顧客の本音といかに向き合い、どう付き合うか?
最後の講演は「顧客の本音といかに向き合い、どう付き合うか? 先進企業がリアルに語る、これからの時代のソーシャル戦略とは」と題し、パネルディスカッション形式で実施。MarkeZine編集部 押久保剛編集長をモデレーターに、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン 渋谷正利氏、電通 石谷(いしがい)聡史氏、ブレインチャイルド 池野成一氏、SAPジャパン 瀬尾直仁氏の4名を迎えた。事業会社、広告会社、BIコンサルティング会社、ソフトウェアベンダーという異なる立場から、活発な議論が展開された。
先の2つの講演を踏まえて、押久保編集長は「インターネットのない時代は実店舗やアンケートなどリアルな場で捉えた顧客の声、また売上データや各種ビジネスデータを事業に活かしていた。それが現在では、ネットが顧客の声を捉える場として確実に機能しており、特にソーシャルメディアの意義が大きくなっている。企業と生活者が直接コミュニケーションでき、リアルタイムでその声が分かるという環境が整っている」と解説する。
かつては得られなかったこうしたリソースを事業展開に活かすには、顧客満足向上のために地道なコミュニケーションを重ねる一方で、今回のセミナーの主題に掲げたソーシャルアナリティクスに着手し、さまざまなデータを“使える”形にしていくことが必要だ。
共感を得られ、拡散するトピックを企画段階から組み込む
実際に、事業会社では今どのような取り組みが進んでいるのだろうか。ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンの渋谷氏は、自身が取り組むゲーム機やゲームソフトのプロモーションにおけるソーシャルメディアの活用について次のように話す。
「活用の目的は、プロモーションにおける効果を最大化すること。プロモーションの内容を広く伝え、また顧客からの反応を分析するために、ソーシャルメディア上の拡散状況は常に意識している。企画段階から拡散してもらえるような共感性の高いトピックを盛り込み、リリースしたらリアルタイムの反応を捉えて施策を実施しながら最適化に取り組んでいる」。
以前も、例えばテレビCMを放映した後に認知や商品理解がどう進んだかを調査し、次に活かしていたが、タイムリーにはできなかったと渋谷氏。企画を実行しながら改善していける点は、以前と今とで大きく変わった点だと見解を述べる。
このようにソーシャルメディア上の反応を施策の改善に活かしているのは、まだ一部の先進企業に限られるだろうと、電通の石谷氏は指摘する。
「“リアルタイムで行っている”といっても、半年ごとの分析を1か月単位に縮めていることを指しているケースもある。クライアントと接する際は、まず何のためにソーシャルメディアを活用するのかを確認することが大事だと感じている」(石谷氏)。
素早くフィードバックできるバックエンドの基盤づくりが必要
文脈を伴う顧客の声のような情報は、数値データのように単純に分析することができない。そこで今、高度なデータ分析ツールや分析に関するコンサルティングが活況の兆しを見せている。
こうした領域で企業にソリューションを提供しているブレインチャイルドの池野氏は、先の石谷氏の意見に賛同し「これまでできなかったリアルタイム分析などの手法は、『できないこと』を前提に考えていた以前の状態に甘んじていると活かせないので、この文化から変えていくのが確かに大きな前提になる」と話す。顧客の声を客観的なデータにするには、今や分析ツールは欠かせないが、まずは企業の側の意識を変えることが必要だ。
実際に顧客の声を客観的に扱えるデータにした上で、企業が直面している課題は、具体的な分析方法だ。顧客の声と、ソーシャルメディアへの投稿数を初めとする数値化できる指標を組み合わせ、そこから何を読み取りどう施策へ活かすかはケースバイケースであり、定石がないのが現状だ。
さらに、「分析したデータをマーケティング部門だけでなく事業部門に活かせる、バックエンドの意思疎通や基盤づくりも課題」だとSAPジャパンの瀬尾氏は指摘する。「分析ツール自体はクラウドベースでの提供などにより手頃になっているが、社内のビジネスプロセスが整っているかどうかで成果は大きく変わってしまう」。
リアルタイムで情報を得られても、それを素早く判断しフィードバックしなければ、施策や事業の改善に十分に活かせないわけだ。