個の強みと事業課題をひもづけた仕事を創る
もちろん、本人の希望と事業課題が常に完全に一致するとは限りません。マネジメントに求められるのは、本人の希望だけを優先することでも、組織都合だけで仕事を渡すことでもありません。事業成果につながり、かつ本人の強みやキャリアに意味のある接点を探し、必要であれば新たな仕事として設計することです。
ここで重要なのは、既にある仕事の中から本人に合うものを探すだけではなく、事業課題と個の強みをひもづけた仕事そのものを創ることです。ここで、マネジメントの「仕事を創る能力」が試されます。
事業課題とひもづけながら、メンバーの成長機会となる仕事を創ることができれば、人財育成を通じて事業課題にも向き合えます。
そのためには、マネジメントを担う人は常に事業の課題を考え続けなければなりません。仕事を創ることは、事業の課題を考えることと同義だからです。
これが、マネジメントは単なる組織運営ではなく、組織マネジメントであるという定義の本質でもあります。
私が以前にいたリクルートでは、その機会を半期ごとの「ミッション」として設定し、ミッションシートを作成していました。ただし、重要なのはシートの体裁や型ではありません。マネジメントとメンバーの双方が、そのミッションにコミットしていることです。
そのためには、事業におけるミッションの意義、自分がそのミッションに向き合う意味、そしてミッションの達成基準を明確にする必要があります。達成基準について双方が納得し、コミットできていなければ、評価の際に相互の信頼関係が崩れます。
私は、このひもづけを行うために、強みと、強みを阻害する課題を定義した上で、まず本人のキャリア設計について話し合っていました。
良いキャリアを考える際には、現在の会社の中だけではなく、社会や人財市場で今後どのようなスキルやジョブが求められるのかという視点も必要です。
これは、転職を促進したいからではありません。その視点を持つことが、結果として会社にとってもメリットになるからです。
もちろん、社会で求められるすべてのスキルが、自社に必要になるわけではありません。しかし、自社の事業戦略と社会の変化が重なる領域で求められる能力を育てることは、本人のキャリアにとっても、会社の将来にとっても価値があります。
会社は社会の変化に適応しなければ、事業を成長させられません。社会の変化に応じて事業の状況も変わり、組織に必要なポジションやケーパビリティも変わっていきます。
つまり、社会の変化と自社の事業戦略の双方を見ながら人財を育てることで、本人の市場価値と、自社が将来必要とする組織能力を同時に高められるのです。
「明確な達成基準」でミッションを設定すればコミットしやすい
したがって、私は社会の変化に適応したキャリア設計につながる機会と、事業の課題をひもづけてミッションを設定していました。その上で、本人の成長を加味した難易度のミッションを設計し、双方で合意してコミットするようにしていました。そうすることで、メンバーも自分のミッションに納得し、コミットしやすくなるのです。
また、ミッションを設定する際は、その達成基準について双方が納得し、合意することが不可欠です。結論から申し上げると、数字で定義できるものは明確に数字で置き、数字にしにくいものは国語で「達成した状態」を定義します。
たとえば、「中長期のマーケティング戦略をアウトプットする」というミッションがあるとします。この場合、成果物の内容を単純な数字で定義することは難しいかもしれません。しかし、「いつまでに」「誰の合意を得るのか」を決めることで、達成した状態を定義できます。
ミッションの例
ミッション:中長期のマーケティング戦略をアウトプットする
達成基準:マーケティング部の部長以下が参加する決裁会議において、9月末までに中長期マーケティング戦略の承認を得ること
このように状態を定義すると、達成基準が明確になります。また、難易度をコントロールする際には、ミッションで扱うテーマの範囲を変えることや、合意形成を求める相手を経営レイヤーに引き上げることで調整できます。
これはあくまで一例ですが、このようにキャリア設計からミッションを創り、達成基準を明確にした上で、双方で合意形成をすることがコミットです。
このように達成基準を明確にしてコミットできていれば、人事評価の振り返りでも、感情論ではなく建設的な話し合いができます。人事評価におけるマネジメントの役割は、メンバーが出した成果を公平に評価し、組織に認めてもらうことです。私は当時、評価のフィードバックをメンバーに胸を張って説明できるかどうかを常に重視していました。説明できないということは、評価結果を公平性をもって伝えられないということだからです。
人を評価することは、とても僭越なことです。しかし、その役割を担うのであれば、評価に対する説明責任を持つことが求められるのではないでしょうか。
