競合は「すべてのエンタメ」──大規模調査に挑んだ3つの理由
MarkeZine編集部(以下、MZ):2025年、サンシャインシティにおいて「10年に一度レベル」の大規模な来館者調査を実施された背景をうかがえますか。
株式会社サンシャインシティのコミュニケーション部にて、Webサイトや公式アプリ、SNSの運用に加え、館内のインクルーシブ推進、VOC分析、データの統合・活用に向けたCDP構想の推進など、「顧客との接点づくり」と「データ基盤づくり」を一貫して担当。2026年4月より現職。サンシャイン水族館・サンシャイン60展望台 てんぼうパークのマーケティング戦略の構築・設計の推進をミッションとして担っている。
金子(サンシャインシティ):背景には大きく3つの課題意識がありました。
まず1つ目は、前回の本格調査時から、コロナ禍を経て生活者を取り巻く環境が激変したことです。
サンシャインシティはショッピングセンター、水族館、展望台、展示ホールなどを持つ大型複合施設ですが、いまや私たちの競合は、近隣の商業施設や特定のエリアだけではありません。「家で動画を観る」「野球観戦に行く」といった、“余暇にどう過ごすか”という生活者の可処分時間をめぐって、あらゆるエンターテインメントが競合になると考えています。そのため、「お客様が普段どのようなことに関心を持ち、何に時間を使っているのか」を、深く掘り下げていく必要がありました。
2つ目は、「エリアブランディング」の視点です。池袋の街とともに40年以上歩んできた弊社は、このエリアの価値やブランドイメージに貢献する存在でありたい、という想いがあります。だからこそ、単に自社施設という「点」の数字を追うのではなく、池袋というエリア全体におけるお客様の動きを「面」として把握したいという狙いがありました。
そして3つ目は、来館者数・売上といった結果指標だけでは見えにくい「お客様との関係性」を可視化すること。今回はNPSも組み込むことで、「来館者数(数のKPI)」の最大化にとどまらず、「関係性の深さ(質のKPI)」までをしっかりと追いたいと考えたのです。
「実態調査」の枠を超える。“次の施策”を仕掛けるための設計思想
MZ:サンシャインシティの課題に対し、電通デジタルはどのようなアプローチを提案されたのでしょうか。
伊藤(電通デジタル):今回の提案では、単なるデータ分析の報告書を目指すのではなく、「サンシャインシティらしさ」をデータで具体化することを最初のゴールに据えました。サンシャインシティはレジャーやショッピング、飲食、イベント、IPコンテンツと、多様な顔を持つがゆえに来館者の年代や目的も非常に幅広い。だからこそ、その複雑な顧客像を正しく捉えることの難しさがあります。
設計思想の根幹にあるのは、アンケートのような意識調査だけでは捉えにくい「行動データ」を活用し、顧客像を多角的な視点から可視化するということです。
そこから導き出された高解像度な顧客像に基づき、現場のメンバーが迷いなく次の施策を生み出せる。そんな「やって終わりではなく、次の一手につながる調査」にすることを強く意識しました。
金子(サンシャインシティ):電通デジタル様は、さまざまなデータソースを掛け合わせた立体的な分析だけでなく、その後のコミュニケーション戦略や顧客体験の改善までを見据えた一気通貫アプローチを提示してくださいました。この設計思想があったからこそ、ともに歩みを進められるパートナーだと強く感じました。
「行動×意識」の多層分析で、見えない顧客心理を解き明かす
MZ:今回の分析において、具体的にどのような分析手法をとられたのでしょうか。
行方(電通デジタル):サンシャインシティ様が目指す「エリアブランディング」を大きな目的として見据え、「誰が来ているのか」という点としての来館者属性の把握にとどまらず、「なぜ来館し、池袋エリア全体とどう関わっているのか」という面としてのライフスタイルや行動背景を立体的に捉える、3軸の分析を設計しました。
具体的には、unerry(ウネリー)社の位置情報データを用いた「来館者分析」と「商圏分析」、そしてここにNTTドコモの膨大な属性データを掛け合わせた「docomo data square プロファイリング分析」の3つを掛け合わせています。
行方(電通デジタル):まず来館者分析では、来館人数や平日・休日別、時間帯別の傾向を可視化しました。次の商圏分析では、unerry社が保有する居住区データをジオメッシュ粒度で落とし込んだ「商圏ヒートマップ」を作成しました。これによって、来館者がどの市区町村から来ているのか、どの鉄道沿線からのアクセスが多いのかが一目瞭然になります。
また、「単にどこから来ているか」というボリュームを見るだけでなく、1都3県の大規模なパネルデータと比較しながら、各エリアの居住人口に対して「実際に何%の人が来街しているか」という商圏内シェアまで網羅的に算出しました。その結果、今後のエリア戦略や広告出稿場所を検討するうえで、どのエリアに「新規獲得の伸びしろ」があるのか、具体的な示唆を得ることができました。
※実際のサンシャインシティの分析結果ではなく、ダミーデータに差し替えたイメージ画像
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※実際のサンシャインシティの分析結果ではなく、ダミーデータに差し替えたイメージ画像
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行方(電通デジタル):3つ目の「docomo data square プロファイリング分析」は、事前に許諾を得たユーザーの性別・年代だけでなく、趣味嗜好やメディア接触傾向、さらにはアプリの起動ログも分析に活用することで、「どんな人が、どういう関心を持って来館しているのか」を深く理解できる設計になっています。
さらにこれらの分析に加え、オンラインとオフラインを組み合わせた独自の意識調査も実施しました。行動データだけでは、「来館の目的」「施設への期待」「満足・不満の要因」といった意識面は捉えきれないためです。この意識調査を掛け合わせることで、「なぜその行動が起きているのか」という背景にある心理まで解釈できるようになります。
docomoが保有するデータ基盤「docomo data square」から抽出する、実行動に基づく顧客像
佐藤(電通デジタル):来館者の「行動の理由」を解き明かすうえで重要な役割を果たしているのが、docomo data squareです。
佐藤(電通デジタル):docomo data squareの最大の優位性は、約1億1,000万(2026年3月時点)のdポイントクラブ会員基盤に基づく「圧倒的なデータ規模」と、アンケートだけでは見えない「実際の行動データの活用」にあります。具体的には、docomoの契約者情報やdポイントクラブ側で蓄積されたアンケートデータに加え、事前に利用許諾を得たアプリ起動ログといった端末利用データを、セキュアな環境下で掛け合わせられる点が大きな強みです。
アプリの起動ログをはじめとする行動データは、位置情報データと同様に「記憶に頼らない、実際の行動に基づく客観的な事実」です。これらの一次データをベースにできるからこそ、性別や年代といった表面的な属性の枠を超え、「その人がどんなライフスタイルを送り、何に熱狂しているのか」というリアルな顧客像を、解像度高く捉えることができるのです。
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佐藤(電通デジタル):今回は、unerry社の位置情報データをもとに把握したサンシャインシティ来館者の傾向をdocomo data squareのデータ基盤と連携し、セキュアな環境下で統計的に分析することで、来館者のプロファイリングを行いました。
docomo data square プロファイリング分析では、「来館者の傾向と、比較対象(世の中の平均的な傾向など)の特徴値の差分を抽出する」というアプローチをとっています。特徴値の差分を見ることで、単なるデータの羅列ではなく、統計的な視点で「サンシャインシティを訪れる来館者ならでは」の深い趣味嗜好やSNSの利用傾向を可視化しました。
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今回の分析により、サンシャインシティの来館者は「アニメやマンガへの関心が高く、特定のチェーン店やSNSプラットフォームを好んで利用している」といった具体的な顧客像を、データ根拠を持ったうえで明らかにすることができました。
docomo data square上のデータは、分析だけでなく広告配信にも活用できるため、今後はプロファイリング分析で明らかにした顧客像と親和性の高いユーザーに対して、デジタル広告で効率的にリーチしていくことも可能となります。
データが明かした「ファンの熱量」と「新規獲得の伸びしろ」
MZ:実際の分析から、どのようなデータが浮かび上がってきたのでしょうか。
行方(電通デジタル):特に印象的だったのは、18〜30代女性の来館者比率が1都3県の人口構成と比べてかなり高かったこと。さらに「アニメ・キャラクターイベント」や「推し活」との親和性が極めて高かった点です。この層は、特定の主要SNSを他のメディアと比較して圧倒的によく使っているという傾向もわかり、今後の施策を考えるうえでの重要な示唆が得られました。
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また、「口コミ」経由での来館認知が他の認知経路と比較して突出して高いというユニークな特徴も浮かび上がっています。来館者が「誰かにこの体験を共有したい」と熱量を持っておすすめしたくなる施設であることが、データからも裏付けられたのです。
MZ:金子様は分析結果を受けて、どのような手ごたえを感じましたか。

金子(サンシャインシティ):これまで「現場の感覚として、何となく掴んでいたこと」が客観的なデータによって裏付けられ、感覚が確信に変わった手ごたえは非常に大きかったです。また、商圏分析のデータから、新規獲得の「隠れた伸びしろ」も見出すことができました。
今後は、この精緻なデータを社内に展開し、事業部門や経営層、現場スタッフまでが、部署の垣根を超えて「同じ目線」で会話できる環境を作っていきたいですね。
さらに、私たちが40年以上大切にしてきた「池袋の街との結びつき」についても、大変嬉しい成果が出ています。今回の調査で「サンシャインシティの存在が池袋エリアの魅力度を高めていると思うか」とアンケートをとったところ、非常に多くの方から肯定的な回答をいただけました。
「データを共通言語」に、次の10年・20年先を見据えた街づくりへ
MZ:今回の分析を踏まえ、今後どのような取り組みを推進したいとお考えですか。
金子(サンシャインシティ):今回の調査で得られた商圏・属性・行動データをファネルに紐づけることで、「どの段階の生活者に、どのチャネルで、どんな体験を届けるべきか」がクリアになってきます。これにより、現場の限られたオペレーションコストと、ファン育成の取り組みをどう両立させるかという課題に対しても、無駄なく、高い解像度で施策を打つことができると考えています。
そして中長期的には、サンシャインシティ単体にとどまらず、池袋エリア全体をより魅力的な街に進化させることの一助になれればと思っています。今回得たデータを「街づくりの共通言語」にして、次の10年、20年先の池袋をつくっていきたいですね。
MZ:最後に、サンシャインシティにとって電通デジタルはどのような「パートナー」でしょうか。
金子(サンシャインシティ):私たちにとって電通デジタルの皆さんは、私たちの悩みや複雑な課題をどこまでも「自分事化」して、粘り強く向き合ってくださる本当に心強いパートナーだと感じています。各領域のスペシャリストが揃い、その圧倒的な実行力とスピード感は本当に頼もしかったです。
伊藤(電通デジタル):そう言っていただき、光栄です。我々は、単に調査や分析を実施して終わりにするのではなく、「クライアントと伴走しながら、マーケティング課題を解決するための武器として、具体的なアウトプットを提示する」スタンスを大切にしています。
本当に重要なのは、分析結果から「どの領域を攻めて伸ばすべきか」「生活者の求める価値に対してどのような打ち手をとるべきか」を導き出し、具体的な次のアクションへと確実につなげることだからです。

伊藤(電通デジタル):私たちは今、まさにその「どう活用するか」という一歩踏み込んだ領域において、特にAIの活用に力を入れています。独自の対話型AI開発ソリューションをはじめとした最新のテクノロジーを組み込み、「データを持っている」状態から「データを基に意思決定し、次のアクションを起こせる」状態への進化を支える。それこそが私たちの強みであり、今後も提供し続けていきたい価値です。

