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ROIを問われる時代のVRの作り方 VRの強みと弱みを知り、成果につながる「体験設計」を企画しよう


 マーケティング業界でVRは「話題」の時期を過ぎて、「実用」の段階へと移ってきています。本稿では、早くからVRコンテンツの企画・制作に携わってきたWHITEの松葉忍氏が、VRをプロモーションやビジネス現場で活用する上での課題と展望を解説。VRというだけでは話題にならなくなった今こそおさえておきたい、広告効果検証にも対応できる活用上のポイントを明らかにします。

 VR元年といわれた2016年、広告コミュニケーションへの活用としては「新しい」、 VRというテクノロジーを使った様々なプロモーション施策を各企業が実施しました。

 それらの施策で利用されたデバイスとしては、「Oculus Rift」や「HTC Vive」など、PCやゲーム機に接続することで様々な体験を可能とする高性能なものや、機能性は落ちるものの1万数千円で高い没入感を提供する「Gear VR」などの中間性能機といったものがまず挙げられます。

 さらに、1000円前後と安価で手軽にVR体験ができるデバイスとして、段ボール製の本体にスマホを挿入して使用する「Milbox(みるボックス)」や「ハコスコ」といったデバイスまで、プロモーション施策に合わせて様々なものが活用されました。

 そうしたVRを活用したプロモーションで制作されたコンテンツも、VR空間内を歩ける、自由に物を掴むことができる、VR空間内に立体的な絵を描くことができるなど、リッチな体験を提供するものから、単純にYouTubeやFacebook上の360度動画体験(自身でスマートフォンやVRゴーグルを動かすことでバーチャル空間を360度眺めて楽しむ)を提供するようなものまで、たくさんリリースされました。

 そんな2016年を経て、2017年にはVRを活用したプロモーションが一般化しはじめ、次のステップである「費用対効果」が問われはじめています。VRを活用したプロモーションを実施することで、結果的に「売り上げが上がるのか?」というシンプルな話です。後述しますが、これがVRプロモーション施策のコンテンツを検討する際、非常に難しい問題となっています。

プロモーション施策におけるVR活用の利点と費用対効果

 VRは一人、ないしは少人数に対して、感情をも動かす圧倒的な体験を提供することが得意なテクノロジーです。体験者を現実の世界からバーチャル世界へと連れていき、その世界の住人にした上で、どのようなストーリーでも体験させることができます。もちろん、人ではなく、細胞レベル、逆に巨大な“何か”に変身させてしまうことも可能なのです。

 アメリカ国立訓練研究所(National Training Laboratories)によると、VRによる圧倒的な体験は、体験した内容を人に強く記憶させ、高い記憶の定着率をもたらすことが科学的にも証明されています。そのため、たとえばその体験者に「製品理解」や「ブランドコンセプトの理解」などを訴求することにおいては、非常に効果的な施策になるといえます。

 逆にいうと、VRは現時点では、大人数に対しての訴求が苦手です。安価といってもそれなりに価格のするVRゴーグルを大量に用意するなど、大人数への対応方法はもちろんいくつかあるものの、やはりスペースとコストのハードルが大きく、国内では大人数に対応したVR施策を見ることはまだ少ないのが現状です。

 また、VRコンテンツは制作できるクリエイターがそれほど多くなく、ヘッドマウントディスプレイを含めた周辺機材も安くないため、その分のコストもかかります。今後、プロモーション施策にVRを検討する際には、こうしたコスト問題は避けて通れません。

 この問題の解決策の一つとしては、上記のとおり、VRを使ったプロモーションにおける強みが「製品やブランドの理解促進」であることを前提としたKPI設計を行うことが考えられます。目的の置き方を正しくすることで、VRコンテンツをプロモーション施策に導入する意義が見えてくるのではないでしょうか。

 なお、大人数に対応した貴重な事例がありますのでご紹介します。「アウディQ7」の製品発表プロモーション時にGear VRを使用した施策です。

 車の性能や乗り心地を理解してもらうには、試乗してもらうことが一番です。しかし、イベントを実施する一晩のうちに大量の人々に一気に試乗してもらうことはほぼ不可能。そこで、VRによる試乗の疑似体験が行われました。

 最終的にはなんと800名以上の人々がこのVRでの試乗体験を行いましたが、通常のイベントのように2~4名ずつ体験してもらっていてはイベント自体の時間がとてつもなく長くなってしまいます。そこで、一度に100名 が体験できる、広いブースと100台 のGear VR、スマートフォン、ヘッドフォンと椅子を用意。さらには100台のVRデバイスを同時に再生できる仕組みも制作したようです。

 通常であれば、実際に乗る以外には体感することができない車の乗り心地や性能といった体験価値の提供をVRで補完した事例です。さらに、実際に車に乗るのとは異なるエンターテインメント性も付加することで、見事に製品への期待や好意醸成に成功しています。このように、広いスペースと空間演出が可能な場所などが用意できれば、大人数への対応も可能となります。

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この記事の著者

松葉 忍(マツバ シノブ)

クリエイティブテクノロジスト/VRプランナー。ファッションデザイナーからSEへ転身。その後Webディレクターへ。よりクリエイティブな環境を求め、2011年アマナへ入社。Web制作を中心としたプロモーションの企画、制作に携わる。2015年にアマナVRチームを立ち上げ。以降VRコンテンツにおける企画・制作を担当。201...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/01/12 16:27 https://markezine.jp/article/detail/27049

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