※本記事は、2021年10月25日刊行の定期誌『MarkeZine』70号に掲載したものです。
明確なビジョンの提示が差別化につながる
(左)ビルコム株式会社 プロデュース局 マーケティング部 部長
田中幸司(たなか・こうじ)氏ビルコムへ入社後、BtoB企業へのPRコンサルティング、戦略策定、コンテンツ企画に携わる。その後、BtoBSaaS「PRAnalyzer」事業の法人営業、マーケティング、オペレーション統括を経て、現在は代理店事業のマーケティング、インサイドセールスを担当。
(右)株式会社チームスピリット マーケティングチームディレクター
藤原秀樹(ふじわら・ひでき)氏面白法人カヤックにて事業部長、執行役員を歴任後、社員の幸福と事業成長を両立させる組織の在り方を追究すべく、2019年3月、チームスピリットにジョイン。新サービスの立ち上げに参画後、2020年9月より現職。
田中:本連載ではこれまで2回にわたって、BtoBビジネス、特にSaaSにおけるPR戦略についてお話ししてきました。比較的短期での成果が見込めるデジタルマーケティングや営業などと比べて、中長期で取り組む必要があり経験者が少ないPRやブランディングは先送りされてしまいがちなのですが、早い段階から戦略的に取り入れていくことで、継続的な成長が可能になります。
そこで今回は実践編として、BtoB×SaaSの世界でブランド価値の向上に精力的に取り組まれているチームスピリットの藤原さんをお招きしました。早速ですが、藤原さんのご担当業務とプロダクトの概要をお話しいただけますか。
藤原:私たちチームスピリットは合計で約1,500社31万ライセンスにご利用いただいている「TeamSpirit」と「TeamSpirit EX」を開発・提供しています。私は2019年3月にジョインし新サービスの立ち上げに参画後、2020年9月よりマーケティングチームの責任者をしています。
TeamSpiritは従業員の方々が日々利用する業務機能を統合し、企業の生産性向上や内部統制の強化を支援するSaaSソリューションです。具体的には勤怠管理、工数管理、経費精算、電子稟議、社内SNSといった機能があり、従業員の皆さんはツールへのログインが1つで済みますし、管理部門においては勤怠の記録と業務内容の内訳が紐づいていることで、工数管理がやりやすくなります。さらに、すべての業務データが1つのデータベースに集約されていることで、たとえば勤怠と工数の関係や、工数と経費精算の関係といった様々な切り口で分析し、効率化につなげることができます。
田中:BtoB×SaaSプロダクトの数はここ数年で増加し、資金調達や上場のニュースもたびたび目にするようになりました。市場自体が伸びている領域である一方、機能開発のスピードなども相まって、他社との差別化が難しくなっているようにも見えます。藤原さんはどのように感じていますか?
藤原:おっしゃる通り年々プレーヤーが増え、お客様側から見たときに、プロダクト間の違いがわかりにくい状況になりつつあります。当社ではこうした状況も踏まえて、TeamSpiritの機能を使ってどのような世界を実現したいのか、というビジョンを意識的に提示するようにしてきました。
当社の理念は「すべての人を、創造する人に。」であり、TeamSpiritを通じて働く人の創造性を高めたいというビジョンを持っています。具体的には、効率化によって生み出した余剰時間を、未来を創造するために投資しましょうと呼びかけているんです。効率化のためのツールは数多くありますが、その工程を通じて「創造する人を増やす」というビジョンに向かっていることが、当社のオリジナリティだと思います。そういった違いを言語化して、すべての施策をそこに寄せていくようにしています。
田中:なるほど。私たちはSaaS領域の支援をさせていただくことも多いのですが、今後SaaSのPR・ブランディングにおいては、御社のようにビジョンやベクトルの違いを明確に提示していくことが重要になるのではないかと考えています。初期段階では機能だけを見て比較されたとしても、検討プロセスに進んでいくと、プロダクトの世界観や目指している方向に共感できるかどうかがより重視されるのではないでしょうか。