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はなさく生命と電通デジタルに聞く「考えることを手放さない」AIマーケ基盤内製化

 データは豊富に保有しているにも関わらず、意思決定に活かせていない。こうした課題を抱えるマーケティング組織は多い。豊富な顧客データの蓄積があるはなさく生命も、複数ある販売チャネルのデータが分散し、活用しきれない状態だった。そこではなさく生命が取り組んだのが、AIを活用したデジタルマーケティング基盤の内製化だ。本稿では、個人情報やセキュリティの取り扱いなどガバナンス面のハードルが高い保険業界においてスピーディーにPoCを成功させたはなさく生命の強い意思と、それを形にした電通デジタルの設計哲学を聞いた。

販売チャネルの分散によるデータのサイロ化と属人化

──マーケティング基盤の内製化に至る前、はなさく生命保険(以下、はなさく生命)ではどのような課題がありましたか?

はなさく生命保険株式会社 ダイレクトマーケット推進部 担当部長 畝村 直弥氏

畝村:私たちダイレクトマーケット推進部は、Webやテレビなどの広告運用を通じてお客様に当社の保険商品を認知・契約いただくことがミッションです。課題は、ダイレクトの申込方法として郵送、Web申し込み、オンライン面談など複数経路あるため、計測データや指標がチャネルごとに分散していたことでした。このサイロ化により、複合的に業務改善のサイクルを回す設計が難しかったのです

日下部:もう1つの課題は、データチームが行う高度な分析結果の理由や背景が、なかなかチーム全体に伝わらない点でした。「なぜこの結果なのか」をすぐに確認したくても、回答に時間をとらせてしまう心理的な遠慮もあったのです。

畝村:そのため、成果が個人のスキルに依存してしまいがちでした。この属人化を解決するには、豊富なマーケティングデータを活かし、組織全体でナレッジを共有し、経験則だけに頼らず第三者目線でデータを分析できる統合的基盤の構築が必要でした。実現すれば業務の効率化にも、経営に対するアウトプットの基盤にもなり得ます。こうして、マーケティング組織全体で活用できるデータソースの構築を目指すことにしたのです。

高いガバナンス基準をクリアし、部署をまたぐAI活用へ

──電通デジタルとのパートナーシップが始まった経緯を教えてください。

はなさく生命保険株式会社 ダイレクトマーケット推進部兼経営企画部 課長 日下部 奈緒美氏

日下部:最初は広告運用の支援を受けることから協業が始まりました。次第に、コンバージョンAPIの設計や、自社で持つ契約データなどのファーストパーティーデータをマーケティング施策にどう活かすかといった、より深い領域へと自然に範囲が広がっていきました。2026年で4年目になりますが、当社の事業を深く理解いただけている点が、電通デジタルさんとの関係が続いている最大の理由です。

──デジタル面だけでなく、保険業界特有の事情もあったかと思います。

日下部:そこは非常に重要なポイントです。保険業界はシステムや法令、個人情報・セキュリティの取り扱いに対するハードルが非常に高いのです。その点で電通デジタルさんには、守るべき基準をすでにご理解いただいているからこそ、プロジェクトのスピードが圧倒的に早く、課題を一緒に乗り越えられる信頼感がありました。こうした積み重ねがあったからこそ、複数の部署をまたいで、高いガバナンス基準が求められるAI基盤の構築にも踏み出せたのです。

──AI基盤構築プロジェクトのゴールと、手法を教えてください。

株式会社電通デジタル データ&AIソリューションセンター AIイノベーション事業部 グループマネージャー 櫻井 康人氏

櫻井:最終的なゴールは「AIソリューションを業務プロセスに組み込み、ワークフローを強化すること」です。しかしAIは技術の進歩が速く、最適なソリューションがその時々で変わります。だからこそ早期に成果を創出し、実アウトプットを確認しながら最終形へ近づける必要がありました。そこで最初のゴールとして、「早期のPoC(概念実証)」を掲げました。

中﨑:今回のPoCでは、はなさく生命様が将来的に使用していく分析AIエージェントを短期間で調査・検証することを目標としました。そこで環境構築としては、はなさく生命様が基盤とされているGoogle Cloud Platform(GCP)の環境を活用し、データマートの設計やファーストパーティーデータの具体的な活用プロセスを一緒に整理していきました。

4ステップの設計で実現。マーケの実業務を起点にしたデータ構築

──設計の具体的な流れを教えてください。

中﨑:分析の基盤構築から分析AIエージェント開発のための設計は大きく4つのフェーズで進めました。「1、分析目的の明確化」「2、データ要件の定義」「3、個人情報を含まないセキュアな環境下でのデータマート構築」、そして「4、分析AIエージェントの作成・検証」です。その結果、はなさく生命様と話し合い、Gemini Enterprise appのGoogle Agent Development Kit(ADK)カスタムエージェントにて、分析AIエージェントを集中開発していくことを選択しました。

株式会社電通デジタル データ&AIソリューションセンター AIソリューション事業部 中﨑 敦氏

──設計の中でこだわったポイントはどこでしょうか?

櫻井:単にデータを分析できる環境を作るのではなく、マーケティング活動の出口、つまり「どんなアウトプットがあれば業務が変わるか」を起点に置いていました。「知りたいことは何か」「その結果を出すためにどんなデータを生成・管理すればよいのか」と、活用の出口から逆算したワークフローをはなさく生命様と共に検討したのです。

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中﨑:もう一つ重要だったのが、はなさく生命様の社内で使われている言葉の意味を正確に反映させることでした。業界や社内特有の言葉の定義や、分析ロジックなどをチューニングしてAIに学習させる必要があったのです。

日下部:たとえば保険のWeb申し込みは、一般的なECサービスと比べて入力項目が多く、慣れたユーザーでも30分以上かかることがあります。そのため申し込み完了時点のデータだけを注視しても、マーケティング活動には活かせません。そこで「仮登録」という計測ポイントを設け、CVR計測に用いています。こうした社内特有の概念をAIを活用したデジタルマーケティング基盤に理解させることが重要でした。

櫻井:はなさく生命様で固有に使われている言葉の意味を正確に再現するためにはどんなデータが必要か、そしてそのデータをマーケティング活動にどう結びつけるか。「翻訳」や実装・実現のやり取りを密に行いました。

 これまではなさく生命様の広告運用を支援していたチームやAI専門のチームなど、多様な専門領域を持つ電通デジタル内部のチームがワンストップで連携したことが、今回の迅速な実装を支えたと感じています。

「考える作業は手放さない」ハイブリッド型の内製化

──伴走支援では、電通デジタルの担当者が常駐するのではなく、「内製化」を選んだとのことですが、その理由は何でしょうか?

日下部:はなさく生命にはもともと、自分たちでデータとナレッジを積み上げ、意思決定のスピードを高める文化があります。外部に委ねてしまうと、考えるためのナレッジごと手放すことになります。

畝村:新しいツールの使い方は教えてもらいたいですが、「考える作業は自分たちでやる」という姿勢は崩したくなかった。その思想が今回のプロジェクトの根幹にありました。

櫻井:電通デジタルとしても「内製化はハイブリッド型で良い」と考えています。

 はなさく生命様のご支援で最も大事にしたのは、現場が必要とした時に必要なアウトプットが出てくること。そのため人が常駐するよりも、AIのソリューションをワークフローに組み込んで業務プロセスそのものを強くするほうが、本質的な価値を高めることにつながると考えました。

 それを前提とすれば、クライアントの社内にあるべき領域は、ブランド管理や会社として大切な判断軸を守ること、ファーストパーティーデータの活用、クリエイティブの運用など、即時に意思決定を実運用に反映させるためのコア領域です。一方で、大規模プラットフォーマーとの連携ソリューションや先進的なプロダクトの知見、最新マーケティングトレンドの共有などはそのプロフェッショナルを擁する外部パートナーが価値を提供できる領域となります。思想に応じた支援の型として今後とも上手く連携していきたいです。

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ナレッジを組織全体へ共有。クリエイティブ評価にもAIの視点を

──PoCの成果について教えてください。

はなさく生命保険株式会社 ダイレクトマーケット推進部 菅 将俊氏

菅:「わざわざ時間を割いて教えてもらうのは気が引ける」と思っていた他領域の前提知識も、本プロジェクトを通じて作成したAI エージェントに気軽に聞けるようになりました。他のメンバーがどんな領域を担当していて、今どういう数値状況にあるのか。そうした他領域のキャッチアップがしやすくなり、チーム全体の業務理解が深まっています

 また、把握できるデータの範囲が増えました。これまであまり意識していなかったお客様の属性データや転換率まで目に入るようになり、考察の幅が広がりました。

日下部:現場でWeb領域を担当していると、予測値のブレやズレなど、前年同期の数値や時期的な変動要因を確認したい場面が頻出します。以前は過去の膨大なデータファイルを引っ張り出して調査する手間がかかっていましたが、今はリアルタイムで出力される状態となり、数値への理解が格段に深まりました。

中﨑:AIを使って社内で何ができるのか、実際のデータを使うとどんなアウトプットが出るのか、メンバーの皆様が具体的なイメージを持てるようになったことも大きな成果ですね。

畝村:このプロジェクトの目的の1つは「属人性を解消してナレッジを組織全体に広げる」ことでした。その足がかりとして、とても良かったと思っています。加えて、クリエイティブの評価でも変化が出てきました。従来は経験則による判断が中心でしたが、今はAIエージェントにより第三者的な視点を加えながら、クリエイティブについて多角的に議論できるようになっています

データの格納庫から「提案型パートナー」へ。全社変革を見据えた展望

──今後の展望を教えてください。

日下部:現在、AIエージェントで扱えるデータは、運用サイドが求める細かい情報が優先されています。そのため次のステップとして、より多くのメンバーが使いやすいよう、扱うデータを広げていくことが目標です。

 さらに、日々のディスカッション内容や「なぜこの判断をしたのか」というプロセスをAIにインプットし、データとして蓄積していきたいと考えています。これまでは数字中心のデータでしたが、人間の判断軸や考え方を融合させることで、さらに精度が上がるはずです。

 最終的に目指しているのは「単なるデータの格納庫」ではなく、はなさく生命の判断基準を理解した上で、「こういう方向性ならこんな施策はどうですか」と次のアクションにつながる提案をくれるパートナーのような存在です。

 ほかにも、コミュニケーションツールの中でAIエージェントにメンションしたら即座に動いてくれる、そういう姿も1つの理想ですし、ペルソナの把握などクリエイティブチームへの活用拡大や、マーケティング担当者が抱えているノンコア業務や定型タスクを効率的に処理していける「個人用AIエージェント」も待望されています。すでに週次の定例会でも活用が進んでいますが、さらに深く日常に組み込んでいきたいです。

──電通デジタルは今後どのような点に注力しながら支援していきたいですか?

櫻井:今後は、データをよりリッチにするための課題を解消し、分析エージェントだけにとどまらない、現場の細かな実務タスクの解消までができるようになれば良いと考えています。

中﨑:データエージェントの開発においては、より実践的な分析を実現するためのヒアリングを重ね、データマートの強化を予定しています。また分析エージェントでは、要因分析や将来予測といった領域への段階的な高度化を目指しています。そのためには、はなさく生命様の業務知見や判断ロジックを分析エージェントに組み込んでいくことが重要です。加えて、分析エージェント以外の領域への展開も視野に入れています。

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この記事の著者

山岸 裕一(ヤマギシ ユウイチ)

インタビューライター/編集ディレクター
広告・Webコンテンツディレクターなど、約20年の会社員を経て独立。ビジネス系を始め、AI・DXなどのテック系、マーケティング、人材採用、開発ストーリーに強みを持つ。経営者を中心に、取材人数はのべ600名超。フリーランス歴8年目。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社電通デジタル

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2026/07/13 11:00 https://markezine.jp/article/detail/53229