パーソナライズ施策を推進するパルコの「POCKET PARCO」
林氏が所属するWEB/マーケティング部は、店舗のICT活用やパルコカードの運用、スマホートフォンアプリ「POCKET PARCO」の運用を通し、顧客一人ひとりにパーソナライズされたマーケティング施策の推進を行っている。
「従来のパルコという店舗のプラットフォームだけでなく、WEBでもリアルと同様にテナントの皆さまに接客に使ってもらえるオムニチャネルプラットフォームを構築し、接客を基盤とした戦略を進めています」(林氏)
パルコがWEB接客という言葉を使い始めたのは2013年。サイトのリニューアルに遡る。それまではテナントが持っているコンテンツをパルコ側が編集加工していたが、全テナント約3000ショップにブログを用意した。テナントスタッフ自身が情報を発信することで、顧客との直接的な接点の創出を狙うとともに「WEB接客」を実現させた。
同年には、スタートトゥディが提供するファッションアプリ「wear」と連携。パルコのテナントスタッフがwearに投稿した情報が、パルコのショップブログにも自動でアップされるようになっている。
さらに、ブログでは商品情報が偏るため、テナント各社のECサイトの情報をブログに一部表示する「パルコショーウィンドウ」を開始。擬似的なウィンドウショッピングができるようになった。
当時からWebサイトのアクセスは7割がスマートフォンという状況だったため、段階的なチャネル開拓を目指した。「まずはスマホユーザーと接点を持ちたいと考えました。次のステップでその人々をメンバー化し、オウンドメディアでつながり顧客化することを目指したのです」(林氏)
リニューアルから1年後、2014年にはショップスタッフとユーザーの声に応えブログにカートボタンを設置。ブログが動線として確立したところで、ブログ上にWeb 取置き予約&通販注文サービス機能「カエルパルコ」を追加した。そして2015年3月、これらの機能を統合したアプリ「POCKET PARCO」をリリース。
アプリを一言で表すと「パーソナライズした情報の提供とポイントインセンティブを通じたCRMに欠かせない接客ツール」と林氏。情報をお気に入りするクリップや店頭チェックイン、アプリに登録したクレジットカードを実店舗で利用するなどするとポイントが付与される。
秋には、接客サービス評価を追加。利用した店舗のサービスを5段階の星で評価してもらえるようにした。この評価はすぐにテナントにフィードバックされる。コメントも記入できるためユーザーの生の声を、テナントスタッフにもダイレクトに届けられるという。
「これまで来店中の個客の状況は、購入時点のデータでしか把握できませんでした。POCKET PARCOでは、来店前にお客様が関心のある記事やショップを把握でき、来店のチェックインから買い物後のサービス評価を通じて、購入前後までの気持ちがわかるようになりました。これによって、お客様に応じたアプローチをアプリと店頭接客で実行できるのです」(林氏)
無風の状態で強風を吹かせた「MUJI passport」
無印良品の「MUJI passport」といえば、アプリ活用の先駆けだ。濱野氏は同社のCMT(Chief Marketing Technologist)を努める。聞きなれない役職名だが、「マーケティング部門のCTO的な位置づけ」だと濱野氏。デジタルマーケティングを統括するWEB事業部において、非デジタル領域を担当する宣伝販促室や社内の基幹システムを担当する情報システムとのつなぎ役を担っているという。
WEB事業部のミッションは3つある。ネットストアでの売上をあげること、実店舗への送客、デジタルを用いた顧客とのコミュニケーションだ。「ネットストアでの売り上げ向上は当然のこと。売上の9割をあげている実店舗、へいかに貢献するかが最大のミッション」と濱野氏。
良品計画がこの方針を取るに至ったのは、2011年頃に行われた調査が根本にある。ネットストアの会員登録者のうち6割が、ショッピング以外の要素でサイトを利用していることが判明した。
「お客様はネットストアでの購買だけでなく、セールの告知や付与されるクーポン、または、購入前の商品調査も目的にネットストアを利用していました。そこで、リアル店舗で購入する人のためにデジタルマーケティングを行う、という方針が決定づけられました」(濱野氏)
デジタルを用いたコミュニケーションやプロモーションも積極的に行ってきたが、実店舗への効果という視点では、一時的だったり特定の店舗のみに来客が集中したりするといった課題が浮かび上がり、2013年、MUJI passportを提供するに至った。
同アプリの目的は次の3つ。
- ネットとリアルの区別なくファンとコミュニケーションを図る
- 持続的な来店客数増を通じて売上増を図る
- マーケティング施策の可視化を図る
ポイントカード、ニュース媒体、在庫や店舗検索といった買い物支援ツールの機能がついた同アプリは、月間200万人が利用する大きなサービスへと成長している。しかし、簡単に物事が進んだわけではない。
「始めるにあたっては、お客さんにメリットはあるのかという疑問や、仕事が増えることへの現場からの反発、利益を傷めないか・本当に売上は伸びるのかという経営層からの懸念などがありました」(濱野氏)
それぞれの声を納得させるために、様々な準備を行ったという。例えば、マーケティング全体の戦略図を描きアプリの立ち位置を示す。クリエイティブディレクターとアプリの目的を突き詰める、フューチャーフォンユーザーや既存のカード会員への対策。インセンティブプラン作成し、利用者の利用率を予測してPLに落とし込む。「ここまでやって、やっと納得してもらえました」(濱野氏)
施策をスタートさせたら、効果を証明することが求められる。しかし、客数増加を狙ったとして、0.1%伸長したと伝えても効果の実感は得られない。象徴的な事例を複数作ることが重要だ。同社ではアプリを開始して4か月ほどの間に、2つの成功事例を作った。
ひとつ目が、DL特典の付与による効果だ。アプリ提供開始から1か月間、DL特典として500ポイントを提供したところ、店舗でのポイント利用率約43%を達成。客数的にインパクトを示した。二つ目が300円のカレーが100円になるクーポンを土日の2日間限定で配布する施策。実施の1週間前に告知をしたところ、土曜日の午前中で配布が終了した。
「それでも社内で広く効果を認識してもらえたのは1年半ほど経過してから」と濱野氏。決定打を与えたのは、当時770万人いたアプリ会員+ネットストア会員+MUJIカード会員に土日のみ有効なポイントをサプライズで付与し、土曜の朝にプッシュ通知をしたところ、日曜に予想以上の客数を達成したことだという。
「無風だったところに強風が吹いた。これは大きなインパクトを与えることができました。全社の結果としても、2013年から2014年は増税などがあったにもかかわらず、既存店の昨年比の客数が好調に推移しました」(濱野氏)