※本記事は、2023年10月刊行の『MarkeZine』(雑誌)94号に掲載したものです
「そもそも安すぎる」事業課金
日本のメディアでは、Amazon Primeの年会費1,000円値上げの見出しが躍る。そのほとんどが、「配送コストが」「円安だから」「ガソリンの高騰で」「ドライバーの時間外労働規制の強化、人材不足の懸念が」などのユーザー目線の納得で終わっているようだ。
一人のユーザー目線だけでなく、事業主としての視点で「そもそもあまりに安すぎる(のはなぜなのか)」を考えたい。
Amazonの事業をグローバル規模で見ると、日本を含む海外EC事業部門は毎年ずっと数千億円規模の赤字のまま、言わば「お荷物」だ。EC事業で黒字化しているのは北米のみ。Amazon社全体で収支が成り立っているのは、赤字である海外EC部門を、2.5兆円規模の黒字クラウド事業(AWS)という大黒柱が補完しているからである。「AWS頼みだけではなく、海外EC事業部門も自立しろ」と本部から迫られて重い腰が上がったのだろうか。年会費の値上げは「不思議なまでの安さ」をほんの少し調整し始めた、その序章だ。
Amazon Primeの現在の年会費と、直近の値上げ率を主要国間で比較してみた(図表1)。ちなみに、日本の年会費はAmazonが世界事業進出している約70地域の中で61番目(タイ、マレーシアなどよりも低い)という安さである。
欧米各国は、2022年頃から次々20%以上の値上げに踏み込んでいる。日本事業側も2023年8月の円安時になってようやく「後追い」の発表をしたようなイメージに見える。
同様のタイミングでサブスク料金の値上げを発表した「YouTube Premium」も、そもそも提供サービスに対しての課金が安すぎる。割安な価格を釣りネタとするお試しサービスからしびれを切らしたような反転であり、同時期の値上げは偶然ではなく、決して円安や燃料費値上げなどの表面的な理由だけでもない。