検証結果をマーケティングプランにどう活かすか
ここまで紹介されたカバヤ食品の事例について、吉川氏からデータ活用の実務面について質問がなされた。特に話題となったのは、セグメントターゲティングの結果が当初の想定と異なった場合、どのようにマーケティングプランを見直すのかという点だ。
この点について竹見氏は、まず重要なのは「想定したペルソナ」と「実際に購買している顧客」の答え合わせだと説明する。
当初想定していたターゲットを引き続き優先するのか、成果が出ている別のセグメントを重視するのかといった判断が必要になる。市場規模やブランド戦略によっては、難易度が高くても狙っていたターゲットを追い続ける選択もあれば、成果が出ている領域にリソースを集中させる判断もあり得る。
「いずれにしても、意思決定の基準をチームの共通認識として持っておくことが大事です。その基準があれば、状況に応じてターゲットの優先順位を変えたり、プランを調整したりすることができます」(竹見氏)
さらに議論は、リテールメディアそのものの可能性にも及んだ。店頭サイネージやクーポンといった施策は、単なる販促ツールとしてではなく、顧客理解を深めるデータ源としても活用できる。竹見氏は、リテールメディア活用において重要なのは、営業視点とブランド視点のデータを結びつけることだと指摘した。
「営業側の視点と、ブランド側の売上数字をうまく掛け合わせることが重要です。両方のデータを集めて使いやすくすることで、どの施策が成果につながっているのかが見えてきます」(竹見氏)
たとえばクーポン施策であれば、利用数や売上の変化だけでなく「どの顧客が購入したのか」まで分析することで、ブランド側のマーケティングにも活かせる。営業現場の情報とブランド側のデータ分析、この2つの視点を統合することこそが、リテールメディアの価値を最大化する鍵になるといえそうだ。
取り組みの鍵は、最適化と規模のバランス
講演の終盤では、リテールメディアを活用していく上での課題について議論がなされた。効果検証の精度は高まっている一方で、運用面や組織面での難しさも見えてきている。
アンファーでは、マーケティング施策の判断基準としてLTV(顧客生涯価値)を重視している。配送費や販売手数料、広告費などのコストを含めて評価することで、新規顧客獲得にどれだけ投資できるかを判断している。
「私たちは基本的にLTVを基準にして施策を考えています。リテールメディアも含め、どのメディアを使う場合でもこの指標が判断の軸になっています」(吉川氏)
リテールメディアへの期待は、新規顧客へのアプローチ、クロスセル、ブランド価値の向上の3つだ。これらが実現できなければ、LTVは伸びない。一方で、施策ごとの効果が細かく見えるようになるほど、効率の最適化に寄りすぎてしまう可能性もある。
「最適化を進めるほど数字は良くなりますが、施策の規模が小さくなりがちです。検証の結果をどうやって規模の大きい施策に戻していくか。このバランスを取ることが今後の大きな課題だと感じています」(吉川氏)
一方、カバヤ食品は、メーカー特有の組織課題を有している。多くの企業では営業とマーケティングで役割が分かれており、マーケティング施策と店頭の売り場作りが連動しないケースが生まれやすい。
「ブランド側はリテールメディアに大きな投資をしているのに、売り場が広がらないということが起きる場合があります。マーケティング側の施策と、店頭の売り場作りがうまく連動していないからです」(竹見氏)
竹見氏は営業現場やバイヤーとの対話を増やしたり、各部署のKPIをできるだけ共通の結果で見られるようにしたりすることで、皆が同じ言葉で話せる状態を整えているという。
リテールメディアは、購買データを起点に広告効果を実購買で検証し、ブランド認知から店頭行動までをつなぐマーケティングの基盤として進化しつつある。アンファーとカバヤ食品の事例は、その可能性と同時に、検証結果の活用や組織連携の重要性を示すものだった。
