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内製化とは“マーケティングOS”の構築である。ヤマハ発動機が実現する、事業横断の持続的な広告運用体制

 広告を取り巻く環境や顧客接点が複雑化し、AIを筆頭とする急速な変化の中、組織力や事業横断的なマーケティング戦略の必要性が増している。しかし、自律的な推進体制を目指して「内製化」に着手するも、壁にぶつかる企業は少なくない。ヤマハ発動機およびヤマハモーターソリューションは、広告運用の属人化やデータのサイロ化という課題に対し、事業部が持続的に自走できる体制作りを目指して電通デジタルとともに取り組みを開始。ゼロから作り上げたマーケティング内製化プロジェクトの全貌について聞いた。

多岐にわたる事業部を横断して広告運用を支援

MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、皆さんの今回のプロジェクトにおける役割を教えてください。

王(ヤマハ発動機):ヤマハ発動機の経営戦略本部 デジタル戦略部に所属し(※ガイドライン作成当時)、社内の各事業部がデジタル広告運用を自走できるようサポートしています。

 ヤマハ発動機にはバイクやロボティクス、電動アシスト自転車、船舶エンジンなど、BtoCからBtoBまで多様なプロダクトがあり、事業部ごとにニーズや状況も多岐にわたります。今回のプロジェクトでは、各事業部と直接やりとりしながら現場の目線を取り組みに落とし込む役割を担いました。

ヤマハ発動機株式会社 IT本部 データドリブン推進部 王 逍雨氏
ヤマハ発動機株式会社 IT本部 データドリブン推進部 王 逍雨氏

桜井(ヤマハモーターソリューション):ヤマハ発動機のIT領域の子会社であるヤマハモーターソリューションに所属し、Webサイトを中心にデジタルマーケティング全般の事業部横断支援を行っています。広告運用やアクセスログ分析、タグの管理など幅広く担当しており、今回のプロジェクトでは各事業部の実態に合ったフィードバックを提供する役割でした。

天野(ヤマハモーターソリューション):桜井と同じグループに所属し、広告運用支援やWebサイト改善に取り組んでいます。たとえば、昨年は電動アシスト自転車やバッテリーリコールの広告を担当しました。今回のプロジェクトでは、実際の運用現場の視点からフィードバックを行いました。

櫻井(電通デジタル):電通デジタルで、マーケティングとAIを組み合わせクライアント支援をリードする部署に所属しています。内製化支援やAIを活用した新しいソリューション開発、大規模なPoCなどイノベーション領域に携わっています。今回のプロジェクトでは、要件定義をはじめ全体推進の役割を担いました。

岩崎(電通デジタル):電通デジタル社内の生産性改善をミッションに、業務フローの設計やAI・BPOを活用した効率化を進めてきました。社内で培ってきた知見をクライアント支援に活かす形で本プロジェクトに参加し、具体的なドキュメント整備や業務フロー設計を担当しました。

事業部ごとのバラバラな運用で、知見が貯まらない

MZ:今回の取り組みに至った背景をお聞かせください。

桜井(ヤマハモーターソリューション):元々ヤマハ発動機では、企業全体で広告を一元管理する仕組みがなく、事業部ごとの判断で各々ベンダーと契約し、独自に運用していました。デジタル戦略部が関与できた事業部は一緒に進められていたのですが、「デジタル戦略部が社内のデジタル広告運用支援機能を持っていること」自体を認知しておらず、別の制作会社と独自契約を結んでバラバラに動いていた部署も存在していました。結果として、コストもやり方も統一されず、何のデータがどこにあるかがわからない事態に陥っていました。

 また、デジタル戦略部が伴走型で支援を続けてもノウハウが事業部側に蓄積される仕組みがないため、少ないリソースで支援が終わりなく続いている課題もありました。

ヤマハモーターソリューション株式会社 デジタルソリューション事業部 デジタルプロダクト推進部 デジタルマーケティング推進グループ 桜井 良子氏
ヤマハモーターソリューション株式会社 デジタルソリューション事業部 デジタルプロダクト推進部 デジタルマーケティング推進グループ 桜井 良子氏

王(ヤマハ発動機):デジタル戦略部として各事業部が自走できるようサポートをしていましたが、ヤマハ発動機社内に「標準のやり方」がなく、担当者個人の知識に依存していました。さらに、事業部ごとに内容をカスタマイズしながら対応する形では、標準化が進まないジレンマもありました。

 そこで、広告領域の専門知見を持つ電通デジタルさんのノウハウをベースとし、事業部の声を取り入れながら整備する方向性にシフトすることで、より良い形になるのではないかと考えたのです。

対症療法ではなく、持続的に成長できる基盤を設計

MZ:ヤマハ発動機の課題を受け、電通デジタルとしてどのような戦略を立てましたか。

櫻井(電通デジタル):ヤマハ発動機さんには複数の事業部があるため、事業部ごとの課題に対して対症療法的に手を打つだけでは限界があると感じました。そこで、まずは皆さんとの対話を通じてゴールの定義を行いました。これにより、単に各事業部がパートナー企業と個別にやり取りしている状況を解消することが目的なのではなく、「各事業部が持続的にマーケティング活動を続け、高度化していくことが本来のゴール」であると整理できました。

 ゴールが明らかになったことで、そのために必要な要素や戦略も明確化できます。今回は専門人材を送り込む支援だけではなく、電通デジタルが数多くのクライアント支援を通じて磨いてきた業務フローやフォーマットを、ヤマハ発動機さんやヤマハモーターソリューションさんの業務プロセスに当てはめる形が最適だと考えました。

 また、最初から「100%の完全内製化」を目指すのではなく、「いつまでに、どこまで行くべきか」のロードマップを一緒に描いたことも重要なポイントです。ゴールへの道筋を共通認識として持てたことで、プロジェクト全体がスムーズに動き出したと思います。

株式会社電通デジタル データ&AIソリューションセンターAIイノベーション事業部プロデュース第2グループ グループマネージャー 兼 マーケティングプランニングセンター プランニング2部 MOps推進グループ マネージャー 櫻井 康人氏
株式会社電通デジタル データ&AIソリューションセンターAIイノベーション事業部プロデュース第2グループ グループマネージャー 兼 マーケティングプランニングセンター プランニング2部 MOps推進グループ マネージャー 櫻井 康人氏

課題を紐解きゴールへの道筋を具体化した、2つのステップ

MZ:実際の取り組みは、どのように進めていったのでしょうか。

櫻井(電通デジタル):大きく2つのステップで取り組みました。まず1つ目のステップとして、現在発生している業務を棚卸しし、どのような業務フローにするかを設計する“整流化”を進めました。

 その上で2つ目のステップでは、電通デジタルが業務を持続的に回すために整備してきたフローやフォーマットのうち、ヤマハ発動機さん・ヤマハモーターソリューションさんに合わせてカスタマイズすべき要素を選定してドキュメント化する“標準化”に着手しました。特に、プロジェクトの開始前に「この日から全社統一の土台を活用します」という宣言を社内向けにも発出できたことで、スピーディな導入につながったと思います。

課題解消に向けた、本取り組みの2ステップ(クリックして拡大)

岩崎(電通デジタル):2つ目のステップは具体的に、運用の拠り所となる3種類のドキュメントを作りました。広告のプランニングをどう考えるかを整理した「プランニングガイドライン」、PDCAを回すための考え方や作法をまとめた「運用手引書」、そして環境変化にともなうルール改定の考え方を定めた「保守ルール」です。

 加えて、入稿の指示書などフォーマット類も整備しました。とはいえ、あらゆる細則をルール化しすぎると現場は実情に合った動き方ができなくなってしまいます。そのため、最大公約数となるラインを見極めながら、“引き算”の感覚で定めていきました。

株式会社電通デジタル パフォーマンスマネジメント部門 業務改革ユニット 事業部長 岩崎 真氏
株式会社電通デジタル パフォーマンスマネジメント部門 業務改革ユニット 事業部長 岩崎 真氏

王(ヤマハ発動機):ドキュメントの草案ができた段階で、事業部の担当者にも実際に見せて「現場で使えるか」「知識がゼロでも運用できるか」をヒアリングし、複数回ブラッシュアップしました。このプロセスが、実際に機能するドキュメントに仕上げるための大きなポイントだったと感じます。

MZ:整流化・標準化の2ステップに追加で、BIツールも整備されたそうですね。

櫻井(電通デジタル):BIツールは、今回作成したドキュメントに即して数字を分解・可視化できる設計にしました。ヤマハ発動機さん、ヤマハモーターソリューションさん側の強力な連携もあり、プロジェクトの発足から合計5ヵ月程度というスピード感で、各種ドキュメントおよびBIツールを納品できました。

基盤=OSの構築を見据え、ロードマップを描く

MZ:取り組みを通じて、どのような成果や手応えがありましたか。

王(ヤマハ発動機):現場支援に入る際、このドキュメントを土台にできるので、引き継ぎや説明が非常にスムーズになりました。事業部内の担当者が変わったとしても、運用の属人化を防げる環境が整いつつあります。

天野(ヤマハモーターソリューション):広告運用を始めたい事業部の担当者が、まず参照すべきガイドを作れたことは大きな成果です。社内共通の基礎知識を持った状態で運用を始められるため、要件確認やメディアプランの作成も円滑になりました。フォーマットを統一したことで、クリエイティブの管理や各事業部との連携も取りやすくなっています。

 加えて、窓口と支援の仕組みをイントラネットで公開できたことで、これまで支援を求められなかった事業部からも正しいルートで相談を受けられるようになりました。ヤマハモーターソリューション側も、迷わず対応できるようになっています。

ヤマハモーターソリューション株式会社 デジタルソリューション事業部 デジタルプロダクト推進部 デジタルマーケティング推進グループ 天野 絵梨香氏
ヤマハモーターソリューション株式会社 デジタルソリューション事業部 デジタルプロダクト推進部 デジタルマーケティング推進グループ 天野 絵梨香氏

MZ:今回のプロジェクトを踏まえ、マーケティング内製化を成功させるポイントを教えてください。

櫻井(電通デジタル):「マーケティングを内製化したい」という企業の要望をそのまま受け取るのではなく、はじめに「どういう状態を目指したいのか」を徹底的に議論し、私たちが持つフローやフォーマットなどの「物差し」を当て、互いに意見をキャッチボールしながら進めていく。このプロセスがあってこそ、意味のある打ち手が設計できると考えています。

 内製化そのものは目的ではなく、各社のマーケティング活動が持続的に高度化していくための「基盤=OSの構築」こそが本質です。それを見据え、ロードマップを描くことが重要となります。

岩崎(電通デジタル):標準的なやり方やパッケージがそのまま当てはまるケースのほうが少なく、各組織の文化や特徴をいかに言語化してカスタマイズしていくかが大切です。

 また注意すべきは、内製化のような大きなテーマは立場によって捉え方がまったく異なる点です。管理層と現場層それぞれの視点にブレイクダウンし、各組織の目線に合わせた設定をしていかないと、いくら便利なツールやフォーマットを導入しても効果的に機能しないと考えています。

AIとの融合やグローバル展開──持続的な成長への展望

MZ:最後に、今後の展望をお聞かせください。

桜井(ヤマハモーターソリューション):今回作成した運用基盤は、やはりベンダーにすべてをゆだねる運用方法と比較すると、担当者の工数をある程度圧迫します。短期的に捉えると業務に支障が生じると思われてしまうこともあると思います。しかし、長期的なメリットとして自分たちで取り組むことで知見が蓄積し、より適切な運用が可能になると考えています。次のステップとしてはこれを社内に伝え、浸透させることです。

 また、グローバル展開もこれからの大きなチャレンジです。今回、グローバルでの活用を前提にドキュメントを設計したので、各国拠点への展開も進めていきたいですね。

天野(ヤマハモーターソリューション):ガイドラインやフォーマットを事業部と一緒に使用していく中で、改善が必要な部分も今後出てくるはずです。一度作って終わりにするのではなく、事業部の声を聞きブラッシュアップを続けながら、広告運用を始めたいと思った事業部も安心して踏み出せるサポートをしていきたいです。

王(ヤマハ発動機):社内共通のプランニングガイドラインができたことで、外部ベンダーと連携する場合も企画段階での最低限のポイントを押さえられるようになりました。今後は効果検証のデータを事業部が自ら判断できるよう、データ活用の面も進化させていきたいと考えています。

岩崎(電通デジタル):現場の担当者が日々の作業で感じるストレスや心理的ハードルをさらに下げることが次の課題です。今回作成したドキュメントをAIに読み込ませることで、担当者がAIに質問しながら運用できる環境も実現可能です。業務効率化の観点でも、引き続き伴走していければと思っています。

櫻井(電通デジタル):電通デジタルではメディアプランニングを支援するAIや、PDCAを考えてネクストアクションを提案するAIエージェントの開発も進んでいます。今回準備したドキュメントとAIをかけ合わせることで、各事業部の担当者が歩みを止めないための仕組みを一緒に構築できればと思っています。

 プロセスや専門人材をそのまま企業内に移し込むやり方では、属人化する先が変わるだけです。内製化を通じて「あるべき姿・ありたき姿」をいかに描き、そのための基盤を構築していけるかが重要です。当社は各種ソリューションから人材・ナレッジマネジメントまで広域な支援体制を持ちますが、実際の取り組みを通じて花を咲かせるのは、クライアントとの共創あってこそなのです。

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この記事の著者

落合 真彩(オチアイ マアヤ)

教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社電通デジタル

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2026/05/25 10:30 https://markezine.jp/article/detail/50570