コストセンター化するオウンドメディアの課題
中瀨:最初は予算がついていても、やがてコストセンター化していくオウンドメディアは多いのですか。
荒川:やはりコストセンター化するケースは、一定数あります。いまは単に取材してコンテンツを作るだけでなく、デバイスに最適化した対応も求められますから、やるべきことは本当に増えており、コストはふくらみがちです。
中瀨:nor.はブランドやメディアにとって、全方位にコストをかけるのではなく、集中すべき領域にコストをかけられる仕組みです。たとえば、コンテンツの保管もHTMLでは行っておらず、今後の標準仕様や技術の変化に対応しやすくしています。そういったメディア活動の本質から外れた共通コストはnor.が負担することで、メディアにかかる労力を軽減しているのです。
荒川:ただ、記事の作り手が「こんなはずじゃなかった」という使われ方になるのは避けたいですし、またブランドにとっては「他社と同じような記事を使用し、同じようなサイトになるのは避けたい」という思いもあります。運営上の工夫が求められますね。
コンテンツを組み合わせることを前提にした運営方法
中瀨:まずブランド側は、コンセプトの部分をしっかり作り込むことが重要です。先ほども荒川さんの方から、コンセプトの重要性の話が出ましたが、そこでぶれると、他者が作ったコンテンツの活用はうまくいきませんよね。
荒川:antenna自身もキュレーションメディアですから、ブランドが抱えるその課題に対しては、親身に向き合えるはずです。私たちは、コンテンツの活用で悩んだ時には、必ず「なぜこのキュレーションをしているのか」「ユーザーにどういう気持ちになってもらいたいか」に立ち返ります。そうすることで、選択ができる。ここでぶれないようなコンセプト作りが重要です。
中瀨:グライダーアソシエイツさんは、コンセプト作りを支援することもあるのですか。
荒川:日本航空さんの場合、「お客様にどういう気持ちになってもらいたいか」「ブランドとしてどういうコンテンツを作りたいか」ということをヒアリングして、プラットフォームを設計しました。重要なポイントは、こういった企画には終わりがないこと。サービスは進化し続けていかなければならないので、メディアを運営し続けることには本当に相当な労力がかかると思っています。
中瀨:ブランドは「読者にこういう価値を提供したい」というコンセプトの実現にこそ、コストをかけるべきですよね。Webが登場するまでは、メディアのコンセプト実現にコストをかけるだけの余裕がありましたが、現在のWebは過当競争状態で、とにかく人をかき集めてコストをかけずに拡散することが中心となってしまっています。しかしそれでは、ブランドのためにならない。
荒川:nor.の仕組みを活用し、膨大なコンテンツを自力で作成することに時間やコストを割くのではなく、コンセプト作りに時間をかけ、要所でエッジの効いた情報を提供できればいいですよね。共通化できる部分は共通化して、エッジのきいた部分を要素として残すことができれば、読む人にとっても大きなメリットになります。
nor.の仕組みによって、コンテンツの作り手はより報われるはずです。コンテンツの作り手が正当な対価を得られるカルチャーが育たないと、いい作り手がいなくなります。安かろう悪かろうではない、良心的でいて効率的なメディア運営が求められていると思います。
中瀨:コンテンツの量産から、オリジナルでユニークなコンテンツ作りへと、メディアの揺り戻しがきているのではないでしょうか。こうした中、メディア運営について共通化できる部分はnor.のような仕組みに任せて、ブランドの方にはぜひ、エッジのきいたコンセプト作り、コンテンツ作りに注力していただきたいと思います。