍になった」と嘆いているそうだ。
「彼女は言いました。自分の考えを説明して、プロンプトを書いて、出力を確認して、直す──それだけで何時間もかかると。1日の仕事がようやく終わっても、AIについて学ぶ時間を確保しなければならないから、どれだけ頑張っても遅れていると感じるのだそうです。この会場にいる全員が、この1年で彼女と同じ感覚を味わっているのではないでしょうか」(ランガン氏)
ランガン氏はこのような状況を「The Maxxing Phase」という言葉で表現する。「Maxxing」とは、1つの対象を極限まで追求することを指す俗語だ。発見や驚きの後、それが何のためのものなのかを誰も突き止めないうちに、全員が「もっとやろう」と殺到する時期。まさに、今のAIを取り巻く状況と一致する。
価値の出る領域を見極めてAIを活用する成功企業
HubSpotが業種を横断して6,000社の顧客と見込み顧客を調査した結果、90%の企業がAIを使っていた。しかし、変革と呼べる成果を得ている企業はわずか6%だったという。「それらの企業はAIを限界までMaxxingしているわけではない」とランガン氏。変革を実現している企業の共通項として、次の3つを挙げる。
1.変革を実現している企業は、見た目より成果を優先している
2.変革を実現している企業は、土台づくりを先に行っている
3.変革を実現している企業は、人材に意図を持って向き合っている
1点目について、ランガン氏はAIの活用ケースの数に注目する。同社の調査で「メールの作成」「競合サイトの分析」など、50を超えるケースにおけるAI活用実態を調べた結果、変革を実現している企業が実践しているケースは平均してわずか4〜5件に過ぎなかったという。
「広く使われているケースの多くは、実は価値をあまり生んでいません。コンテンツやメールの自動生成などは、競合他社がプロンプトをいくつか打ち込めば同じように生成できてしまいます。だからこそ、インパクトを生まないのです」(ランガン氏)
一方で「キャンペーンの分析」や「顧客フィードバックの分析」など、高い価値とインパクトを生む活用ケースには明確な共通点がある。それは、自社のデータとコンテキスト(文脈)が不可欠な点だ。
「これらのケースでは、自社のビジネスに関する知識がなければAIは機能しません。つまり、競合他社にはコピーできないということです。自社のデータ、自社のコンテキストこそが優位性になるのです」(ランガン氏)
変革を実現している企業は、手当たり次第にAIの活用用途を増やすのではなく、本当に価値を生む少数の領域を見極め、そこに自社独自のデータを掛け合わせることで着実に成果を上げているのだ。
