Cookie規制で注目が集まるデータクリーンルーム
テクノロジーの進化により、顧客とのタッチポイントは多様化され、ジャーニーにおけるあらゆる接点で顧客体験の向上が求められるようになった。大広の石橋氏は、現状について次のように語る。
「これまで広告は、認知~購入までのファネルに寄与するもの、新規顧客を対象にするものとして考えられてきました。ですが、実際には購入後の既存顧客も日々広告に触れています。このような既存顧客の広告接触にまつわるデータこそ、顧客理解を深めたり、ロイヤル化を目指したりする上で非常に重要で、これを活かすことで広告による顧客体験を進化させることができます。しかしながら、Cookie規制などにより、そのデータの取得が困難になりつつあるのが現状です」(石橋氏)
そこで有効なソリューションとして挙げられるのが、各プラットフォーマーが提供するデータクリーンルームだ。が、データクリーンルームという言葉を耳にしたことがあっても、具体的にどのようなことができるのかよくわからない人もいるだろう。
DACの小林氏曰く、データクリーンルームとは「各プラットフォームが保有するデータ(と広告主やパートナーデータ)を、プライバシー保護のハードルをクリアし分析利用できる環境」とのこと。顧客理解を深め、分析で得た示唆を広告をはじめとする各種施策に活かすことが可能になる。
では、データクリーンルーム活用により掛け合わせられるデータにはどのようなものがあるのか――たとえば、大広とDACが属する博報堂DYグループでは、テレビCMの視聴データや購買データ、来店データ、調査パネルデータ、アプリ行動データ、そしてDACが提供できるその他のデータを主に活用できるという。
講演では、データクリーンルーム活用により、具体的にどのようなことが実現できるかをイメージできる10業種の活用例の解説もあった。本レポートではその中から5例を厳選して紹介する。なお、これらはあくまで活用例であり、実際の事例ではない。
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様々な課題や目的に対応!データクリーンルーム活用例5つ
活用例1:併売効果の可視化
1つ目は、データクリーンルームを活用してブランドの併売効果を可視化するという例。具体的には、ある調味料メーカーが「顧客のLTVを高めるため、複数ブランドを併売させたい」と考えているとしよう。
併売を促進するためには、関連性の高い商品を一緒に提案していくことがポイントとなる。ならば、どのブランドに広告予算を多く割り当てるのが効果的かを把握するために、広告配信データ(プラットフォーマーデータ)とオフライン購買データ(パートナーデータ)を掛け合わせて、各ブランド広告が与える併売リフトの効果を分析するとよい。
最も併売リフト効果の高いブランドがわかったら、そのブランドの出稿量を増やすなどの打ち手が見えてくる。
プロモーション課題:顧客のLTVを高めるために複数ブランドを併売したい。
分析仮説:各ブランドの広告が与える併売リフト効果を可視化することで、併売に繋がりやすいブランドを見つけられるのではないか?
分析結果:ブランドBが最も併売リフトが高かった。
顧客体験アイデア:ブランドBに広告予算を多く割り当て、顧客に接触することで併売効果を高める。
活用例2:購買をゴールにしたインフルエンサー施策の効果検証
SNSマーケティングの普及にともない、多くの企業が実施しているインフルエンサー施策。この効果分析にもデータクリーンルームが活用できる。
たとえば、ある化粧品メーカーが「複数のインフルエンサーを起用して施策を展開しているが、購買への影響度がわからない」という課題を抱えているとする。この場合、広告配信データ(プラットフォーマーデータ)とDACが提供するデータを掛け合わせて、インフルエンサーごとの指名検索リフトを分析すれば、購買への影響度を可視化できる。
プロモーション課題:起用しているインフルエンサーの購買への影響度がわからない。
分析仮説:インフルエンサーの中でも、接触者の指名検索リフトが最も高いのは誰かがわかれば、間接的に購買への影響度も可視化できるのでは?
分析結果:インフルエンサーAの接触者が、指名検索のリフト値が最も高かった。
顧客体験アイデア:インフルエンサーAとより積極的にコラボレーションすることで、認知や顧客の興味関心を高めることができる。
活用例3:アプリ利用者のアクティブ率向上を図る
また、アプリECベンダーであれば「アプリインストールユーザーのアクティブ率を効率よく高めたい」といった目的にも対応可能だ。
「顧客×顧客ごとのアプリ利用影響度を可視化すれば、効率のよい広告を特定できる」という仮説のもと、データクリーンルーム内で広告配信データ(プラットフォーマーデータ)とアプリユーザーのデータ(ファーストパーティデータ)を掛け合わせて分析。すると、どの広告がどのように効いているかの傾向が掴める。
プロモーション課題:アプリユーザーのアクティブ率を“効率よく”高めたい。
分析仮説:どの広告がどのようなユーザーに効いているかを可視化できれば、目的に合った広告を効率よく配信できるのでは?
分析結果:平均すると、どのタイプのユーザーにも効いているのは広告Bであった。
顧客体験アイデア:広告Bは幅広いユーザーに有効なので、広告Bを中心に広告を展開する。もしくは、ロイヤル化に目的を振り、最もロイヤルユーザーに効いている広告Aの配信量を増やす。
活用例4:クレジットカードの利用促進を図る
次は、金融(クレジットカード)のカテゴリーで考えられる分析例。「セカンドカードとして携帯されているものの、なかなか利用されない」という課題の改善の糸口を見つけていこう。
ここでは、カード未利用顧客の購買傾向を把握するために、未利用顧客のデータ(ファーストパーティデータ)と購買傾向データ(プラットフォーマーデータ)を掛け合わせて分析。たとえば、カード未利用顧客の中にアウトドアアイテムに関心を寄せている人が多いとわかったら、アウトドアブランドとコラボレーションするなどのアイデアが浮かんでくる。
プロモーション課題:セカンドカードとして携帯されるものの、なかなか利用されない。
分析仮説:カード未利用顧客の興味関心を可視化すれば、購買に繋がる打ち手を考察できるのでは?
分析結果:カード利用の少ない顧客は、アウトドアアイテムへの関心高かった。
顧客体験アイデア:アウトドアブランドとコラボしたキャンペーンを展開し、利用を促す。
活用例5:カテゴリーエントリーポイントの獲得
最後に紹介するのは、「カテゴリーエントリーポイント(CEP)獲得に貢献する指標を可視化する」という例だ。ここでは、ある飲料(お茶)メーカーが「CEPを獲得しブランドポジションを高めたい」と考えているとする。
活用するのは、広告配信データ(プラットフォーマーデータ)、キャンペーン応募状況がわかるWebアクセスデータ(ファーストパーティデータ)、テレビCMの調査データ(パートナーデータ)の3つ。
これらを回帰分析にかけ、「食事の時に購入するお茶と言えば?」の質問に対して、自社ブランドを挙げた人が触れていた媒体を可視化。結果として、たとえば「ブランドサイトへの訪問が最も貢献している」とわかれば、ブランドサイト上でブランド理解を深め、CEP獲得を強化するといったアイデアが生まれるだろう。
プロモーション課題:CEPを獲得し、ブランドポジションを形成したい。
分析仮説:最もCEPの獲得に貢献する広告指標を特定する必要がある。
分析結果:「ブランドサイト訪問」の指標が、CEP獲得に最も貢献していた。
顧客体験アイデア:フルファネルでブランドサイトへの誘因を積極的に高め、ブランド理解を深めることでCEPを獲得する。
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分析迷子にならないためのフレームワーク
ここまで紹介してきたように、データクリーンルームを活用し、様々なデータを掛け合わせられるからこそ得られる示唆がある。これらは、顧客理解を深め、新たな顧客体験を生み出すという点で非常に有用だ。大広の久野氏は、データクリーンルームを活用した分析を行う際の参考として、下図のフレームワークを紹介した。
「最初に考えるのは、プロモーション課題です。そして、課題解決のためにはどういった分析結果(示唆)が欲しいのか、そこからどのような顧客体験が考えられるかを引き出していきます。その後、結果を導き出していくにはどのような分析手法、そしてデータの掛け合わせが最適かを考えていきましょう。
多くの場合、課題を見つけたら次は分析仮説へと進めるかもしれませんが、このようなステップを踏むことで分析迷子にならず、結果にコミットできる分析を行えるようになります」(久野氏)
データを紐解き、顧客との対話を繰り返していこう
データを掛け合わせて分析することの有用性や考え方のポイントがわかったとしても、実際に取り組むとなるとコストや手間がかかる。データクリーンルームに関しても、様々なソリューションがあるため、自社の課題や目的に合ったソリューションを見つけて活用していきたい。
たとえば、大広が提供する「decins(ディシンズ)」は、汎用的な分析がダッシュボード上でできるデータクリーンルームソリューションだ。広告出稿によって得られたプラットフォーマーデータと、ブランドの保有するファーストパーティデータを掛け合わせることで、フルファネル分析やコンバージョンリフト分析、ロイヤルティマップ分析などが可能になるという。
また、同じく大広が提供する「顧客ラボ」は、キャンペーンを通じて顧客と繋がり、顧客と企業・ブランドの関係性を豊かにするプラットフォーム。キャンペーンを手軽に開催できる機能が揃っているほか、顧客と繋がり続け、ファンへと育成する過程で顧客価値を高めることもできる。より良い顧客体験を生み出すデータクリーンルームソリューションが「decins」、その顧客と繋がり豊かな関係性を築いていくソリューションが「顧客ラボ」ということになる。
最後に久野氏は、「顧客を中心に、顧客との対話(企業側からの発話である“顧客体験”と、その顧客体験から得られる“顧客理解”への傾聴)を繰り返すことが、今後より重要になっていくでしょう」と語り、講演を締めくくった。
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