放送局が新たに取り組むBtoCビジネス
MarkeZine編集部(以下、MZ):初めに自己紹介をお願いします。
恩地(アイレップ):ライブコマースを推進するチーム「TAKE ZERO」のプロジェクトマネージャーを務める恩地です。ライブコマースの現場のプロデュースやディレクションを担当しています。
二宮(南海放送):コンテンツビジネスセンターで、10年ほど前からSNSやスマホアプリなどデジタルを活用したテレビ・ラジオへの送客に取り組んでいます。主に情報発信やネットコンテンツの制作を担当し、最近は放送外収入を得るための活動にも注力しているところです。
蒲地(博報堂DYMP):テレビスポット&エリアビジネス局で、全国32地区127の放送局の窓口として、放送枠のバイイングやエリアマーケティングなどを主に担当している蒲地です。最近は放送外ビジネスにも積極的に取り組んでいます。
伊藤(博報堂DYMP):私は現在、統合メディアプランナーとして統合アカウントプロデュース局AaaSアカウント推進三部に所属していますが、2022年6月まではスポット局担当として、蒲地と同じテレビスポット&エリアビジネス局に在籍していました。
MZ:博報堂DYMPでは、南海放送およびアイレップと協力し、ライブコマースに取り組まれているとうかがいました。「放送局×ライブコマース」へ取り組むことになった背景を教えてください。
蒲地(博報堂DYMP):コロナ禍で放送局も当社もテレビ広告ビジネスに大きな影響を受けた中で「我々にできることは何か」と試行錯誤していました。動き出したきっかけは、南海放送さんから「放送局として地域のためにできること」と「局アプリの収益化」について相談を受けたことでした。
各放送局の持っているメディアパワーとコンテンツ制作力、地元とのネットワークを活用した新しいBtoCビジネスを企画立案し、そのアウトプットとしてライブコマースの実施に至りました。ライブコマースについてのノウハウも知見も全く持っていなかったため、豊富な支援実績を持つアイレップさんに相談して協力してもらうことになりました。
テレビショッピングとライブコマースの違い
MZ:「放送局×コマース」と聞くと、テレビショッピングを思い浮かべる人が多いと思います。テレビショッピングとライブコマースの違いはどこにあるのでしょうか?
二宮(南海放送):主に3つあります。1つ目はコミュニケーションの方向性です。テレビショッピングは一方通行。司会者と出演者が台本にしたがって商品を説明するため、視聴者は受動的になりがちです。一方のライブコマースは、チャットやアンケートなどを通して双方向のコミュニケーションをとることができます。
2つ目はカメラワークです。ライブコマースの視聴に用いられるスマホ画面は縦型で、テレビ画面よりもはるかに小さい。そのため、ライブコマースのカメラワークはアップが中心になります。複数台のカメラを使って様々な画角から映像を届けるテレビショッピングとは、撮り方を変える必要があるのです。
3つ目は視聴者のITリテラシーが大きな鍵を握ること。テレビショッピングの場合、購入手続きは電話オペレーターが行います。一方ライブコマースでは、視聴者自身が画面内で商品をカートに入れて決済する必要があるため、一定レベルのITリテラシーが求められます。
恩地(アイレップ):1点目の双方向性についてですが、テレビ番組は一方通行である分、画面の向こう側にいる人を飽きさせないためのコンテンツ作りが肝になります。隙のない、きちんと間を埋めきったコンテンツで商品情報をもれなく伝えきる姿勢が求められると思います。
その一方でライブコマースは、双方向のコミュニケーションが可能なため、視聴者から商品について質問やコメントをすることができます。商品に対して質問する人は、商品に関心がある状態ですから、質問の答えを受け取ると購買意欲が高まります。購買意欲だけでなく、ライブコマースの配信を通じて、ブランドへの好意度や商材理解度が高まる効果も期待できます。昨年当社で実施した調査においても「ライブコマースを視聴することで9割以上の人が好意的に態度変容する」という結果が出ています。
逆にライブコマースの難しさは、ユーザーにとって誘惑の多いスマホというデバイスを通じて配信している点にあります。テレビの場合はチャンネルを替えずになんとなく見続ける人もいると思いますが、スマホにはSNSやゲームなど、様々なコンテンツがインストールされています。そんな中でわざわざライブコマースを見に来てもらうためのフックを用意する必要があるのです。
「絶対売れる」と確信したみかんジュースと鯛めし
MZ:南海放送ではアイレップの協力を得ながら、ライブコマースをどのように実施したのでしょうか?
二宮(南海放送):「エモーショナルEC」をコンセプトに、地元の商品を紹介するライブコマースを実施しました。アイレップさんにディレクションをお願いする前にライブコマースを実施したのですが、知見が乏しく「この視聴者数は多いの?少ないの?」という状態でした。
二宮(南海放送):2回目はアイレップさんにライブコマースのコンサルタント的な立ち位置で参加いただき、商品選定のポイントや、地域外の人から見た愛媛の産品の評価などを教えてもらいました。選定した商品は「みかんジュース」と「宇和島の鯛めし」の2品。みかんジュースは送料込みで6本入り9,000円ほどです。
みかんジュースにしては高いと感じられる価格かもしれませんが、その中身は厳選された温州みかんのほか、愛媛が全国に誇る高級柑橘を絞った100%ストレートジュース。普段自らみかんを買うことが少ない愛媛の人でさえ、お金を出して買うようなみかんを使ったジュースなんです。さらに、配信の直前に愛媛県が主催した「みかんジュースコンクール」で入賞したみかんジュースのみを集めた、このライブコマースのための特別セットをご用意しました。もう1つの宇和島の鯛めしは漁師飯。宇和島の漁師が釣った鯛を自分でさばき、卵、醤油、だし汁を混ぜたタレにつけてご飯に載せて食べる料理です。
恩地(アイレップ):ライブコマースで商品を紹介するにあたり、その商品が「語れる商材かどうか」が大切だと私たちは考えています。商品の背景にあるストーリーや、配信者の商品に対する熱量を伝えることができるかどうか。二宮さんへのヒアリングでみかんジュースと鯛めしのストーリーや、商品に対する熱い思いを聞いた時は「絶対売れる」と確信しましたし「その思いをそのままライブコマースで届けましょう!」とお伝えしました。
視聴人数は4割増、同時接続者数は3倍に
二宮(南海放送):撮影時は恩地さんのアドバイス通り、双方向性を意識しました。アンケートやチャットが書き込まれたら真っ先に紹介したり、決済するための時間を設けたりするなど、番組の構成にもアドバイスを落とし込んでいます。
恩地(アイレップ):事前のコンサルティングだけでなく、現場でも「どのコメントをどういう風に取り上げれば良いか」といった細かいところまで伴走させていただきました。
MZ:ライブコマースの具体的な成果を教えていただけますか?
二宮(南海放送):アイレップさんに協力してもらって、配信中のシェア機能を活用したこともあり、ライブ配信の延べ視聴人数と視聴回数が4割増しになりました。下降気味だった視聴時間やエンゲージメントもぐっと上がりましたね。「アンケート回答者にプレゼントを差し上げます」というキャンペーンを仕掛けたところ、同時接続者数は3倍になりました。「愛媛に行ってみたくなった」「宇和島鯛めしのことを初めて知った」など、視聴者からの反応も好意的ものばかりでした。課題は、商品をカートに入れてから実際の支払いに至る途中で離脱してしまう方が多かったことです。
恩地(アイレップ):カートインする方が多くいらっしゃることはわかったので、あとは離脱に至る原因を改善していけば良いと考えています。課題ではありますが、見方を変えれば「ポテンシャルが高い」と言えるのではないでしょうか。
二宮(南海放送):離脱の原因にはITリテラシーが関係しているかもしれませんね。最近は若者のテレビ離れが進み、テレビ視聴者の高齢化が進んでいるといわれています。オンライン決済に慣れていない方も多いでしょう。テレビ番組とライブコマースで作り方を変える必要性を改めて感じました。
ライブコマースの集客に効いた放送局アプリ
恩地(アイレップ):今回の取り組みでわかったことに「ライブコマースと放送局アプリの相性の良さ」があります。アンケートの結果を見ても、放送局アプリ経由の視聴者がほとんどでした。たとえインフルエンサーであっても、多くの視聴者を連れてくるのが難しいライブコマースの世界。「やはり放送局は強い」と感じました。コンテンツの信頼度が違います。
だからこそ、放送局が元々抱えている視聴者層に合わせた配信コンテンツのあり方が重要です。たとえば配信時間帯や曜日、決済までの流れなど、視聴者層を意識したチューニングが重要だと思います。「テレビ×ライブコマース」の領域は事例が少なく、まだ正解といえる勝ちパターンはないので、テレビのプロである皆さんがどのようなライブコマースの解を導くのか、今後の配信がとても楽しみです。
二宮(南海放送):私たち放送局には、地域からの信頼とネットワークがあります。今後も放送局の構成力や制作力を活かして、放送局ならではのライブコマースのスタイルを確立していきたいです。
恩地(アイレップ):当社では、今回の南海放送さんとの取り組みを1つのケースで終わらせず、得られた知見を汎用性のあるマニュアルとして納品しました。マニュアルを通じて「放送局がライブコマースへ取り組む際に気をつける点」「放送局のスキルの活かし方」といったノウハウをお伝えして、活用いただいています。
22の放送局がライブコマースを実施
MZ:博報堂DYMPでは2022年5月から、放送局によるライブコマースサービス「クラフトーク」を開始されたそうですね。どのようなサービスなのでしょうか?
蒲地(博報堂DYMP):クラフトークは、放送局の映像制作力を活用して地元の産品の情緒的価値を発信する「にっぽん発掘型」のエモーショナルなECサービスです。全国の放送局から系列を超えて賛同いただいた21地区22の放送局により、リレー方式で毎週ライブコマースを配信しています。各放送局のメディアパワーを活用した事前告知によって、クラフトークの集客を行っています。
伊藤(博報堂DYMP):2022年5月に立ち上げたクラフトークは、まだまだ手探りの状態で課題も山積みだと認識しています。日々改善策を考えて、今後さらにバージョンアップしていく予定です。「日本市場にライブコマースが浸透している」とはまだ言えませんが、最近ではLINEやTwitterなどのSNSがライブコマースの機能をどんどん導入していますよね。今後は当たり前のものになっていくのではないでしょうか。
恩地(アイレップ):ライブコマースが当たり前のものになった先には、コンテンツ力がものをいう世界が広がっていると思います。そう考えると、コンテンツ制作のプロである放送局が先んじてライブコマースに取り組んでいくことは非常に価値ある動きではないでしょうか。クラフトークの取り組みから生まれるコンテンツに私も期待しています。
二宮(南海放送):クラフトークでライブコマースに興味を持っている局同士がタッグを組み、お互いの地産品の良さを共有しながら視聴者に届けることで、地域活性化や地域創生につなげていきたいです。
ライブコマースの成功事例をもっと知りたい方は
本記事に登場した恩地氏は、2022年11月17日(木)の「MarkeZine Day 2022 Retail」に登壇します。DXを推進し、早くからライブコマースを実践しているミルボンの蓑原氏とともに、ライブコマースのリアルな活用事例を紹介。ライブコマースで顧客とのエンゲージメントを向上させ、ロイヤルカスタマーを醸成したいと考える方は、ぜひご参加ください。
【開催概要】
イベント名:MarkeZine Day 2022 Retail
セッション名:「エンゲージメントを最大化するライブコマース ~企業のDX化最前線~」
日時:2022年11月17日(木)14:40~15:10
形式:オンライン開催
参加費:無料(事前登録制)