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“聞く”から“任せる”へ 「Agentic Search」が起こす、検索体験の転換とファネルの崩壊

マーケターが今すぐ着手すべき準備

 このAgentic時代において、マーケターが今から整備すべき要素は次の通りである。

1. 構造化コンテンツ環境の整備

 LLMが理解しやすい構造化データ形式と明確なセクション分けを用意し、「AIが引用しやすい基盤」を作ることが急務だ。

2. マルチモーダル対応の強化

 画像・音声・映像を投稿しても意味や内容がAIに正確に伝わるよう、Altテキストやキャプション、メタデータを適切に添える必要がある。

3. プロンプト&ワークフロー設計力の内製化

 「どうAIに命令すれば自社情報が出てくるのか」を理解し、プロンプト設計やAgent挙動設計の知見を社内で蓄積していくことが不可欠である。

4. AI基盤と既存ツールの連携

 Agentic AIはCRMやCMS、広告配信などと組み合わせることで力を発揮する。これには部門横断的な協働体制とテクノロジー基盤の再設計が必要だ。

 これらは、単なる“AI対応”ではなく、「AIと共に意思決定し、価値を届ける設計者」へとマーケターを進化させるための基盤である。

懸念と倫理的視点

 Agentic AIの進展は多くの利便をもたらすが、倫理的問題も同時に顕在化している。

 まず、AIが内在的に備えるバイアスに注意が必要だ。学習データや設計判断に基づく偏向は、信頼できない判断を増幅するリスクがある。

 次に、判断根拠が不透明な“ブラックボックス性”もUXと信頼性の障壁となる。Explainable AI設計が求められている。

 また、AgenticなUIは「提示されたものを受動的に受け入れる」構造であるため、情報非対称性や選択肢の制限が生じやすくなる。この点は検索の民主性に関わる重大な倫理課題である。

 さらに、画像・位置情報・パーソナル履歴など、特にプライバシーの観点では透明性と同意の確保が必須である。

 これらの問題は単なる技術的課題ではなく、Agentic AIが人間の判断プロセスに深く介在する以上、社会的責任として対峙すべき課題でもある。

今後の展望とマーケティング戦略の再解釈

 検索から行動までを一気通貫するAgentic Searchの波は、既に未来ではなく「今」である。従来の検索体験に加え、Agenticな接点は今後、広告・EC・CRM・コンテンツマーケティング全体に統合される見込みだ。

 Agenticな世界において、ブランドは単なる“選択肢”ではなく、AIとの信頼関係に基づく“最適解”として存在し続けなければならない。この先、マーケターが考えるべきは「検索されるブランド」ではなく、「AIに選ばれるブランド」であること

 それを助けてくれるのもまたAIである。AIとの協業により、マーケティングの領域はコンテンツ作成・分析・戦略の分断から脱却し、「AIと共に価値の設計をする」文化が組織文化の中核となるだろう。

 マーケターは今から「AIに選ばれる設計者」としての役割を担う準備が必要なのである。

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この記事の著者

岡 徳之(オカ ノリユキ)

編集者・ライター。東京、シンガポール、オランダの3拠点で編集プロダクション「Livit」を運営。各国のライター、カメラマンと連携し、海外のビジネス・テクノロジー・マーケティング情報を日本の読者に届ける。企業のオウンドメディアの企画・運営にも携わる。

●ウェブサイト「Livit」

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/06/18 09:30 https://markezine.jp/article/detail/49300

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