BtoBマーケティングリサーチの基礎を学ぶ!
─ BtoBマーケティングのリサーチはBtoCと何が違う?ハマりやすい2つの落とし穴
─ 「成果を出しても評価されない」のはなぜ?リサーチ調査から見る経営層とマーケ現場のギャップ
─ マーケの打ち手はどこで効く?決裁者849人に聞いた、 検討プロセスから導入決定までの本音
─ BtoBマーケで調査結果が施策に繋がらない原因はデータの量・質にあらず!データ分析の基本作法を学ぶ
─ プロも陥る「確証バイアス」を回避して「顧客の本音」を引き出すには?インタビュー4つのコツ
─ 決裁者が思わずうなずく「客観的ファクト」を作る方法(本記事)
新規事業や新規施策における最大の壁は「社内承認」
BtoB企業で新規事業を立ち上げたり、新規施策を提案したりする際、うまく進まない理由は何でしょうか。真っ先に、「顧客ニーズが見えない」「良いアイデアが出ない」といった企画そのものの難しさをイメージする方が多いかもしれません。
しかし、実際に新規事業の立ち上げを経験した309名へのアンケートで最も多かった苦労は、企画内容そのものではなく「社内の稟議や承認プロセスが煩雑で時間がかかった」(19.1%)でした(図表1)。3位の「経営層や他部署の理解・協力を得るのが難しかった」(10.0%)と合わせると、実に3割近い担当者が“社内合意”でつまずいていることになります。
これは専任の新規事業部門に限った話ではありません。既存事業において、新規施策を提案するBtoBマーケターにとっても同様の課題が存在するでしょう。成果が約束されていない新規の取り組み(未知への投資)を提案して、予算や決裁を獲得するプロセスにおいては、「社内承認の壁」が立ちはだかります。
つまり、プロジェクトを前に進めるには、良い企画を作る力だけでなく、「企画を社内で通す力」も必要なのです。
起案者と決裁者の間に横たわる“視点のズレ”
承認会議で起案者(新規事業担当者やマーケター)がよく浴びるフィードバックには、いくつかの典型的なパターンがあります。次の指摘に、悔しい思いをした経験がある方も多いのではないでしょうか。
- 本当にニーズがあるのか
- 収益化の道筋が見えない
- 我が社でやる意義はあるのか
- 施策の具体的な効果のイメージが湧かない
この行き違いの多くは、起案者と決裁者が見ている「視点(景色)」の違いに起因します(図表2)。
起案者は、「実顧客から直接ヒアリングしたニーズ」「新施策やサービスの利用シーン」「必要な投資やリソース」「素早い仮説検証」を軸に物事を考えます。一方、決裁者が重視するのは「既存事業の経営指標への影響」「現在のビジネスモデルや過去の成功パターンとの整合性」「既存事業の売上・リソースへの影響」「意思決定の根拠とリスク回避」です。
このように、判断材料としている情報の種類と量が異なるのです。この溝を埋めるには、起案者側が集めた「顧客に直接触れて得た手触り感のある情報」を、決裁者が納得できる「客観的な事実」に変換して見せる必要があります。
承認を得るために揃えるべき4つの客観的事実データ
社内合意を得るための客観的な事実は、大きく4つの観点で整理できます(図表3)。詳しく見ていきましょう。
観点1:市場規模
投資価値を裏付けるため、市場規模や成長率、競合動向などの事実を、可能な限り定量的な数値で示します。ここで陥りがちなのが「業界レポートの数値をそのまま貼るだけ」の資料です。既存の統計は対象範囲が広すぎたり、自社が狙うターゲットとずれていたりすることが少なくありません。二次データはあくまで土台とし、対象者を絞ったBtoBパネルへの調査で「本当に狙いたい顧客群における課題認識率や導入意向」といった独自の数値を作ることが重要です。決裁者が知りたいのは「業界全体の数字」ではなく、「自社の提案が現実的にどのくらいの市場を獲得できるのか」だからです。
観点2:顧客の声
インタビューやユーザー観察調査を活用し、ターゲットとなる顧客の課題やニーズ、利用シーンを「顧客の生の言葉」で示します。ここで意識したいのは「1人や2人の声だけで満足しない」ことです。少数の声は「たまたまその人がそう思っただけでは」という疑念を招きます。複数人へのインタビューを重ね、共通して出てくる課題や言い回しを見つけることで初めて、「この課題は個人の思い込みではなく、市場に共通する事実だ」と提示できるようになります。インタビューのコツは本連載の第5回で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
観点3:事業性・収益性
価格受容性や購入意向、PoC(概念実証)の結果などをもとに、事業やプロジェクトが成立するかどうかの収支計画を数値で裏付けます。よくある失敗は、「顧客が欲しいと言ってくれた(施策に興味を持ってくれた)」ことと「実際にお金を払ってくれる(購買行動を起こす)」ことを混同することです。
インタビューで好意的な反応が得られていても、いざ価格を提示すると、一気に導入意欲が下がってしまうケースは珍しくありません。BtoBパネルへの調査で価格帯ごとの購入意向の分布を把握したり、テストマーケティングで実際の問い合わせ数を計測したりすることで、事業の成立性を希望的観測ではなく数字で語ることができます。
観点4:第三者の意見
業界に詳しい専門家へのインタビューや外部コンサルタントの評価、他社事例など、プロジェクトメンバーの思い込みではないことを証明する客観的な評価や事例を示します。社内メンバーだけで議論を重ねると、知らず知らずのうちに自分たちに都合の良い前提で話が進んでしまいます。第三者のフラットな視点を挟むことで、見落としていたリスクや新たな勝ち筋に気づくことも少なくありません。
なお、こうした専門家と接点を持つ際、自社のネットワークだけの評価では偏りが出てしまうことが多くあります。フラットな評価を提示するためには、外部のサービスを活用したほうが良いでしょう(たとえばマクロミルの場合、有識者にヒアリングを行う「エキスパートインタビュー」というサービスがあります)。
この4つの観点におけるデータをすべて完璧に揃える必要はありません。「本当にニーズはあるのか」「どう成果を出すのか」といった決裁者からの具体的な疑念に対して、どの情報で応えるかを意識して準備するだけで、会議での説得力は大きく変わります。
